家族写真
父は、昔カメラマンだった。
姉が生まれる頃に、土日休みの仕事に変えたという。
それからもカメラが趣味で、家族旅行の度に写真が増えていった。
幼い私は、ませた顔で写っている。
赤地に白い水玉模様のお気に入りのワンピースを着て、少し首をかしげ、顔の前でピースサインを作っている。
あの頃は、進んでカメラに向かってポーズをとっていたように思う。
しかしある時を境に、写真に撮られることが苦痛になった。
いじめ、といっても、仲間外れや身に覚えのない噂話など、順番にまわってくる小学生特有のものだったが、自信をなくし、消えてしまいたいと切に願うようになるには十分な行為だった。
写真は楽しい思い出を残すためにある、というイメージを持っていたので、私には写る資格がないと思っていた。そもそも、そんな自分を写真に残すのも嫌だった。
姉と私が大きくなるにつれ、自然と家族旅行はなくなった。
たまに家族で近くの観光地にでかけても、揃って写真に納まることはなく、それぞれが思い思いに自分のスマートフォンで景色を撮っている。
家族写真のほとんどは、滅多に開かれることのない分厚いアルバムに眠っている。
それなのになぜか、リビングに一枚だけ飾られている家族写真がある。
20年ほど前に近所の写真館で撮ったそれは、今でも色褪せることなく、ただ確かに過ぎ去った時の長さを感じさせる。
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