第84話 つなぎちゃんロケット

※大変お待たせ致しました。遅くなったお詫びに今回はボリューム多目です。


 あとイエイヌちゃんの事が何かと話題ですが、それでカクヨムが少し盛り上がっているみたいです。けものフレンズは二次創作が許可されている作品なので、納得いかないことは創作を通してこういう結末が良かったと訴えるのが一番建設的かな、と思います。私も拙いながらイエイヌちゃんの幸せを願ってイラスト描いてみたので良かったら下のURL よりどうぞ。


https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=73653986



 それでは本編です。





 キングチーターは速さにおいて誰にも負けず、フレンズになってから、かけっこの絶対王者として生きてきた。


 そしてパーク中を旅し、この最果ての地キョウシュウを巡り、確信した。自分こそが最速だと。そして、同時にそれは退屈を生んだ。もう走る意味が見出だせなくなってしまったからだ。


 だからこそ、フレンジャーズに誘われた時は心が踊った。自分の速さを誰かの為に役立てることが出来るのだと。助けたフレンズ達に感謝されることも、彼女の承認欲求を存分に満たしてくれた。


 しかし、セルリアン退治において、速度の重要度は攻撃力の次点となる。最速で現場に駆け付けピンチのフレンズを助け、後は駆け付けた仲間の強烈な一撃が石に入ることを手助けする。圧倒的強者ではなく頼りになるメンバーの一員。次第に、不満が溜まっていった。もっと、もっと速さを活かして何かをしたい。


 そして、任務で仲間と共にこのけもベガスに潜入し、景品となったフレンズを助けるべく速度を活かしてコイン集め行ううち……自分の力を見せつけることに、虜になってしまったのだ。


 そうして、彼女はけもベガスの王者になった。その果てに、何があるかは知らないまま。


 さて、彼女に対する掘り下げはこの辺りにしておこう。何故ならば、ここから先はシリアス要素皆無であるからだ。







「ただの過労ですね。すぐ目を醒ますでしょう」


 麻雀卓に突っ伏して気絶しているキングチーターの様子を確認しながら、ディンゴはそう言った。


「う、うーん……わ、私は一体……」

「気がつきましたか、キング」

「げっ、ジャック、クイーン……」


 意識が戻ったキングチーターは、目の前に並ぶ見知った顔に気まずそうな顔を浮かべる。


「ギャンブル狂いは治りましたか?」


 清々しい笑顔でそう言うダチョウからは、威圧的なオーラが漏れだしていた。


「え、ええ…… わたしは しょうきに もどったわ」


 何度裏切るやつでも本当に正気に戻ったやつでもそう言う。キングチーターの反応に眉をひそめたディンゴに、ダチョウから声がかかる。


「本当か怪しいですね。ディンゴ、例の合言葉を」

「畏まりました」




「なるほど、彼らはさまざまな危険な任務に突入するエージェント。お互いを確認する合言葉も用意しているのか」


 タイリクオオカミはその用意周到さに感心した。


 ディンゴはダチョウからの指示に頷き、キングチーターの顔を覗き込みながら合言葉の確認に移る。



ディンゴ「串に刺さって?」

キングチーター「ディンゴ」



「合言葉それなのかい!?」


 ディンゴよ、しかも串に刺さっているぞ。


「3つ並んで」

「ディンゴ」


「醤油塗られてディンゴ」

「ディンゴ♪」


「「ディンゴ三兄弟♪」」


 てーてっ


「歌って踊るところまでやるのかい!? 醤油塗られるのかい!? そして姉妹じゃなく兄弟なんだねそこ!?」


「おお~、鋭いツッコミ。たくさん面白いものが見られて、ぼく、まんぞくです」


 いつの間にか居たスナネコ。プライスレス。


「あれぇ!? スナネコ、スナネコナンデ!? ツチノコが、スナネコまだ地下にいるっていってなかったっけ!? アミメキリーン!! ツッコミが追い付かないぞ助けてアミメキリーン!!」





