♯35 赤い幻影








 進軍する兵士達を踏みつけるように、3メートルの巨大な二体の鬼が空から降ってきた。


 手にしたこん棒で、次々と兵士を潰してゆく。


 不味い。ハルマキは咄嗟に叫んだ。


 「無駄に兵士が死ぬだけだ!俺たちの事はいい、引き返せ!」


 皆も一様に引き返せ、と叫んだ。


 兵士がそれに気付き、前線で戦う兵士を見て断腸の思いで踵を返した。だが、三体のカラスのような魔物に先回りされていた。手には巨大な矛を携えている。兵士が矛で両断されてゆく。 

 

 前と後ろに強力な魔物。もはやこれまでかとリディアは膝を崩した。









 リディアの瞳からは大粒の涙が溢れでる。


 このままでは兵士は数時間と経たずに全滅してしまう。ロウも困ったように眉間に皺を寄せていた。


 「リディアよ。お主だけでも逃げなさい。わしが時間を稼ぐ故」  


 その時、後方から声がかかった。  


 「どうやら、間に合わなかったみたいだね。じゃあ、帰ろっか」


 ローズとファントムローゼが姿を見せた。


 リディアは声をあげて泣いた。


 「おいおい、僕は敵だよ?分かってんのかな。君の首は僕が戴く。それに、この世に悪は二つもいらないんだよ」


 ローズは戦場を見据えた。


 「強いのは5体か。……僕は前線のデカイのをやる。君たちは蝿だか蚊だか……。なんだろうね、あれ。まぁあれを殺ってきなさい」


 ローズの眼から凶悪な殺意が放たれた。ローズとファントムローゼのメンバーは疾風のように標的の元へ走った。



 前線。二体の鬼は容赦なく兵士を葬ってゆく。こん棒を振り上げたその時、赤い影が足元に現れた。


 「足もらうねー」


 凶悪な鎌によって鬼の両足が切断された。


 「君、どんくさいね。首もらってるからね、気付いてる?」


 鬼の頭が胴体から離れた。


 もう一体の鬼がローズに向かってこん棒を振り上げた。だが、五体はバラバラに切断された。

 

 「もう言うこと無しって感じ」


 ローズは後方の三体のカラスがファントムローゼによって倒されたことを確認した。


 ローズは魔物を鎌で両断しながらハルマキらがくくりつけられている十字架の元へ駆けつけた。


 5日間飲まず食わずでいたため、5人は酷く衰弱していた。


 「助けてやってもいいんだけどさ」


 ローズは凶悪な笑みを浮かべた。


 「君とカムイ君でまた僕と戦ってよ」


 「あぁ、いいぜ。早く鎖を切ってくれ」


 ローズは皆の鎖を断ち切った。


 「悪いけど、自分で歩いてね」


 ローズは歩きだした。だが、体が重い。


 「なにやってんの?君たち」


 5人はローズにしがみついて離さない。


 「このまま引きずってけ」


 「うーん」


 ローズは拳に顎を乗せてしばらく考えた、そして。ハルマキの首根っこを掴み、リディアとロウがいる場所目掛けてぶん投げた。


 「人間砲丸だぁ!着地ミスったらぐっちょぐちょだよ?」


 ロウは突然空から降ってきたハルマキを魔法で受け止めた。


 「あと4人くる!頼んだ!」


 ローズは次々と人を砲丸のように飛ばした。そしてアニスの首根っこを掴んだ。


 「ちょっと待って!私は無理、絶対無理!」


 ローズはニヤニヤしていた。はぁ、終わった。アニスは諦めて砲丸のように飛ばされた。









 「アニスたちは救出しました。一旦退却しましょう」


 捕らわれていた5人の体力と魔力はロウによって元に戻っていた。リディアは二つ名を揃えて再びリュークに挑もうとした。


 「いいのかな?それで」


 ハルマキはローズに聞いた。


 「どういうことだ」


 「次戦う時に僕は居ないと思ってね」


 ローズの気まぐれは度を超えている。ならばローズがいるうちに決着をつけられないか。


 ロウが口を開いた。


 「ローズとハルマキ、そしてカムイは絶対に必要じゃ」


 ロウは予言の内容を説明した。


 「ふーん。でも僕は今日だけだからね。それ以上は待たないよ」


 あとはカムイが来てくれるのを待つだけか。リミットは今日。ローズが帰る前にリュークを討たなければ。


 


 


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