♯38 神の名
遡ること少し前、平原の外門。リディアとロウはただ祈りを捧げていた。
リディアはロウに予言の事で気になることがあり、話しかけようとした時、疾風のように駆け抜けた者がリディアとロウを突き飛ばした。
起き上がるリディア。
「私の事が嫌いなのですか。カムイさんは」
カムイに意味もなく突き飛ばされたのはこれで二度目だった。しかし、その瞳には感謝が浮かんでいた。
「もう一度、セロリアをお救い下さい」
ハルマキらはリュークと向き合って動かなかった。いや、動けないのだ。果敢に斬りかかりリュークの弱点を必死に探しているのだが、負傷してまた距離を取るだけだ。
皆が思考をフル回転させていたその時、後方から声がかかった。
「二つ名が揃いも揃って情けないな」
皆がカムイに振り向いた。
「よし!神の名を持つ三人が揃った!」
ハルマキは喜んだのだが、三人が揃うと何が起こるのだろうか。
「で、三人でやれば倒せるの?」
ローズの言葉に皆は俯いたり首を傾げたりした。
ハルマキは剣を構えた。
「とりあえず、三人でやってみよう」
ハルマキ、カムイ、ローズはリュークに斬り込んだ。だが、先程と同じ結果が待っていた。三人は爪で切り裂かれ、殴られ、蹴り倒された。
よろめきながら立ち上がる三人。何かとり憑かれたかのようにリュークに立ち向かった。
三人の体に深い傷が増えてゆく。ダンテは叫んだ。
「もうやめろ、死ぬぞ!」
三人はこちらを見向きもしなかった。
やがて、三人は立ち上がる気力も尽き果て、地に倒れた。
「ジャンヌ、なんとかこいつらを逃がすぞ」
リュークはダンテの前に立った。ダンテの額に一筋の汗が流れた。
「ジャンヌ。女王陛下を頼む」
ダンテは腹が陥没する程強く殴られた。壁に激突し、倒れた。瞼が開いたまま動かなかった。ジャンヌは魔法でダンテを覆った。ダンテは呼吸をしている様子はなく、心臓の鼓動も感じられなかった。
「許さない……。お前だけは許さない!」
ジャンヌは修羅のような形相で激しく魔力を昂らせた。地を蹴った。リュークの反応速度を越えて銅を斬った。
リュークから初めて鮮血が吹き出した。
ジャンヌは顔を殴打され、気絶した。
「これで終いかの」
リュークが言ったその時、ハルマキ、カムイ、ローズの三人の体が光を放った。
リュークはトドメを刺すべく、ハルマキの顔面を踏み潰そうとした。しかし、踏みつけた脚が膝より下が吹き飛んだ。
三人はゆっくりと立ち上がる。そして、体から発する光が消えたと同時に鎧を身に纏っていた。
ハルマキは竜の顔が象られた深紅の鎧。カムイは悪魔の顔が象られた漆黒の鎧。ローズは死神の顔が象られた白銀の鎧。
ハルマキはダンテを見た。
「ダンテ」
応答はなかった。ハルマキはリュークに向き直った。
鎧を纏った三人は、リュークにゆっくりと近付いた。
リュークはハルマキの銅に爪を突き立てたのだが、爪は粉々に割れた。
リュークは自身が放てる最大の魔法を今度はローズに向け放った。だが、またしても鎧に触れた瞬間砕け散った。
リュークの表情が不安と絶望の色へと変わった。
「頼む、助けてくれ!100万の魂を冥界に送れなければ、わしはどうなるか……!頼む、頼む」
三人の剣と鎌がリュークの体に突き刺さった瞬間に、リュークの体は砕け散った。
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