♯22 はじめての試合





 ステージにはトーナメントを勝ち抜いた三名が立っていた。リディアとアニスは城の踊場から、ジャンヌ、ダンテ、ハルマキはステージの脇で見ていた。


 「さぁ、これより伝説の者たちと厳しいトーナメントを勝ち上がった者たちによる試合を始めます!」


 魔法で拡張された司会の声が会場内に響き渡った。割れんばかりの歓声がまきおこった。


 「おい、チャラ男」


 「なんだ、アホ」


 「好きに戦っていいんだよな?」


 「殺さない程度にな」


 ハルマキは久しぶりの戦いを楽しむつもりだ。


 「それでは、第一試合を始めます!ナーズ!対戦相手は……。二つ名は戦姫、ジャンヌ!」


 更に拍車をかけるように歓声が響く。


 「負けたら一年おやつ抜きな」


 ダンテの言葉に戦姫の体から魔力が放出した。瞳に炎が宿った。


 「ちょ、ちょっと待てジャンヌ!冗談だから」







 ジャンヌはステージに舞い降りた。


 試合の相手はナーズという中年の槍使いだ。


  「それでは、試合を始めます!レディ、ファイ!」


 ジャンヌはステージがめくれる程強く地面を蹴った。そのまま盾を構え、ナーズに激突して場外へ吹き飛ばした。


 観客はしばらくあんぐりしていたが、やがて大歓声へと変わった。


 「これが我が国が誇る最強の騎士の力だ!善戦したナーズにも拍手を!」


 会場にやってきた客の数はおよそ1万5千人。一斉に拍手をすれば、空気が揺れる。


 「さぁ、次の試合だ!リカ!対するは現在なんとランク1位の正真正銘最強の剣士……。ハルマキ!」


 「せいぜい負けてこい」


 「まずはお前と決着をつけてやろうか?」


 二人の間に火花が散った。


 「あ、あの、ハルマキさん。ステージへお願いします」


 困り果てた司会の言葉を受け、ハルマキはステージに上がった。会場から声が漏れた。


 「あれがリュークを討ち取ったハルマキか。まだ若いな」


 「ランク1位、どんな戦いをするんだ」


 「それでは第二試合、レディ、ファイ!」









 リカはじりじりと間合いを詰めてきた。双剣使いのようだ。


 対するハルマキは剣を構えもせずに動かなかった。


 リカは間合いギリギリの位置に立った。これ以上間合いは詰められない。


 ハルマキは一歩足を伸ばした。リカは後方へ大きく退った。


 「これじゃ試合にならないな。本気で来いよ」


 リカの体から魔力が放出した。地面を蹴り、ハルマキに向かって飛んだ。


 二本の剣は、ハルマキの指先で止まった。


 「これが私の本気よ……笑う?」


 「いや、俺を本気にさせたな」


 ハルマキの背中から炎の翼が生えた。


 「ありったけの魔力で防いでみせろ」


 リカは防護壁を何重にも重ねた。


 ハルマキは手のひらをリカに向けた。手のひらから炎の球体が現れ、リカ目掛けて飛んだ。


 ステージが激しい爆発に耐えきれずに崩壊した。リカは場外へ吹き飛ばされた。


 リカは焦げた服や髪を整え、ハルマキに一礼した。


 「勝者、ハルマキ!」








 ダンテの試合も無事に終わり、王国復活祭のメインイベントが終わった。


 残すは戦争に参加した者たちとの会食のみだ。


 皆は城の食堂へ招かれた。


 「よっ、ルナ。まだお前だけか?」


 食事にがっつくルナに声をかけた。


 「ふぁい、そうでふ」


 人のことは言えないが、セロリアの人間は時間にルーズだ。何しろ時計というものが無いのだから。


 そして2時間程経ち、カムイ以外ようやく全員揃った。


 「皆様、お忙しい中お集まり頂き、感謝します」


 「俺は暇だったけどな」


 「私もですぅ」


 リディアは笑みを浮かべた。


 「王国はようやく、前に進めるようになりました。皆さんから預けられたこの国を、私は衰退させる訳にはいきません。そしてもし、また争いが起こったら、また私に力を貸して頂けますでしょうか」


 「当たり前じゃないかい。あたしとお前は姉妹だよ!」


 「暇過ぎて死にそうだから、そん時は是非呼んでくれ」


 「おいしいご飯の恩は忘れません」


 ダンテが顔を手で覆った。


 「約二名アホがいるな」




 


 

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