第75話 エピローグ 後編 : 会いに来る愛と凍土に眠る温泉

※ゆきやまちほー編ほんとのほんとにラストです! ここまで読んでくださった読者の方々、本当にありがとうございます! 良ければ次のちほーもよろしくお願いします!!




 そんなこんなで一晩明け、再びオイナリサマの元に集まったアミメキリンとつなぎ。


「さて、ひとまず大方の問題は解決した訳ですが……ってアミメキリン、大丈夫ですか?」


「大丈夫、ちょっと洗濯されただけだから」


 オイナリサマが心配する先、そこにはふかふかになったアミメキリンがいた。ただ何となく疲れているように見える。


「ああ、お風呂は命の洗濯って言いますしね」


「比喩じゃなくて文字通り洗濯されたのよ!」


 なお、服はもう一度洗って干しなおしたので良い香り。温泉にも入ったが、隣でカピバラがイルカ達にお説教していたのでなかなか心休まらなかった。温泉のマナーにおいてカピバラに勝てるものはいないのである。


「おほん、貴方たちはこれからどうするのですか?」


 話が脱線してしまったので戻すオイナリサマ。


「ひとまず、ロッジに向かうつもりよ」


 本来のアミメキリンの縄張りはサバンナとかの方が近いのだろうが、ここキョウシュウにおいてはロッジアリツカが彼女の縄張り。久しぶりの実家帰りである。

 知らない女の子を連れてったらアリツ母さんビックリしちゃいますよ!! でもアリツさんなら顔色一つ変えずにお部屋に案内してくれるかもしれない。お部屋“しっぽり“とかね。


「色々あったわ…… 死にかけたり捕まったり全裸になったり死にかけたり」


 お買い物したりロボに乗ったりもした。PPPライブも聞けたし貴重な体験目白押しだ。


「タイリクオオカミさんは、僕たちの話を聞きたいって言ってましたよね?」


「そうよ! 私達の活躍、きっとオオカミ先生が漫画におこしてくれるに違いないわ!」


「僕が漫画の主人公…… 人気が出たら印税ががっぽり…… 不労所得ばんざーい!!」


 つなぎは気付いていないがフレンズ達は皆仕事しなくてもジャパリまんが貰える。衣服は自動生成。不労所得の極み、ニートでも全く問題はない。

 というかもし印税があったとしてそれを貰うのは作者であるタイリクオオカミなのだが。


 ただ、なにはともあれじゃんぐるちほーから始まった二人の旅。図書館を経由し、とうとうロッジに向かうところまで来た。ゆうえんちやかざんにいく目的がない以上、そこが一端の旅の終着点となる。


「せっかくだからオイナリサマも一緒にいきませんか?」


「嬉しい申し出ですが、すみません。私は一緒にはいけないのです」


 腕を組み、むむむと眉を寄せ考えるオイナリサマ。やがて、観念したように話し始める。


「次いつ会えるか分かりません。今ここで伝えておきましょう、アミメキリン、良くお聞きなさい」


 こほん、と一つ咳払い。真面目な話のようなのでアミメキリンとつなぎも姿勢を少し整える。


「このキョウシュウには、四神とは別の守護けものがいます」


「オイナリサマ以外に……ですか?」


「私やヤタガラスはフレキシブルな守護けものなので、あっちこっちに出張するタイプの守り神なのです。比較的守護が足りてなさそうな地域に赴いています」


 それが今はキョウシュウということだ。ちほーの守護けものというと、りうきうのシーサー達が分かりやすいだろうか。ただ、必ずしもその地にゆかりの深い者が守護けものとは限らないらしい。


「ここ、キョウシュウを元々守っていたのは、四神と近い存在」


 そこまで言ってオイナリサマはアミメキリンを指差す。つなぎは何かを察したかの様に両手を合わせてアミメキリンを拝む。いやアミメキリンが守護けものではない。


「貴方達を始めとしたキリンを束ねる獣。雷の力を持ち、どこへでもどこまででも駆ける存在」


 その蹄、古今東西すべてを駆ける。

 生き物を殺すことを極端に嫌い、頑なに引きこもってその長所を殺し続けていた彼女の名は────


「キョウシュウの守護けもの、幻獣にして霊獣──麒麟です」


 麒麟です(イケボ)。アミメキリンに自らの力の一部、知恵を貸し与えた張本人でもある。いやバレバレだったとは思うけれども、アミメキリン達がその存在を直接知るのは初めてだ。


