♯43 日本へ





 日本への旅行当日。皆は城の大広間に集まっていた。


 ロキとルナの姿も見えた。皆一様に大きなバッグを足元に置いていた。


 「荷物多すぎだろ、みんな」


 ハルマキは硬貨を入れる袋を腰に付けているだけで、荷物は持っていなかった。


 「下着くらい持てよ、アホ」


 「うっせぇな。アニスのバッグに下着だけ入れて貰ってんだよ」


 火花を散らすダンテとハルマキを他所に、リディアとアニスは談笑していた。


 「とても楽しみです」


 「えぇ。ま、あいつの案内だから何が起こるか分からないけどね」


 ダンテとのにらみ合いに決着がついたハルマキは、皆に説明を始めた。


 「みんなラフな格好をしてるな」


 男らは布のズボンに布の上着。女性陣はスカートに絹の上着を着ている。ジャンヌだけは布のズボンを履いていた。これなら日本に行って周りと浮くことはないだろう。どこかの外国人だろう、と終わる筈だ。




 



 「まず、金が必要だ。質屋に行って金貨を20枚換金する」


 金貨20枚。日本円にすれば20億の価値があるのだが、日本ではそれ程の価値はないだろう。


 「金が手に入ったら、お前らの気になった所に行く。質問はあるか?」


 ダンテが手をあげた。


 「ハルマキにムカついた時はどうしたらいい」


 「そん時はかかって来い。返り討ちにしてやるがな!」


 ハルマキの体から炎が吹き出した。


 「あっついから止めて」


 アニスの一喝でハルマキの炎は消えた。


 「あと、魔法は禁止な。高く跳ぶのも物凄い速さで走るのも禁止な」


 皆は頷いた。


 「それじゃ、行きますか。女王」


 「はい。では、皆さん。日本へ参りましょう」


 アニスは杖を懐から取り出し、空間に穴を開けた。








 生暖かい空気と喧騒の中、ハルマキは深呼吸をした。懐かしい空気だ。駅のガード下に、ハルマキ、アニス、リディア、ダンテ、ジャンヌ、ロキ、ルナの7人は無事に日本へと辿り着いた。


 皆は周りをキョロキョロとしている。走る車輪が付いた箱、部屋の中が明るいパン屋。見たこともない服装をした忙しそうに歩く人々。


 「本当に違う、全部違う」


 アニスは驚きを隠せなかった。


 「ここは知ってる場所だ、移動しよう」


 ハルマキを先頭に皆が歩き始めた。そしてすぐにエスカレーターの前に立った。


 「階段が……。動いている」


 ロキが目を見開いている。


 「タイミングずれると危ないから、一人づつゆっくり乗れ」


 ハルマキがまず一歩踏み出した。4年ぶりのエスカレーターだ、多少勇気が必要だった。ハルマキは無事にエスカレーターに乗った。ふぅ、と息をついた。


 ダンテ、リディアと順番にエスカレーターに乗り込む中、アニスだけは立ち往生した。


 「怖いのか?」


 ハルマキはニヤニヤした。


 「私は階段使うわ」


 アニスはスタスタと階段を駆け上がった。皆より早く二階に到着した。


 「なによ。階段の方が速いじゃない」


 勝ち誇ったようにアニスは腰に手をあてた。ルナは楽しそうに言った。


 






 「これ面白いですぅ。もう一回やっていいですか?」


 リディアは笑顔で頷いた。ルナは跳んで喜び、そのまま階段を全段抜かして着地した。


 「ルナ!日本でそれは禁止な!」


 階段やエスカレーターを利用していたサラリーマンたちがルナを凝視している。


 ハルマキは冷や汗を掻いた。リディアに声をかけられた。


 「これはどういった魔法で動いているのですか?」


 「魔法じゃなくて、この世界には電気ってのがあって、それで殆どの機械が動いてる」


 リディアは全く分からないといった表情を浮かべた。ダンテが眉間に皺を寄せた。


 「なんだ電気って」


 「雷だ」


 雷の魔法ならこの場にいる殆どの?が使える。だが、雷で物が動くなど聞いたこともない。


 


 

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