第十八話 VSドラゴン、熱い戦い!
「あの高台が見えるか?」
アヤノが指差す位置には不自然に積み上げられた岩石の小山があった。
「竜の巣だ」
到頭、ラスボスまで辿り着いてしまったようだ。
なるべく早急にペリアを助けるべく、アヤノとジミオは高台を目指す足取りを早めた。そして、なぜか四人の子供達も彼らの背中を追ってくる。
「おい、お前らここは危ないぞ。来ちゃダメだ」
ジミオは彼らを送り返そうと森の方を指差して指図するが、子供達は聞く耳を持たない。
「おれいする。てつだう」
黒髪の少女は引き下がるつもりはないらしい。
「放っておけ。共に行きたいのならば勝手についてこさせろ」
「アヤノ、こいつらには危険すぎるだろ」
「少なくとも、お前よりは生存して出れる可能性は高そうだがな」
確かにジミオがこの子供達には力で遠く及ばないことは既に判明している。
「……って、ちょっと待て。それじゃ俺が死にに行くみたいな言い方じゃないか。俺は無事に生きて帰れるんだよな?」
「無論だ。私は契約を必ず果たす」
「なら生存率とか言うなよ」
「それは、あくまでも私が居なかったらの話だ。心配せずともお前とその子供達の命は私が守り抜く」
アヤノはくるりと振り向き、短刀を鞘からさっと抜いた。
「とは言え、わざわざ面倒ごとを増やす必要は無いか」
「え、ちょっと待……」
アヤノは突然に子供達を剣で斬りつけ、各頭から髪の毛を何本か跳ね飛ばす。年からして、まだ禿げる心配はないだろうが、子供達は悲鳴を上げながら散り散りに去って行った。
「少し乱暴すぎないか?」
「効率が良く退けられた。これで問題無い」
相変わらずの効率主義だ。少しは常識感を持って欲しいな、とジミオは思った。
その後、二人は崖をよじ登り、ついに竜の巣へ到着した。
不自然に積み上げられた岩石の欠片、空気を漂う少し焦げた匂い、紛れもなくここは竜の巣である。
「作戦を立てる。私が竜の注意を引きつけている間にお前は奥へ侵入し、ペリアの位置を特定しろ。もし見つかったら――」
アイテムボックスから黒光りしている、小さくて丸い物を取り出した。
「これを地面に叩きつけろ。割れると大きな音が鳴る。そこへ私が駆けつけて、三人で脱出する。竜を倒すのはペリアが復帰し、戦力が十分に備えられてからの方がいいだろう」
「わかった」
「くれぐれも竜に察知されないように気をつけろ。では、行くぞ」
アヤノの後を追い、ジミオは洞窟の中へと足を進める。内部は外見に反して大層奥深く、進んでいくと入り口から射している光が少しずつ薄れていく。
「ふーはっはっ! 愚かな人間よ」
背骨の芯を揺るがす、深く低い声。だが、竜の姿はどこにも見当たらない。
「貴様らの過去の愚行は決してゆるゆるゆるゆるゆるされぬ。命がおしおしおしおしいのならば、直ちにここを立ち去れれれ」
調子が悪い日に訪ねてしまったのだろうか。盛大にセリフを噛んでいるみたいだ。
「私が奴を誘い出す。お前は岩陰に隠れて先へ進む好機を待て」
言われるがままジミオは適度に大きな岩に身を隠し、息を殺しながら堂々と進むアヤノを見守る。
「竜よ! 私は貴様を狩りにこの場へ赴いた! 姿を現せ!」
竜の注意を引くために、アヤノは挑発的な発言をした。
「ふーはっはっ! おろおろおろおろかな人間よ」
おろおろしているのは竜の方である。アヤノは声が発せられている場所を聴覚で特定したらしく、短刀を前に構えて正面の岩を飛び越えた。
「貴様らの過去の愚行は決してゆるゆるゆる――」
――ガシャン!