「オイナリサマ、その麒麟……様?がどう私に関係があるの?」


 自分達を束ねる存在だからといって、知らないフレンズの事を言われてもいまいちピンと来ないアミメキリン。


「大有りです。詳しいことは話せませんが、私が貴方達を手助けしてきたのも、元はと言えば麒麟に頼まれたからなのです」


「そ、それは知らなかったわ」

「とんだご迷惑を……」


 お願いされたから助けた、と言われ少し申し訳ない気持ちになる二人。見るからにしょげてしまっている。


「……まぁ、もう貴方達とは友達だと思っているので、最近は私の意志で二人を助けていましたが」


 やれやれと首を降りそう呟く。様子を伺うと、アミメキリンとつなぎはキラキラした目でオイナリサマを見ていた。なんと扱いやすいことか。


「オイナリサマ、もう一回言ってみてください!」


「いいません! 全く、また脱線してしまったでは無いですか。ここからが本題です。実は、麒麟が行方不明なのです」


「どうして分かるんですか?」


 オイナリサマがどこかに出掛けていたとは思えなかった。サンドスター・ロウ・オイルの流出を防ぐため、結界の維持につきっきりだった筈だ。


「貴方達にもやりましたが、けものプラズムの応用で距離が離れてても会話出来るのです。しかし、今までぽつぽつ連絡があったのですが、ここ最近いくら呼び掛けても返信が全く来ません」


 少し暗い顔を見せるオイナリサマ。


「彼女も私の友達です。心配なので、ここでの用事を済ませたら一度様子を見に行ってみるつもりです。私はロッジにはいけないですが、貴方達ももし何か手がかりを見つけたら教えてください」







 眼下に広がる雪景色、波打ちまくって入れない温泉、揺れるから出来ない卓球、美味しい料理もひっくり返る。移動要塞と温泉の取り合わせは最悪である。


「あの時はどたばたしてたからわからなかったけれど、けっこう揺れるわね」


 温泉が元の位置に戻るということで、アミメキリンとつなぎは途中まで乗っていくことにしたのだ。


 今は温泉にいるフレンズ達が一つの部屋に集まっている。内装もラッキービースト達が直してくれたので、くつろぎの空間としてはバッチリだ。


「ボクよくわからないんだけど、なんで温泉動くの?」


 キタキツネによる最もな質問。


「それについては、地下の施設に記録がありました。どうも、温泉は後付けでメインはこの移動要塞だったようです」


 つなぎはズティに教えて貰った隠し部屋に行き、そこで保管されている沢山の微生物と水質浄化用装置を見た。空になったジャパリ住血線虫の棚も。さらにその部屋には資料があったのだ。


 赤潮や原油流出等、海の汚染はそこに住むフレンズ達の命を深刻に脅かす。そこで作られたのが移動型の水質浄化装置であるこの施設であった。なんと水陸両用らしい。無駄にハイスペック。


 しかしてそんな限定的な用途だけでは予算を食うばかりの木偶の坊。作った者達が責任を問われ、苦肉の策にとった行動が未開発のキョウシュウエリア、そこで水質浄化装置を利用して温泉旅館にすることであった。移動要塞にした辺りから薄々気がついていたが、クレイジーである。


「つまりは化石燃料で汚染された海に反応し、本来の役目を果たすため移動したようです」


「わかるようなわからないような話ね…… キタキツネ、耳をはむらないで」

「ボクお腹空いた、ギンギツネ食べる」はむはむ


「イチャイチャは部屋でやって欲しいよよよ」


「イチャイチャじゃないから!」


 否、イチャイチャである。


「それと、どうもキョウシュウはジャパリパークの中でも最も開発が遅れていたエリアらしく、厄介な研究とかを押しやっておくお払い箱の側面があったようです」


 目の前の光景に全く動じず話を続けるつなぎ。アイアンメンタル。


「そう考えると、表の自然的な側面とは裏腹に、アンラッキービーストやミクロフレンズみたいな一般に知られては困るような秘密が多いんですよね」


 きっと、まだ厄介な負の遺産が残っているに違いない。


「まぁ、知らぬが花とか仏とかそんなやつです。探さなければ厄介事に巻き込まれることもないですから。これが究極のジャパリまんの秘密とかだったら喜んで調べたんですけどねぇ……」


「ほんとご飯の事にはブレないわね……」


「言ってたらお腹減ってきました…… くっ、空腹をごまかすためのマフラーも一連のどさくさで無くしちゃいましたし……」


「なんで空腹がマフラーで紛れるの? と昔の私なら聞いたでしょうね。もう予想つくけれど。つなぎにはもうマフラーをあげないことを誓うわ。────そう言えば、ジャンジャンはもう元気になったんでしょ? 一緒に来なかったの?」


「誘ったんですが、“パパには悪いけど二期に出演する予感がするからここに残る“って言ってました」


「そ、そう。本人がそう言うなら仕方ないわね……」


 アニメ本編でのジャイアントパンダの活躍に期待したい。カラカルとダブルスフィアの補強によりメンバーの戦闘力が高めなので、激しいバトルが繰り広げられるだろう。5匹の私刑獣とか脱獄してきたりするんじゃないだろうか。