 タイリクオオカミが助けを求める傍ら、アミメキリンによるツチノコへの質問が行われていた。


「泥酔して寝てた筈のつなぎがどうしてあんなところでどや顔ダブルコロンビアしてるのかしら?」

「15番のパネルをいただきます!!」

「ややこしくなるからつなぎ貴方黙ってて!!」


「ああ……いや話すと長くなるんだが……」





──────────────────


「おお~地下から解放されました~」


「……よかったな」


 ツチノコはつなぎの「何も無いものがある」という一言からヒントを得て、パチンコ台に仕込まれていたイカサマを見事解明。


 30万を手に入れそこからスナネコの借金を返済したのであった。

 余った分はつなぎに渡した。ヒントをもらったお礼とアリツカゲラ獲得の為の資金としてである。


 ちなみにそのイカサマの内容は、擬態出来るフレンズが透明になって当たり穴に尻尾を入れ、ボールが入るのを防ぐ、というものであった。(パンカメちゃんではない別の種類のカメレオンのフレンズがやらされていた)


 通常のフレンズには透明で見えない。沢山のフレンズでごった返す中、臭いで見分けることもかなり難しいであろう。しかし……


(俺にはピット器官があるからな。そいつで見たら一目瞭然だったぜ。まあ、あの一言無しでは中にフレンズがいるなんて想像出来なかったがな)


 イカサマのタネが生きているフレンズだとはある意味バレにくさでは最高かもしれないが、まさか体温で見破られるとは運営側も思っていなかっただろう。



「ツチノコ、助けてくれてありがとうです。ぼく、もうだめかとあきらめてました」


「……いいよ、俺がこんな危険なとこに連れてきたのも悪かった」

 

 無事スナネコを取り戻すことができたツチノコであったが、その顔は浮かない。


「ツチノコ、元気無いですね。どうかしましたか?」



「お前を巻き込んじまった自分に嫌気が差してるんだよ。挙げ句の果てに、自分だけの力じゃあ助け出せない始末。俺は、何てどうしようもないフレンズなんだ……!」


 スナネコが勝手に着いてきたとはいえ、彼女を大変な目にあわせてしまったのは確かだ。自己嫌悪。それがツチノコの心を締め付けていた。


「ツチノコ……」


 そんな彼女の様子を見て、スナネコも言葉をかけるのをためらった。しかし、突如何か思い立ちツチノコの元を離れ、すぐに戻ってきた。


「ツチノコ、こっち見てください」


「んぁ? なんだよいきなり……」


 そこには、顔にケチャップとマヨネーズで模様を書き、エキゾチックな格好をしたスナネコが立っていた。


「ばんぞく(蛮族)…………」


「オオオエアハアアアア!! 何やってんだお前えええ!?」


 さらに後ろを振り向き、ぼろぼろのベストと斧っぽいものを持った格好になる。


「さんぞく(山賊)……」


「ヴェアアア何でさらに野蛮になるんだよ!?」


 もう一度後ろを振り向き、そして振り返る。特に変わった所は無かった。


「れんぞく……」


「なんかひねりくわえろよ!!」


 連続で突っ込んだツチノコはさすがに息をきらしてしまった。


「はぁはぁ……何なんだよ一体」

「良かった、いつものツチノコです」


「んえ?」


「しおらしいツチノコよりも、文字表記の難しい奇声を発するツチノコのほうが、僕は好きですよ」

「どういう意味だそれええ!?」


 一見仲が悪い様にも見えるが、実はそうではない。あるがままの姿がこの二人の関係なのだ。まぁ実は意外とアニメでそんなに絡みない二人なのだがそんなの関係ねぇ!!


