第78話 聞いてくれなきゃ嫌、ear(イヤー)、year(イヤー) 後編
※あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします!! 今回はビバプレ解決&ロッジ到着編です!
「そう、やっぱり耐久性でいったらヒノキが強いっすけど、でも実はホワイトウッドもかなり強度はあるんす。違うのは虫や腐食への耐久性っす。ヒノキは白蟻とかに強いっすけど、ホワイトウッドはそこが弱いっすね……でも、基本乾燥していれば大丈夫っすから、内装はホワイトウッドでつくると経済的っす」
「うん、うん……」
「ただ実は国産ヒノキは海外のものより強度が劣ったりするっす。香りは断然国産っすけどね。費用という面で見るなら色んな木材を合わせた集成材というものも……聞いてるっすか?」
「うん、うん、ヤギね……」
「ならいいっす。それで木の組み方なんすけど……」
アミメキリンは、以前アリツカゲラに教えてもらった、落ち込んだ人はとにかく話を聞いてあげるという事を実践していた。計算外だったのはなぜかDIYトークが始まってしまったことである。
「ね、ねぇそろそろプレーリーの所へ戻らないかしら?」
ちょっとだけ前回のおさらい。ロッジ周辺が迷いの森になってしまったのでそこから出てきたというビバプレに情報収集したかったのだが、二人は喧嘩していたのである。そして調べるうちに、プレーリーが近くの物音が聞こえなくなっていることが判明したのだ。以上、おさらい終わり!!
「え? あぁ、そうっすね…… 本当に大丈夫なんすか? プレーリーさんの耳が治るか、不安っす……」
「大丈夫よ、つなぎはやるときはやるフレンズだから。多分……」
やらかすときはやらかす、という事実もあるがそこは敢えて伏せる。
道すがらこはんでの思い出話をしたりして、ビーバーの心をもう少し落ち着かせる。
そうして、二人の住まいへと戻ってきた訳だが……
「さ、入るわよ。……ビーバー、どうかした?」
「な、何かへんな声が聞こえる気が……」
「……へんな声?」
そう言われ、ドアに耳をあてて中の声に耳をすませる。
「……あっ そ、そんな奥……か、掻き回しちゃ……だめであります…… あっあっあっ」
「でもプレーリーさんのここ、こんなになってますよ…… こっちの穴はどうですか……?」
「あぁっ! は、入ってくるであります……! 奥までぇ……」
アミメキリンは静かに扉から耳を離した。
「……いやいやいや。かまくらの件で学習してるわよ私。そんな衝撃のシーンが繰り広げられてるわけないから」
「な、なんの事っすか?」
「気にしないでビーバー。きっとマッサージとかしてるのよ。入りましょ?」
そう言って扉を開けるアミメキリン。彼女の目に飛び込んで来たのは……
「ロッジの周りの森を迷わずに行く方法は?」クチュクチュ
「地面を歩くと あっ 迷ってしまって あっ 迷わない為には あっあっ 木を飛び移って行けば迷わない あっあっ」
つなぎがプレーリーの頭に棒を突っ込んで、いじくり回している様子であった。
「人様の頭に棒突っ込むとかぬあぁぁにやってんのおぉぉぉぉっっっ!!」アミメキック!!
