♯23 エルフの少年






 ハルマキはアニスと店兼自宅を生活の拠点としている。アニスはリディアの補佐官としてかなりの給料を貰っているし、ハルマキもギルドで貯めた金貨が大量にある。店の売上はほぼないのだが、生活には余裕があった。


 二階には客室と自室、アニスの部屋を含めて部屋は7つある。寝室からハルマキが起きてきた。


 「おはよ」


 「はよう」


 ハルマキは店の椅子に深く腰掛けた。


 テーブルの上に置いてあるサンドイッチを頬張った。


 「買い物はあるか?」


 「ないわ」


 ハルマキはつまらなそうにこの世界の雑誌を手にした。写真ではなく、版画がされている。


 「エルフって居んの」


 「居るとされてるけど、見た人はいないわ」


 森の奥でひっそりと暮らすエルフ。そのエルフが作る薬は万病に利く。そんなことが書いてある。


 





 いきなり入り口の扉が開いた。


 ローブを頭からすっぽり被っている。かなり小さい。


 「いらっしゃい」


 ハルマキが言った瞬間に、子供は倒れた。


 アニスが駆け寄り、回復魔法をかけた。酷く衰弱していたようだ。更に疲労回復の魔法を使った。


 子供は起き上がり、ハルマキが食べ残したサンドイッチを口いっぱいに放り込んだ。


 ハルマキは急いで飲み物を用意した。子供がそれを飲み干した。アニスはテーブルに着かせ、その間にハルマキはパスタとピザを作った。


 テーブルの上に料理が並ぶと、子供は全て平らげた。


 「お前、名前は?何があった」


 「ハンス。……食事をありがとう。ハルマキを知ってるか!?」


 ハンスは勢い余ってフードが外れた。尖った耳、青白い肌の少年だった。


 「ハルマキは俺だけど、もしかしてお前」


 ハンスはフードを急いで被った。


 「あんた、エルフよね」


 







 「俺はエルフじゃない。……お前ほんとにハルマキなのか」


 「あぁ。魔力で分かるよな?」


 たしかに、この男はただならぬ魔力を秘めている。


 「私たちを信用してみない?力になるわよ」


 ハンスはしばらく俯いていた。


 「分かった。……俺はエルフだ。里がファントムローゼって奴らに襲われそうになってる!今は結界で守られてるけど、長くは持たないって。だから!」


 ハルマキはハンスの頭に手を置いた。


 「アニス、ファントムローゼって聞いたことあるか?」


 「いいえ、ないわ」


 ハルマキは剣を腰に差した。


 「エルフの里に行く」


 アニスは呆れた。


 「言うと思ったわ」


 その時、再び入り口の扉が開いた。追っ手かと思ったが、見知った顔がそこにあった。


 「ハルマキ。約束を果たせ」


 ハルマキはロキとの約束をすっかり忘れていた。戦争に参加する条件として、いつでも戦うことを条件としていた。


 


 


  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る