第3話

 まさかその場に座り込むとは。

 予想外のことに僕は気が動転して踵を返して女性から遠ざかろうとした。が、3歩目を踏み出したところで、もしかしてここで逃げ出したら却って怪しまれて通報されるなんてことになるんじゃ・・そう思いとどまったのだが、ちょうど片腕の肘を地面と垂直になるくらいに、反対側の足の裏が天に向きそうなくらいに上げたところで姿勢が止まってしまったため、これってなかなか間抜けなポーズなんじゃと気づいたくらいには俯瞰して見れるようになっていたのかもしれない。その女性もどうやらはじめは驚いてへたり込んだようだが、私の服装がただの運動着なのと私のポーズに緊張感ないのとをみて、しだいに落ち着いてきたのかこちらに顔を向けてきた。

 やはり、女性は少女だった。

 早朝のまだ日の昇りきらない薄明かりに白色電灯の光が加わり、上気したように赤くなった彼女の頬が10歩ほど離れた僕の目を数秒奪った。見かけたとき彼女の茶系の色した前髪がその顔を隠していたのだがこちらを向いたときに少し横に流れたのだろう、長いまつげの下には髪の色よりさらに明るい茶色の大きな瞳が見てとれ、彼女の幼さを強調しているような気がした。

 呆けていた僕の姿が彼女にはどう見えたのだろうか、ハッと気づいたころにはその顔は見えず、たたっと走り去る彼女の後ろ姿だけが視界に残されていた。

 「なんだか僕が不審者になっちゃったなぁ」

 そう口からこぼし、もやっとした気持ちを抱えたままふたたび出口に向かいだした。頭上を照らす白色電灯の明かりは変わらず強く、自分の影がくっきりと歩道にうつっているのを見てとりいつもの道へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

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白パン二つ、ミネラル一つ 銀輪2号 @Gin_Rin2go

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