「とがしっっ!!??」
鋭い飛び蹴りと、スカートでそんなことやっちゃうから見えた一瞬のパンチラ、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
「はぁ、はぁ…… あまりの衝撃の光景に思わず必殺の右が出てしまったわ……」
アミメキリンの空中前Nは先端の判定が強く、そこで当てるととても良く吹っ飛ぶのだ。
「いてててて……何が衝撃の光景ですか、もう」
「見たまんまでしょ!?」
「も、もしかしてこれの事を言ってるんですか?」
そう言ってつなぎが出したのは、15センチ程の小さな棒だった。
「これって……」
とんがった先端と渦巻く側面。
「縮小させたイッカクの槍ですよ。ドリル状になってるでしょ、この側面のドリル溝が、掃除にうってつけなんです」
まだ少し状況が飲み込めないアミメキリン。
「掃除?」
「そうです、耳そうじですよ。耳掻きとも言いますけど」
つなぎは得意気に話し始めた。プレーリーが近くの音だけ聞こえなくなっていた原因を。
「気が付いたんですよ。フレンズの中にはけものの耳とヒトの耳、両方を持つフレンズがいるでしょう?」
「ええ、私もだけれど」
「お、俺っちもそうっす……」
「タスケテー!!」
いつの間にか家にあがっていたビーバー。そしてアミメキックで一緒に吹っ飛ばされて家の壁に突き刺さってしまったプレーリー。慌ててビーバー助けに向かう。そんな彼らをさておきつなぎの話は続く。
「そう、ヒトの耳とけものの耳……この耳から出てるポワポワがたまらないんですよね」イジイジ
「ナチュラルにミミいじりに移らないで!!」
───────────────────
「はくしゅん!!」
「どうしたのですか? 助手」
「いえ、どこかで誰かが私の事を噂していた気がして……」
「気のせいでしょう。もう少し奥まで進んでみるのです」
「そうですね」
──────────────────
「で? 推理の続きは?」
「はい……素直に話すのでこれ解いてください……」
「やだ」
つなぎはアミメキリンのマフラーによって梁に磔にされていた。アミメキリンの秘殺技、天地来麒麟殺(ヘルヘブンジュラフキル)によって。
未だかつて死体ではなく推理を話す側がぐるぐる巻きだったことがあるだろうか。連載長いからコ○ンとかでやってるかもね。
「分かりました。話します…… ごほん! けものの耳は敏感で、遠くの音や些細な音を聞くことができます。でも、近い距離だと聞こえすぎてしまう…… ヒトは、しゃべる動物です。遠距離の音だけでなく、近距離の話し声も大事。思えば、フレンズになってからもそのままの聴力では聞こえすぎたりするような不都合があるかもしれないのに、それを感じさせる様子は無いですよね?」
例えばPPPライブ。動物の聴力ではあまりにも大きすぎる音が響くが、皆それを苦痛に思わず楽しんでいる。かたやと思えばかばんちゃんが些細な音を立てた時に気がついてジャンプで捕まえたサーバル。ヒトの聴力ではあの芸当は出来ない。
「つまり、遠近両方の音をバランス良く聞く為に、両方の耳があるんじゃないかと思ったんです」
「なるほど、ヒトの方の耳は近距離の音を、けものの耳は遠距離の音を拾っているわけね」
「そうです。そろそろ下ろしてくれませんか?」
「続けて?」
「はい…… ヒトの耳は耳垢が溜まりすぎると音がほとんど聞こえなくなったりします。だから、耳元で囁かれた愛言葉が聞こえなかったというわけです」
建築する際に木のクズが耳に入ったりすると、耳垢は余計に溜まりやすくなる。こはんでは水で泳いでいる間に知らないうちに洗い流されていた。しかし、ここまでの道のりやろっじに来てたくさんの建物を突貫工事しているうちに、溜まり過ぎてしまったのだ。
「そ、そうだったんすか…… 俺っち、勘違いしてプレーリーさんになんて事を……」
安心したビーバーはへたり、と床に座り込んだ。しかし、そんな彼女にプレーリーがすぐ声をかける。
「ビーバー殿」
「は、はひっ」
「もうビーバー殿の声、近くでも遠くでもはっきりと聞こえるであります!!」
「そ、そうっすね」
「自分は、ビーバー殿が何て言っていたのか気になって仕方ないであります」
「うぇ!? そ、それは……」
「大事なお話だったと思うのであります、今度は一言一句聞き漏らさないでありますよ!!」
「プレーリーさん……」
「ビーバー殿……」
見つめあう二人の間を抜け、アミメキリンとつなぎはビバプレの家を後にしていた。
「後は若い二人に任せて私達は先に進みましょう」
「どっかでこの流れと似たやつやってません? déjà-vu(デジャヴ)なんですけど」
