♯12 華の剣






 ハルマキは再びユグトに到着した。傷がまだ癒えぬまま、街道を歩いた。


 「お兄ちゃん」


 子供が声を掛けてきた。鬱陶しい。


 「なんだ、邪魔だ」


 女の子は首をかしげた。


 「なんで泣いてるの?」


 指先で目元を触った。確かに泣いているようだ。


 「ねぇ、見てて」


 そう言って女の子はお尻を突き出した。


 「ぷっぷっぷー、ぷっぷっぷー」


 「ぶっ、はっはっはっ」


 親切にしてもらった町人を皆殺しにした帝国は許せない。許すつもりはない。進軍する兵の存在に気付かなかったことへの罪滅ぼしが出来るとすれば、帝国を終わらせる事だ。ラズナの人達もきっとそれを望んでいる筈だ。


 「お兄ちゃん笑ったぁ」


 「あまりにくだらなかったからだよ。あと、お前女の子ならそういう下品なことはするな。……ありがとな」


 ハルマキの瞳に炎が灯った。俺は、俺たちは必ず帝国を潰す。







 ハルマキは次なる二つ名を探すため、ローグの町へ辿り着いた。恐らくこの町に居る。肌をつく程の膨大な魔力の持ち主が。


 「魔力がデカすぎてどこに居るか分かんねぇな」


 ため息の後、手当たり次第に探す道を選んだ。


 「すいません、あの、この町に二つ名居ますか?」


 「いやぁ、知らないね」


 町人に声をかけて回ったが、全て空振りだった。


 そこで目視に頼ることにした。魔力を見て、辿れば着く筈だ。


 ハルマキはひたすら魔力を見ながら歩いた。


 数時間歩いた後、ようやく魔力の主を確認出来た。


 「よぉ。お前、二つ名だろ?」


 灰色の髪の若い男だ。武器は持っていないようだが。


 「あぁ」


 これ程の魔力だ。聞くまでもなかったか。


 「俺はリディア女王の指示で二つ名を探してる」


 「女王は生きていたのか。……俺は争いのない世界に興味がない。他をあたれ」


 リディアは当時民から女神と言われた程愛に満ち溢れた女王だったと聞く。リディアが玉座に付けば、大きな争いは起こらない。ハルマキのたった一言でそれを考えたのか。


 「じゃあ、平和になっても俺とカムイで定期的に戦ってやるよ」


 男はしばらく沈黙して、口を開いた。


 「俺は華剣カケンロキ。二言はないな」


 とんだ戦闘狂だ。


 「あ、俺は」


 「ハルマキだろ。魔力を見れば強さの程は分かる」


 「はは」


 





 ハルマキはリストを見た。華剣ロキ、5位。月影ルナ、4位とあった。ルナはロキより強かったのか。


 「じゃあ、戦争近くなったら鳥で知らせるから」


 「待て」


 嫌な予感がした。


 「俺と戦え」


 嫌な予感が的中した。


 「ま、仕方ないな。飛竜乗ってて近くに荒れ地あったのが見えたから、そこでやるか」


 カムイ以外の二つ名と戦うのは初めてだ。ハルマキは期待と不安が交ざった高揚感に見舞われた。








 

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