「……」
竜の声が収まったが、あれは生き物を潰す音にしては固すぎる。アヤノは何か別の物を仕留めたのだろう。
「ジミオ、出てこい。竜はこの場にいない」
アヤノの足元には、表面が砕かれて使い物にならなくなった奇天烈な機械が置かれていた。
「蓄音機。シフェルトの学者が近年開発した、最新の化学技術を用いた代物だ」
「てことは、この洞窟は人が作った罠じゃ……」
「確かに蓄音機を作るには人間の技術が必要だ。だが、この洞窟を現代の建築技術で建てるのは不可能。よって竜自体は存在する」
となると、これは竜と人間による共同行為と結論づける他ない。
だが竜と人間の間に、友好的な関係が存在するなどは信じられない。彼が学んだ歴史では竜は人間と長年戦争し、敗北したのち絶滅寸前まで追いやられ、人間に憎しみを抱きながらも隠居生活を強いられていた。公に出て、人間と共に生活するような存在では無いのだ。
「遠い過去に作られた竜の巣を人間が活用している可能性もあるが、私達は既に竜と対面している。何らかの関連性がある可能性は極めて――」
アヤノが言い掛けた時だった。
「ただいま。誰もいないが、つい癖で言ってしまうな」
深淵のように深い声が轟く。
のしのしと大きな音を立てながら、その強大な身体を運んでいるのはドラゴンだ。
「私が奴を引き受ける。お前は予定通り、奥まで調べに行け」
アヤノは竜とは反対の方角を指差し、さっさと行くようにジミオを促す。
「一人で大丈夫なのか?」
「お前が居ても、結局は一人だ」
流石にこれには返す言葉もない。ジミオは大人しく待っていることにした。
颯爽と岩に飛び乗り、アヤノは大声を放った。
「竜よ! 貴様を討伐する!」
「おお、黒服のお方。丁度良かった。給料の振込みについて尋ねたいことが少しあるのだが……」
「くらえ!」
竜が何やら怪しげな話術で、こちらを惑わそうとしているが御構い無しに戦闘を始める。
アヤノが竜に飛びかかると同時にジミオは地面を蹴り、ペリアを探しに洞窟の奥深くへと向かった。
「な、何をするのだ!」
巨体とは思えない軽い身のこなしで竜はアヤノの短刀を避けた。
「問答無用!」
次々と攻撃を続けるアヤノを間一髪で躱しながら、竜らしからぬかわいい悲鳴を上げ、ドラゴンはジミオの後に続いて洞窟の奥へと逃げ込む。
「アヤノ! 注意を逸らすんじゃなかったのか!?」
物凄い勢いで後方から迫ってくる竜を見てパニクるジミオ。
「そこの人間! 我を助けてくれ!」
おぞましい牙を生やした強面でそのような事を言われても冷静に話を聞けるはずがない。ジミオのダッシュススピードは一層増し、珍妙な鬼ごっこが始まってしまった。
だが、最高速度の問題でアヤノがあっという間に彼らに追いついてしまい、竜が壁際に追い詰められる形となった。息切れて倒れこんでしまった竜は、現状が把握できていないのか目を白黒させている。
「わ、我は殺しても構わぬが家族にはどうか手を出さないでくれ!」
「とどめを刺すぞ、ジミオ」
「アヤノ、ちょっと待て! 明らかに様子がおかしいだろ。それに、まだペリアの居所を聞き出せていない」
「それもそうか」
ジミオの言葉に納得し、アヤノは短刀を懐にしまった。
「な、何か我の仕事に問題でも有ったのか? 言ってくれれば何でも改善できるぞ」
竜は相変わらず訳のわからない事を口走っている。
「あ、あの、ドラゴンさん。一つ尋ねたいことがあるのですが」
ジミオは恐る恐る、ドラゴンに問うた。
「なんだ? 何でも訊いてくれ。知識には自信がある」
「先日、妖精のような女の子を連れ去りましたよね? その子をどこへ連れて行ったのか教えてくれませんか?」
「ああ、やはりそれが問題だったのか。すまぬ。あたり一面が真っ黒だった上に、頭がくらくらしていてうっかり別の娘を掴んでしまった。もし必要とあらば、今すぐもう一人の少女を探しに行く。だから許してくれ」
微妙に話が噛み合っていない。
「いえ、そうではなくて、妖精の女の子を連れて行った場所を教えて欲しいのです」
「ん? なんと……?」
竜は怪訝そうに目尻を上げた。
「おお、なるほど、わかった。我の勘違いだったとは……。貴様らはルダイ閣下と関わりのない、一般の人間なのだな。ややこしい服装をして我を欺こうと目論んでいたのか」
急に口調を変えた竜は、なんだか怒っている様子である。
『ピーヒョロリオ〜』
どこからともなく響いてきた聞き覚えのある甲高い笛の音。
「む、真の黒服部隊か。我は助かったようだ」
アヤノは手馴染んだ武器を斜に構えた。またもや何かが来るみたいだ。
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