「としょかん出発したときじゃないかしら? あとなんて発音したか分からないけどどや顔するの止めなさい」
ちなみにフランス語である。
「ふぅ…… せっかく良い雰囲気だったから、二人きりにしてあげるの。人の恋路を邪魔するのはね、ヤギに蹴られて死んじゃうらしいわよ? ……それで、プレーリーから話は聞けたの?」
「ええ。色々聞いたので詳しくはロッジついてからお話しますけど、どうやら木を飛び移って移動したり、空を飛んだり……どういう方法であるにしろ、地面を歩かなければ迷わないらしいです」
まるでモモンガの様である。これが例えば普通のRPGだったら嫌がおうにも地べたを歩かねばならず、お前ちょっと頑張れば越えれるだろという段差も迂回したりしなければいけない。
が、ゲームの世界で無いので行こうと思えばどこでも登れたりしちゃうのだ。
「不思議な話ね…… なら取り敢えず、案内するからロッジまで飛んでいってくれないかしら? ほら、直ぐにでも行きたいの私!」
「いや、焦ってはいけません。急いては事を仕損じますからね」
「本音は?」
「耳掻き用のミニマム槍つくるのめっちゃサンドスター消費してへとへとなう」
結局、出発は日が暮れる少し前になってしまったのだった。
アミメキリンは、旅に出て様々な物を得た。彼女というフレンズの成長において、それはかけがえのない物であり、有意義な時間を過ごせた。
では残された者はどうか。
帰りが遅いことを心配した狼は、アミメキリンを追ってロッジを経ち、やがてへいげんで出会った。そしてそこでの交流を通し、二人から旅の思い出を聞くことを待ち続けることにした。
────残され続けた者が一人。PPPライブやけもマといった、キョウシュウの北~西方面が発展しフレンズを集めているのに対し、目ぼしい物があまり無い東方面。ロッジに泊まるフレンズは減少し、ほぼ0となった。
やかましくも賑やかで明るいアミメキリンと、客と交流しいい顔を頂いているタイリクオオカミ。これらが居なくなった後、わずかに訪れるフレンズもいなくなり、そこに残るは静寂と孤独感である。
アリツカゲラは、群れで生きることを良しとする鳥だ。そして、フレンズになってから個性的な面々と交流し、その嗜好は一層強くなった。
彼女は願った。アミメキリンとタイリクオオカミが無事に戻ってきますように。そして、それまで寂しいから他のフレンズがロッジに来てくれますようにと。
ろっじ編。この章は、ただいまとおかえりを言う物語である。
「帰ってきたわ! ロッジアリツカ!! 色々あったけれど、やっぱりしっくりくるわ! 何も変わってない!」
はしゃぐアミメキリン。幾つかの木を吊り橋で繋いだその宿泊施設は、かばんちゃんが訪れた時と、アミメキリンが出発したときとなんら変わらない様子でそこにあった。
「ん? 吊り橋の端っこに何か書いてありますね。耐荷重……10t!? 車も通れますねこの橋!」
変なところに目をつけているつなぎはおいておき、さっそくロッジの受付へと向かう。
「アリツさーん! オオカミせんせーい! ただいま帰りましたー!!」
………………
返事は、何も返ってこなかった。
「留守なのかしら、大抵二人のうちどちらかはいるんだけれど」
「探してみますか? 僕もロッジの中を見てみたいですし」
見れば、受付カウンターにも埃がたまっている。
「これ……アリツさんではあり得ないわ。綺麗好きだし」
ぐるっとあたりを見渡し、やはり全体的に掃除されている様子がないことに気がつく。
「やっぱり、何かあったのかも。誰かがいないか探しがてら案内するわ。一緒に来て」
「こっちは“みはらし“、こっちは“しっとり“で……あら?」
オオカミの絵が描かれたプレートがかかっている部屋の前で、アミメキリンは立ち止まった。プレートはリバーシブルになっていて、可愛いオオカミが手で丸を作っているのが表、バツを作っているのが裏になっている。
つまり、丸が表ということはいわゆる部屋にいますよということを示しているわけだ。
「オオカミ先生、やっぱりお部屋にいるんじゃない」
コンコンとノックをする。しばらく後、少しくぐもった声で返事があった。
「悪いが、ファンなら帰ってくれないか。今は、誰とも会いたい気分じゃないんだ」
間違いない。タイリクオオカミだ。へいげんあった事しかないつなぎも気が付いた。
「先生、私です! アミメキリンです!」
「……アミメキリン!? そうか、帰ってきたのか……!」
アミメキリンは扉についているドアノブを回そうとした。しかしとびらにはカギがかかっている!!