 そしてツチノコいじりにも飽きたのか、スナネコは傍らを指差してこう言った。


「ところであれ、大丈夫ですかぁ?」

「あれって……?」




「ずいぶんと沢山稼いだみたいね、そのコイン、全部奪い取らせて貰うわ!!」


「ふへへ……たくさんのコインをチラつかせれば奪いにくると思いましたよ。しかし貴方を攻略する糸口……見つけました」


 つなぎがキングチーターとの麻雀をおっぱじめようとしていた。


「ずいぶん大口叩くじゃない。あとで吠え面かかないことね」


「その言葉そっくりそのままお返しします。攻略法を見つけた今、僕に勝つことはパンジャンドラムでノルマンディ攻略するほどの無謀。新たな伝説を作り上げてしまうつなぎちゃんは今日も可愛い。つなぎちゃん可愛いって言って?」

 ※つなぎちゃんがかわいいと思った方は応援コメントにツナギチャンカワイイヤッターとどうぞ。


「お、おいお前そのコインはアリツカゲラを手に入れるための……」


 慌てて止めるツチノコに対し、真っ赤な顔で笑いながらつなぎは返す。


「大分お酒も抜けてきましたし、だいじょーぶですよ!! それに型破りなイカサマの見破りを見た事とか、軽く酔って思考も柔軟になりましたからね、ハチノコさん!!」


「そんな主に信州地方で好まれるスズメバチの幼虫を食べるやつじゃねえよ ツ チ ノ コだよ!!!!」


 うみゃみゃみゃみゃみゃみゃ、ちんみぃ。


「さあ始めるわよ!! 他のメンバーももう集めてあるわ」

「だいじょうぶ、必ずや勝って帰りますよ、ノザワナさん!!」


「4文字であることしか合ってねえ信州から離れろ!! 絶対負けるから止めとけって!!」



 信州のそばは本当に美味しい。ワサビとおやきもね。しかし、ツチノコの制止虚しく勝負は始まってしまった。



「あああどうすんだこれぇ…… タイリクオオカミ達呼んで来ないとまずいんじゃねぇのか……」

「ツチノコ、こうなったらもうどうしようもありません。保護者になったつもりで勝負を見届けましょう」

「つまり?」

「しんぞく(親族)……」

「言ってる場合か!! クソッ何処行ったんだあいつら!? ここからじゃ見当たらねぇぞ!!」



 そうしたやり取りの間にも、麻雀はどんどん進んでいってしまう。一局目、人数合わせで投入されたキングの取り巻きのフレンズの次、つなぎの順番は二番目スタートであった。


 山を積み上げ、そこから順番に取り、配られた内容を確認する。つなぎの手元には、非常に強力な牌が組み込まれていた。それこそ、すぐにあがってしまえるほどに。取り巻きが最初の牌を捨て、つなぎの番に移る。


(普通に考えればあり得ないほど運の良い手牌。でも、どれを捨ててもキングチーターさんに振り込んでしまうんでしょう、わかっていますよそんなこと)


 正攻法なら絶対に勝てない。というかイカサマしてもここからじゃ勝てない。


 しかしお酒でいい感じに常識的な考えから外れつつあったつなぎは、もっと広い意味で勝ちへの道を考えていた。つまり、最後に立ってた方が勝ちなんじゃないかということ。

 分かりやすく言うなら、将棋の羽◯名人と対局しても、相手が将棋そのものを指せなくなれば勝てるんじゃねとか、そう言うことである。まさにヒトの邪知バリバリであった。


 それならばどうするのか。つなぎの思考ははるか過去に遡る。




───────────────


「パンダはタイヤが大好き! タイヤイズパンダ! タイヤヌンチャクはパンダ必修の技ですよー!!」


 青空の下、力説するジャイアントパンダ(ジャンジャンじゃないほう)。みずべちほーに滞在していたいつかの時間に、ジャイアントパンダは先輩パンダとしてパンダ力(りょく)を上げる修行を施すとつなぎを呼び出した。

 パンダがゲシュタルト崩壊を起こしそうであるがこの先の文にもパンダが多分に含まれているの安心(?)して頂きたい。


「た、タイヤ…… それがパンダ力なんですか……?」


 パンダカ、その響きでもっとほんわかしたものを想像したつなぎだったが、ヌンチャクとか武闘派ワードが出てきて困惑していた。


「そうですよ! 我々ジャイアントパンダは腕力こそフレンズトップクラスなものの情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!そしてなによりもおおおおおおおおお! 技術が足りない!! ですよ!!」


