天才(笑)魔女と悪魔の子

茜色蒲公英

 

ある深い森の中に一人の魔女がいた。

名前はパルマ。

見た目の年齢は子供だが実際は百歳超え。

無駄に大きく黒い魔女帽子を被り、床につくほどぶかぶかな服を着ている。

闇のように黒い髪、黒い瞳は格好付け。

そして自称天才である。

そんな彼女がある日森を散歩していると、大きな木の下で蹲っている、自分より小さな、青い髪をした薄汚れた子供がいた。


「こんな深い森の中にガキんちょ一人で迷子か?薬草を取りに来たにしては何も持っていないみたいだが…ああ、そういうことか」


よく見ると角が生えており、悪魔だということが分かる。


「親は?」


「…」


「無視か…仕方ないねぇ…」


パルマが呪文を唱えると子供は宙に浮き、縦に何度も回転した。


「うわぁぁぁぁ!」


「あっはっは!喋れるじゃないか!ほれほれ、早く何か話さないと今度は横に回すぞ!」


「話す!話すから止めて!」


そう言われるとパルマは回転を止め、地面に子供を置いた。


「うおぇ…吐きそう…」


「ほれ、早く言いな、どこから来たんだい?親は?」


「近くの村から来た…お父さんたちは殺された…」


「へぇ、ということは帰る場所がないってことか。ならこのままじゃ野垂れ死にするってわけだね。じゃあ…」


「じゃあ?」


「私は家に帰るよ、腹も減ってきた頃だしね」


「そう…なんだ…」


シュンと元気をなくす子供。

パルマはその様子を見てニヤニヤと笑っている。


「さーて!今日はきのこと山菜を使ったシチューでも作ろうかねー!」


そういって家に向かって歩き始めたパルマ。

すると子供のいた方向から走ってくる音が。

そしてパルマの背中に何かがぶつかった。

パルマが振り返ると、そこには子供が抱きついていた。


「お願いします…なんでもするので食べさせてください…」


「なんでもっていったね?こき使ってやるから覚悟しなよ」


こうして子供を家に連れて帰り、なんやかんやあって住まわせて十数年。

子供は立派な大人の男性となっていた。

パルマの姿は一向に変わらず、身長は大きく超えられている。


「あんなに小さかったガキが今やこんなにねぇ…時が経つのは早いもんだ」


「そのセリフを言うの何十回目ですか。はい、食後のコーヒーです」


「バーカ、まだ十六回目だよ。…そういやずっとお前のことをガキって呼んでいたから名前なんか聞いちゃいなかったね。今更だが聞いておくか」


「僕の名前ですか?…忘れてしまいましたね」


「はっ!自分の名前を忘れたのかい。仕方ないねぇ…じゃあ代わりに名前でもつけてやろうか?」


「それは嬉しいですね、期待していますよ」


「期待していいぞ、何せ私は天才であり完璧だからな。そうだな…木の下で見つけたからトゥリーだ。うん、これがいい」


「トゥリーですか…はい、非常にいいです。ではこれからもこのトゥリーをよろしくお願いします、パルマ様」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天才(笑)魔女と悪魔の子 茜色蒲公英 @kanohamarin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