♯31 甦る悪





 兵士たちが食堂になだれ込んできた。見開いたその目は血走っていた。


 「伝令!全方向より何かの大群が空と地上から城に向かってきています!」


 皆は椅子を投げ倒して展望台へ上がった。


 黒い無数の点の塊が、城を囲むようにこちらに近付いてくる。


 「敵の兵力は分からないが、数からして平原で戦うのは得策じゃない。籠城したいが、兵士は100万いる。半数を地下から脱出させて、半数を一階の大広間に待機させる」


 ダンテは必死に頭を絞った。


 「待て、チャラ男。籠城しても勝ち目はないと思うんだが」


 ダンテはふっ、と笑った。頭に血が上っていたらしい。


 「籠城は逃げ場が無くなる。それにあの数を相手にしたら、二つ名が何人居ようが容易に落とされる。俺が残る。なるべく引き付けるから、上手く地下から逃げてくれ」


 これにハルマキが賛同した。


 「いい案だ。俺も残るけどな」


 次いでジャンヌが剣を抜いた。私も残ると言いたいのだろう。


 「二つ名が三人か。いい囮になるな」


 「待って」


 アニスが言った。


 「私も残るわ」


 「アニス。あなたまで……。」


 「みんながついてるから、大丈夫よ」


 ダンテが兵士に叫んだ。


 「お前ら全員、地下から脱出しろ!女王陛下の指揮に従え!」


 兵士たちはぞろぞろと地下へ通じる通路を行進した。リディアは心配そうにこちらを振り向いた。


 やがて、100万の兵士と女王の姿は見えなくなった。


 静寂に包まれた城の中、一人の騎士が柱の影から出てきた。


 「俺も残るぜ」


 「ギアン!お前、どうして」


 「今の俺はセロリアの騎士で、お前の友達だからな」


 ハルマキは込み上げるものを感じた。魔力がふつふつと込み上げてくる。


 「この5人でなるべく時間を稼ぐんだな?」


 「あぁ、そうだ」


 戦闘中に地下へ逃げれば、敵に地下の存在が気付かれる。5人はこの大広間で運命を共にしなければならなかった。








 「敵の姿が確認できたぞ」


 展望台で敵の動きを監視していたギアンが、大広間へ降りてきた。皆は展望台へ上がった。


 数万、数億ともとれる数の敵の容姿が確認できた。数キロ先まで迫ってきていた。


 「魔物か」


 地上には悪魔のような風貌の兵士。空には翼の生えた鋭い爪をもったガーゴイルが。


 「数分後に到着しそうだな。戻るぞ」


 5人は決戦の地である大広間へ戻った。








 窓ガラスが破壊される音を発端に、入り口からは悪魔の兵士が、窓からはガーゴイルが押し寄せてきた。


 アニスとギアンを囲むように、二つ名の三人は構えた。


 ハルマキは悪魔の兵士に斬り込んだ。兵士はうめき声と共に真っ二つとなって地に崩れた。


 ジャンヌは盾で初撃を防ぎ、ガーゴイルの胴を絶った。


 ダンテがツーハンドソードで次々とガーゴイルを斬り伏せてゆく。


 


 三人は無心に戦った。圧倒的な敵の数だ、隙があればやられてしまうだろう。


 ハルマキは突然、炎の翼を出現させた。自らの魔力で敵の群れを押し出した。


 「ちょい休憩!」


 ジャンヌ、ダンテは肩で息をしている。


 「助かったぜ。はぁ」


 ダンテは柱に背を預け、座り込んだ。


 「ハルマキ。その魔法はどのくらい持つの?」


 アニスが問いかけた。


 「1分くらいかな」


 「充分だ」


 ダンテが立ち上がった。


 「もういいぜ。さっさと始めよう」


 ハルマキは魔法を解除した。


 再び三人は激闘を繰り広げた。








 どれくらい魔物と戦っただろう。三人は集中力を欠くことなくひたすら剣を振るった。


 そして、敵の攻撃の手が止まった。


 「なんだ」


 「まだ気を抜くな」


 三人は剣を構えたまま、急に止まった敵の動きを監視した。その時、敵の群れが割れた。その中心から一人の魔物が歩んでくる。


 鋭利な爪と漆黒の翼。この者が魔物の指揮者なのか。


 「久しぶりだな、ハルマキ」


 その魔物が言った次の瞬間にハルマキの懐に潜り込み、爪で腹を突き破った。ハルマキは呻きと共に地に崩れた。


 ダンテとジャンヌが斬り込んだのだが、胸を大きく裂かれた。


 「わしを冥界の淵に送った貴様らは許さん。じゃが、一番許せぬのはリディアじゃ。あやつの首を切り裂いて、わしが再び王となる」


 「お前……。リュークか」


 薄れ行く意識の中、ハルマキは投げかけた。


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