 鼻息荒く熱弁するジャイアントパンダ。そんな彼女の隣で、ジャンジャンは熱弁を尻目にあくびをして眠たそうであった。しかしその姿にはパンダ味が溢れている。むしろマイペースさを崩さず生きるのがパンダ力なのかもしれない。



「ライオンが己を鍛えるか!? 否! しかし!! フレンズとなったライオンは己を鍛える!! つまりフレンズは鍛えれば強くなる!! ですよ!! なぜなら私は誰よりも努力するPPPのファンだから!!」


 話の整合性がそろそろ怪しくなってきた。地の文でこの謎展開の衝撃を中和したいところだが、そもそも文に酸性もアルカリ性もあったもんではないので中和は出来るはずもない。え?中和じゃなくて緩和だって? その通りです!


「つまり足りない技術はアイテムで補う! かつてヒトは火を手にし世界を切り開いたというですよー! そしてパンダにとってのそれはタイヤ! 振り回してもよし、くぐってもよし、投げてもよし! ビバ!スタッドレス!」


 そこまで捲し立て、ようやく彼女の熱弁は終わった。セルリアンと戦った訳でもないのにかなり息が上がっている。ちなみに通常のタイヤよりスタッドレスの方が少しだけ攻撃力が高いとか高くないとか。


「ふぅ、ふぅ…… しかし、タイヤとは儚きもの、まるで過ぎ去りしPPPライブの様に…… つまりタイヤがいつでもあるとは限らないですよー」


 

 ジャンジャンは話を全く聞いておらず、上の空であった。その鼻先にモンシロチョウが止まった。


「そんなときにどうするか! はい、つなぎ!!」


「へ!? え、ええと……頑張る?」


「努力でセルリアンが倒せたらセルリアンハンターはいらないですよ!」


「じゃあどうするんですか!?」


 聞き返すつなぎに対し、ジャイアントパンダは静かに目をとじて右手に意識を集中する。


「心のタイヤをイメージする、ですよー」


「大丈夫ですか? ジャパリビートキめすぎましたか?


「いたって正気ですよー! ほら、今この右手にタイヤが宿ってますよー」


 確かに右手に集まったサンドスターが何となくタイヤの形をしているようなそうでないような…… 

 言われれば確かにそう見えるくらい曖昧なものであった。


「いやそういうの良いですから……」


 つなぎは手をひらひらさせて適当にあしらい帰ろうとしたが、次の瞬間顔のすぐ横を何かが高速で通り抜ける。


「ずどーん!!」


 なんともゆるい掛け声と共に、ジャイアントパンダがエアタイヤと組み合わせて出した技により、近くにあった岩が粉々になった。





 ロックとはシャウト、素晴らしいロックには体力づくりが欠かせない。イワビーは他のメンバーに隠れ、影で走り込みによるトレーニングを毎日している。そして、走る先にあるのは彼女のお気に入りの、みずべちほーで最も立派な大きい岩であった。


「うーんいつ見てもこいつは最高に立派なロック(岩)! これぐらい規格外なロックに俺もなれるように、ロック道を邁進していくぜ! 見ててくれよな! ロックの先輩!!」


「ずどーん!!」ばっかーーん!!


「ロックの先輩いいいいい!!!」



 見えないところでイワビーへも被害が出ていた。




「近距離戦に強く遠距離戦に弱いパンダの弱点を克服する奥義、それが今見せた技ですよー。くれぐれも忘れることの無いように。それじゃ私はライブ見に行くからこの辺でちゃお☆ですよー」


 突然呼びだした果てにあっという間に去っていったジャイアントパンダ。後に残されたのは呆気にとられたつなぎとチョウを鼻にのせて昼寝しているジャンジャンだけであった。


「いややろうと思えば遠距離攻撃できますし……というより、結局このやりとりなんだったんですか……」



「…………ソースの後付けは禁止。でも、設定の後付けは、禁止じゃない」



「ジャンジャン!?」


─────────────────




 自分がタイヤに足をつけていると想像するつなぎ。そして……


「タイヤロケットでつなぎちゃん発射ぁぁぁ!!!!」


どんがらがっしゃーん!!


