襟巻き
「本当は垣武くんの上履きの中に画鋲の形したチョコを入れてあげよーって思ってたんだけど」
「それは異なる方向で問題になるな」
「じゃあ上履きの形したチョコにしよっかなって」
「僕の足と廊下がベトベトになるぞ」
「じゃあ、もういいや振り切っちゃえって思ってああなったんだよ」
「極端……」
「失礼な、赤道直下だよ」
「熱いって意味で?」
「アツアツですよ」
「くっ、面と向かって言われるとめちゃくちゃ恥ずかしい……」
「頭を冷やして落ち着きなさい」
「あ、ちょっ、僕のマフラーを奪うな、寒い」
「えへへー、垣武くんのぬくぬくでぽかぽかするよー」
「……」
「どしたの?」
「いや、可愛いなーって思って」
「褒めても何も出ないけど、もっと褒めればいいと思うよ。顔から蒸気が出るくらい」
「あんまり表情変わらないじゃないか」
「くふふ」
「くっ、悪い趣味をしている……」
「その趣味のおかげでこうしていられるからいいじゃない」
「そうなのかな――寒いから、そろそろマフラー返して」
「――責任、取ってくれる?」
「今の所、僕には一片も非はないはずだ。無駄に重たい発言は慎んでもらおうかな」
「いやー、無理ッス。それちょっと出来ないッスねー」
「過剰に軽い発言もやめてもらおうか」
「注文が多いよ」
「取り合ってもらえない」
「垣武くんは両手に花が夢なの?」
「滅相もないし、そういう意味じゃないし」
「糸以じゃ不満?」
「――」
いや。いやいやそんなことは。そんなことはない。絶対にない。
「愚問だな」
「ちょっとかっこつけて恥ずかしくなっているのを、糸以は知っています」
「やめろ、明るみに出すな」
「『――愚問だな』」
「真似るな。似てないし」
「似るまでにはどれくらいかかるかな」
どれくらい一緒にいれば、垣武くんの事、もっと分かるかな。
「――分からない」
「うん、私も分からない。似た者同士だね、へへへ」
では、さいなら。軽い敬礼を飛ばすと、内原はいつもの三叉路を右に曲がっていった。
隣が、少し寂しい。
「――あ」
マフラーを取り返し損ねた。遠目にも分かるほど首回りがもっこりした後姿を見ながら思い出す。
携帯の着信が鳴った。
『From:内原糸以
件名:マフラーはいただいた!
本文:風邪引いたら看病してあげるぜ。』
振り返って、こちらに手を振っている人影があった。
のぼせた頭に、夕方の冷気はちょうどよかった。
らぶシューズ めぞうなぎ @mezounagi
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