13撃 憐憫を覚えるには他人事とも言えず

 1.


 くらりと目眩がした。額に手を当てコクリと緊張から喉を鳴らす。


 今、この女は何と言った?


 死んだら前世の夢を見ると言った。僕がそれらしき夢を見たのは直近で二回。それまでは予兆や類似した夢など見たことは無かった。それはつまり───。


「お前は、何度死んだ?」


 乾いた声は、まるで他人のもののように掠れていた。


「数えきれない程、だと思います。」


 自信は有りませんが、と呟く彼女の内心は計り知れない。


「だから物心が着く頃には、過去の地球にいた自分が本物だったと私は疑いもしていませんでした。確信するには十分過ぎる程、きっと赤ん坊の頃から何度も何度も夢に見ました……。天涯孤独な身の上の今こそが刹那の夢だって信じたくなるくらい。私は、私が本物の前世だと信じる私を夢見ていたんです。」


 先程の巫山戯た様子がすっかり消えた声が語るのは。あまりにも重い告白だった。困った様に此方を見る。可笑しいだろうと冗談目化しているのに、どこまでも必死で真剣な彼女を、とても笑う気にはなれない。


「君には悪いが。そんな確信を得る前に天寿をまっとうしたいものだね。」


「出来るならその通りです。でも、貴方も同じ目にあったのでしょう? でなければ、この恐怖はきっと伝わらないもの……。」


 察しの良い女だ。それとも、怯え切った瞳を此方に向けるのは。同族がいて欲しいと、必死に願っているだけなのだろうか。


「幸せな夢に逃げそうになりました。孤独な現実が終われば、いつでもそこに帰れるから。でも、それもあと少しです。貴方に会えて、私が生きる悪夢こそ現実と分かっちゃいました。あと7年耐えれば、きっとホワリリは始まる。かつての私が求めた世界がきっとやって来るから。」


「7年か、まだまだ先だ。」


「ええ、でも17年よりはずっと短いです。もう半分超えてるんですよ? 凄くないですか。」


「そうだな、凄い……。」


 強いな。本当はもっと違う世界で生まれ直したかったろう。それすら許されぬ強制力に連れ回されて、ずっと生きながらえてきたというのに。


「なーんて、エヘへっ。この話を人にするのは初めてです。同じ境遇の人なんてきっといないと思ってたから。まさかそれが鬼ぃ様とは予想外でしたけど。可哀想で、17になった時に手加減してやりたくなっちゃいません? 天国のやさしいモードとか。エルチュロスの援護抜きとか大歓迎ですよ。どうですっ?」


「鬼ぃ様は止めろ。同情しかけた気持ちが萎む。」


 嘘だ。でも慌てるアリアが面白くて、そして哀しいから教えてなどやらないが。








 2.


 いざという時に見捨てたくない人間が、一人増えてしまった。こんなに哀しい目に遭ってばかりの不幸な女を、これ以上孤独な夢に追い詰めるのは流石に忍びない。


「君はもう、あまり死なない方が良い。」


 夢に逃げそうだと彼女は言った。当然だ、寄る辺もなく他人の幸せを羨み続けて。耐えられるほど人間は強くない。


「え、ええ? それは、勿論。痛いのも苦しいのも嫌ですから。あんまり死にたくはありませんけど。でも、まだ子供で。力も全然だから……。」


 またうっかり死んでしまうかもしれないと俯くアリアに。重い溜息を零して頭を振り。


「ハァ……、極悪な魔女ラスボスなんて。捨て駒にして、使い潰そうと思ったのに。」


「ナチュラルに酷いこと言わないでくださいよ。 私だって、一応生きてるし。まだ稚い幼女なんですよ、ようじょっ。」


「僕ロリコンじゃ無いし。どうも君が幼女だから、優しくしなくちゃって思えないんだよね。前世持ちって事は精神年齢は良い年だろう?」


 納得いかないと膨れ面を晒す彼女は年齢よりも幼く見えて。とてもあの狡猾なスウィーツ女と同一人物とは思えない。いや、むしろ別人なんだったか。


「でも、妹分が泣かされるのは許せないから。生き延びたかったら馬鹿王子と僕の事は諦めろ。」


「グハァッ!? ちょ、告白する前に振るとか酷すぎませんか? 止めてくださいよ、正直どっちも大本命なんですよ。」


「良いから、誓え節操なし。男なんて選り取りみどりだろうが。ちゃんと約束しろ。じゃないとこの場に置いていく。僕が離脱した後に出来るものなら、一人光り輝いて巡洋艦を呼べば良い。」


「それ絶対、出来ないって分かってて言ってますよね? さっきピカピカッシュは、一人じゃ輝けない可哀想なシナリオ縛りだって言ったじゃないですかっ。」


 さて、どんな手段を使うにせよ。此奴も生還させないと。やると言ったからには有言実行な所をお見せしよう。だから、約束は守るんだ。

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