「うわぁぁぁぁ! 卓の上がめちゃくちゃにぃ!!??」


 いきなり席から卓上に突っ込むつなぎ。牌の山は崩れ、手元の牌もばらばらになり、天地がひっくりかえり、空は裂け、海は枯れ、無料で魔法石184個もらえるやつが本当に貰え、筆者はパロディネタを書くのをやめた(大嘘)。


 タイヤロケットってなんだよという人はネクソンアプリ版ジャイアントパンダのキャラクエの動画がようつべとかにあるので確認して頂きたい。なお詳細は載っていないです。



「い、いきなりどういうつもりなのよ!? これじゃ麻雀どころじゃないわよ!?」


 キングチーターはつなぎに食って掛かるが、側にいた審判役のフレンズがそれを制しつなぎにつげる。


「ゲーム継続困難な反則行為に当たるとみなします。チョンボとして、罰則点8000点をお支払いください」


 麻雀におけるチョンボとは、ゲームが進行不可能な程の反則を犯した際に、他のプレイヤーに支払う点数のことだ。要は罰金である。


「くっ、ルールだから仕方ないとは言え頭が滑ったただけでこの失点……痛いですね」

「当たり前に決まってるでしょ!」


 キングチーターの言葉も意に介さず、つなぎは他のプレイヤーに罰則金を支払い、卓に戻る。


 再び牌を積み上げ、先ほどと同様取り巻きが要らない牌を捨て、順番は二番目のつなぎに移る。


(一発で決めるつもりで集中力を使いすぎたわ。次こそは……)


「チョンボロケットでつなぎちゃん再発射ああ!!」

 ずどがどがしゃーん!!

 その日、世界は再び崩壊の日を迎えた。


「ちょっと待ちなさあああい!!」


 アポカリプスでカタストロフィなつなぎの行動に、流石にキングチーターが抗議の声をあげた。


「わざとでしょ!! 絶対わざとでしょ!! さっきタイヤロケットって言ってたけど今チョンボロケットって言ってたもん! しかも再発射とか悪意しか感じないわよ!!」


「ウワーマタヤッテシマッター」


「ねぇこの態度絶対わざとよ! 審判、どうなの!?」


「……る、ルールですのでチョンボの罰則をまた支払ってください」


「ルールダッタラシカタナイナー」


 キングチーターは反省していないつなぎの姿に青筋を立てそうになるが、ペナルティはちゃんと受けているのでそれ以上何も言えず宅に戻る。


「ふぅ…… 集中と今のツッコミで……さ、流石に疲れが……」


 ぽろっと言った自分の言葉で、キングチーターは状況に気が付いた。


「まさか……私の体力を使わせる為に、わざと反則を……!?」


 キングチーターのイカサマは、一撃で相手を倒す点数を叩き出せるまさに必殺戦法。よって、通常2ゲーム目以降のことを考えず全力を尽くしていた。


 相手は、持っている牌どれを捨てても10万点近く支払わざるを得ない、文字通り詰みの状況に陥れられてしまう。


 しかし、麻雀は数あるギャンブルの中でも珍しくルール上で反則に関する罰則が明確に設定されている事が多いゲーム。


 自分から反則をした場合、失う点数は8000点に抑えられる。


 初期の持ち点は25000点。8000点の罰則を三回支払って、なお1000点残る。自分からペナルティを敢えて受けることで、本来耐えることが不可能な10万点の直撃を回避、時間稼ぎが出来るのだ。


(ふざけた考えね…… だったら、突撃してくる瞬間をおさえてやる!! その上であいつがどれを捨てても私に振り込んで負けてしまうと証明すれば良い! それで私の勝ちよ!!)