「オオカミ先生、お部屋の鍵を開けてください。お話したいこと、い~っぱいあるんです!!」
しかし、返ってきたのは冷たい言葉であった。
「悪いが、今は君たちとも会いたくないんだ……」
すっぱりと面会を拒絶された二人。つなぎは、アミメキリンが今の言葉で少しショックを受けていないかと心配して彼女の方を見る。
「アミメキリンさん……」
「騙されませんよ! いつも〆切直前はそんな感じでしたからね! 無理やり開けますよ!!」
「ええぇ……」
全然へこたれてなかった。むしろ勢いが増してる。
「ちょ!? や、やめ、やめないか!! 本当に今は駄目!!」
ドタドタと走る音がする。ドアノブを抑えようとしたのだろう。しかし、すでに握っているものと今から握ろうとするものでは、どうしても前者に軍配が上がってしまう。
タイリクオオカミの制止虚しく、アミメキリンは話を聞かず思い切りドアノブを捻って壊し強行突入した。
そこにいたのは確かにタイリクオオカミであった。しかし、アミメキリンとつなぎがへいげんにて出会った彼女とは、まるで別人の様であった。
地を駆け、獲物を引き裂く腕と両足は太く逞しくなっており、多くの者を引き寄せてやまない魅惑のバストもサイズアップしていた。そして何より、今の着ている毛皮がはち切れそうなほどのダイナマイトボディ。
────そう、タイリクオオカミは太っていた。
「オ、オオカミ先生!? なんでこんな姿に!」
「うう……こんな、みっともない姿は、君には見られたくなかったのに……」
項垂れるタイリクオオカミに駆け寄るアミメキリン。
「ど、どうしようつなぎ……! オオカミ先生どうしちゃったのかしら! こんなにお腹も大きくなって……まさか、お腹に子供が…… アリツさんですか! アリツさんとの間の子供なんですか!?」
激しく動揺するアミメキリン。うつむいたまま動かないタイリクオオカミ。その場の空気は一瞬にして最悪になってしまった。
つなぎは頭を悩ませる。フレンズがここまで極端に太るということはみたことがない。が、取り敢えず無事が確かめられたのだ。あまり嘆いても仕方がない。
そうだ、ここは小粋なギャグでもかまして場を和ませるとしよう。
「そうですね…… 取り敢えず言えるのは、これじゃタイリクオオカミ先生じゃなくて、タイリクオオゼキ先生だってことですかね!!」
「「……」」
漫画の為に色んな知識を仕入れているタイリクオオカミと、ホラー探偵ギロギロ特別編、血に濡れたはっけよーいのこったを読んでいたアミメキリンにはこのギャグの意味がすぐに分かった。
「あれ、二人とも顔が怖……」
夜風に揺られながら、全身をマフラーで簀巻きにされ、ロッジの吊り橋から吊るされたつなぎは思う。世の中には言ってはいけないことがあるんだなぁと。
ちなみに筆者はそこまで詳しくはないですが大関の中では栃ノ心が好きです。どすこい。
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