 牌を配り終わったあと、キングチーターはつなぎが再びチョンボを狙ってきても良いように、神経を尖らせる。


 つなぎは再びパワーをチャージするかのように座った腰を少し浮かせ…………しかし、再びつなぎちゃんロケットが発射されることは無かった。


 通常、麻雀は相手の顔色より何を捨てられるかに注目するもの。


 キングチーターが明らかに集中し身構えていることをつなぎは分かっていたからだ。


 極限の集中力、キングチーターのそれは端から見れば数秒でも体感時間は何分何十分にもなる。それだけの時間体力をゴリゴリ削られながらいつくるか分からないロケットに備えるのは、キングチーター本人の予想より遥かにキツいことであった。


 いくばくかの時間の後、キングチーターはスタミナが無くなり目を回して倒れた。王が、しょーもない策の前に散った瞬間であった。


───────────────────


「つなぎせこっ! 姑息!? どこで買えるのその図太さ!?」

「コンビニで税込298円で売ってますよ?」

「売ってるの!?」

 

 コンビニは何でも売ってるのです。



「「腹がなったらハラミ♪ 神になったら不死身♪」」


 なお合言葉確認もまだ続いていた。ディンゴ三兄弟の後はでぃんご大家族が続くらしい。やんちゃな焼きでぃんご、やさしい餡でぃんご。


 ざわざわとまとまりのない集団に、言い聞かせる様にダチョウは声を投げ掛ける。


「とにかく、これで皆の手持ちコインを集め、目標の100万枚に届くことでしょう。そして、その後は……」


「その後一体何が起こるんだい?」


 今回ツッコミ役しかしてないタイリクオオカミが、チャンスとばかりに問い掛けた。


 ダチョウは、タイリクオオカミとのゲームに使っていたトランプを取り出し、山の上から4枚をめくる。そこに描かれていたカードはハート、ダイヤ、クラブ、スペードの3。




「革命です。既に布石は打っていますから……ね?」












SIDE STORY 地下潜入録パフィジ




(この地下は地獄でーす。だからこそパフィンちゃんはそんなみんなを助け出すためあえて地下に落ちました。パフィンちゃんとっても賢いでーす!!)


 パフィンは、地上からでは助け出せないこの地下労働施設に囚われたフレンズを助け出すべく潜入したフレンジャーズのスパイ、コードネームジョーカーなのである! 知ってた?あ、はい。


 不当な地下労働を強いられているんだ!!(集中線)なフレンズたちをまとめ、反旗を翻すのが彼女の作戦。


(一日外出権で外に出てクイーン達と合流、反逆のタイミングを決めて地下に戻って行動開始でーす)


 この地下で働いて貰える通貨“ペリカン“を貯め、けもベガスへ1日遊びにいく権利を貰える1日外出権を購入する。その間に地下のフレンズ達からの信頼を勝ち取り、同士を募る。それが当面の目標。


 しかし、そんな彼女の最大の障壁となるフレンズがいた。



 そう、この地下に落ちてきたフレンズをまとめている、班長・タンチョウである。


「皆さん、今日はパフィンさんが地下で働き始めて最初の給料を貰います、これはとてもめでたいことです、皆さん拍手!」


 (*’ω’ノノ゙☆パチパチ


(けっ、わざとらしいでーす。そうやって皆の心を掌握して付け入ろうとしているのが見え見えでーす)


(ふふふ、パフィンさん、地下に落ちてきてからずっと怖い顔していましたけれど、これで少しは気分が明るくなると良いのですが)


 なおパフィンちゃんが勘違いしているだけでタンチョウはキツイ労働を乗り切る皆の事を助けようとしている良いフレンズである。


「給料も貰ったところではいはい! おやつ購入タイムだよ!」


 タンチョウのお付きのフレンズがワゴンを押して入ってくる。この地下での娯楽はペリカンでおやつを買うこのおやつタイムのみ。今日もフレンズ達は給料をおやつに変えていく。


(ちっ、こんなところで使うわけにはいかないでーす)


 パフィンは心のなかで血涙を流しながらおやつタイムを耐える。


(……あら? パフィンさんおやつ買わないのかしら。おやつ好きって聞いていましたのに。はっ、もしかして後の事を考えて貯金!? なんて良い心掛け。私タンチョウも応援してさしあげましょう)


 タンチョウはパフィンに声をかける。


「無理はいけないですわ、無理は続かない……」

(可哀想に、少しでもこのジャパリソーダが足しになればいいのだけれど……)

「餞別ですわ、どうぞお飲みになって」

 そう言ってパフィンにジャパリソーダのミニ缶(190ml)を差し出す。


「き、キンキンに冷えてやがりまーす、このソーダ……」


 パフィンすっごい目してる。獲物を見つけた恐竜のような目でソーダを見つめ、そして飛び付いて懐に抱え込む。このソーダはパフィンちゃんのものでーす!!


「つまみは?」


 その様子を見た販売係のフレンズが声をかけた。


「せっかくソーダをあげたのだから、それだけってのじゃ味気ないですわ。何かいっしょにおやつもつまんでは?」


(お、おやつ……い、いくらするでーす?)


ジャパリステッィク(3本) サービスで0ペリカン1日一回無料

ジャパリチップス 500ペリカン

ペプシまん    1000ペリカン

ジャパリまん   2000ペリカン


(た、たかいでーす! 今日のお給料は10000ペリカン、外出権は50000ペリカン。5日もおやつ我慢……)


「ジャ、ジャパリスティックだけ……」ボソ


 その様子を見て、タンチョウがパフィンちゃんの肩に手を置く。


「ふふ、へたっぴ」

「へ?」

「へたっぴですわパフィンさん。野生の開放のさせかたがへた……!」


 タンチョウはワゴンへ向かう。


「パフィンさんが本当に欲しいのはこっち……!(ジャパリチップスとジャパリまん)

これをジャパリレンジでチンしてホッカホカにして、冷えたソーダでやりたい。そうでしょう……? でも、それじゃあまりに値が張るからこっちのしょぼいジャパリスティックごまかそうというのよね?」


 パフィンちゃんの目がまたものすごいことになっている。


「パフィンさん、駄目なんですわ、そういうのが実にダメ……!せっかく冷えたソーダでスカッとしようときに、その妥協は痛ましいですわ……!そんなんでソーダお飲みになってもおいしくないですわよ、かえってストレスがたまる……」


「で、でも……」


「食べられなかったお菓子がチラついて、ぜんぜんすっきりしないですわ。心の毒は残ったまま。自分へのごほうびの出し方としては最低です。パフィンさん……贅沢ってやつは……小出しでは駄目なんですわ……やるときはきっちりやったほうが良い、それでこそ次の節制の励みになるんですわ」


「た、確かにでーす……じゃあ……」


 パフィンちゃんは、懐から給料を出してジャパリまんを購入する。


「はい、パフィンさんジャパリまんお買い上げ!! となると、ソーダもおやつもそれっぽっちじゃ足りないよね!」


「実はジャパリチップスも……」

「はいっ!他には?」


「実は……ジャパリステッィクとドーナツとコロネとケーキとクッキーとビスケットとマカロンとスコーンとマドレーヌとパイとウエハースとエクレアとシュークリームとプリンとヨーグルトとキャラメルとアイスとシャーベットとジェラートとゼリーとジェリービーンズとタルトとタフィーとエトピリカとキャンディとチョコレートとバウムクーヘンとパンケーキとホットケーキとミルフィーユとムースとワッフルと……」


 パフィン、豪遊……! 途中からタンチョウも流石に止めるも聞かず給料全部使っての豪遊……! 5倍付け!!(給料5日分のお菓子)

 地上への脱出のためのペリカンを浪費し続ける、パフィンの明日はどっちだ!?

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