「キタキツネ、いい加減にやめなさい…… ほら、二人ともそろそろ降りる場所よ」


「ですって、アミメキリンさん。行きますか!!」


「そうね、久しぶりだわ本当に…… 色々気になることは残っているけれど、まずはオオカミ先生とアリツさんに会いたいわ。元気かしら?」


「また近くにきたらいらっしゃい、温泉はいつでも開いてるから」

「今度はゲームしようね……ボク、即死コンボは自重するから」

「あのおっきなフレンズさんにあったらよろしく伝えておいてほしいよよよ、ビックリして逃げちゃったから、悪かったって」


 ギンギツネ、キタキツネ、カピバラに見送られ、温泉を後にする。勿論防寒のもこもこ雛毛皮だ。


 謎のヒトの行方、ちびレオが家出してまだ見つかってないこと、行方不明の麒麟様。謎は旅を進める毎に解け、更に生まれていく。二人の旅は、まだまだ続く。





 温泉が元の位置に戻る頃。


「ずっと放っといてごめんなさい」


 ゆきやまの奥、小さく作られた墓。ズティはそこに小さな箱を持って出掛けていた。


「大したものじゃないですけど、ラッキービーストから野菜を貰ってお弁当を作ってきました」


 箱を開くときんぴらごぼうやにんじんのソテー等、根菜中心のおかずがぎっしり入っていた。


「……氷浸けになるだろって、よく怒られてましたっけ。でも、放っとくとあの二人インスタント食品ばっかり食べてましたから」


 ザク、ザクと氷を踏みしめる音が聞こえる。振り替えると、そこには一人のフレンズが立っていた。


「ここを離れる前に、直接お話しておこうと思いまして」


 そこにいたのはオイナリサマであった。麒麟の元へと向かう前に、研究室にかけられていた結界の張り直しに来たのだ。


「正直、もう少し落ち込んでいるかと思っていましたが……」


「今でも少し辛いですけど……もう大丈夫です。悲しい気持ちがやってきたらどうすればいいか、私もう分かりましたから」


 彼女はゆっくりと顔をあげる。その表情は、笑顔で、しかし少しだけ涙を流していた。


 喜怒哀楽と人は言うが、心はそんなに単純ではない。悲しいけれど嬉しいこと、楽しいけれど辛いこと、無数の想いが混ざり合って出来ている。だからこそ、人は他人を完全に理解は出来ないし完全に拒絶することも難しいのだろう。


「当時の私は、あんな悲しい想いをするなら出会わなければ良かったとずっと後悔していました。でも今はあの日々があって良かったと心の底から思ってるんです。私に、恋と、誰かと一緒にいる楽しさを教えてくれた。あの時間のこと、もう少しの間だけ大切にしてあげたいんです」


 その為に一人で居たいと彼女は言った。色んな感情や気持ちを整理するのだと。自分の心も想いも、自分だけのものだから。


「貴方は、強いですね。こんな良い女性に愛されているのに、男はいつも先にいってばかり…… 愚か者です、本当に」


 彼のことを侮辱されたとほんの少し感じてしまったが、オイナリサマがそんなつもりで言った訳ではないことをズティも理解していた。オイナリサマ自身の目にも、ほんの少し光るものが見えた。これもまた、単純ではない感情なのだろう。


 瞳を軽く拭うと、ズティの横を通り抜け、オイナリサマは言う。


「お墓っていうのは、こうやって手を合わせてお祈りするのです。そして心の中で、亡くなった者に語りかける。自分の気持ちや想いを。せっかくだから、一緒にやってみましょう」


 オイナリサマはズティをお墓の前に立たせ、自分が教えた様にやってみるようにと言った。


 雪に膝をついておずおずと手を合わせ、目を瞑り祈る。オイナリサマも、その隣に立って、一緒に祈った。

 しんしんと、雪が降り積もる音だけが聞こえる。数秒程経った後、彼女達は祈りの姿勢を解いた。


「何を祈ったか、聞くのはヤボですね」


「いえ、そんなこと。ただ、ありがとうって」


 ズティは笑っていた。


 そのまま立ち上がり、膝の雪を払う。

 もともと弁当箱を置きにくるだけのつもりだったので、これでやりたいことは全て済んだ。


「そろそろ行きましょう。オイナリサマ、私の家に寄っていきませんか? ささやかですが、お昼ご飯をご馳走しますよ」


「料理は魅力的ですね、じゅるり…… しかし、いいのですか? 一人で居たいのでしたら、気を使わなくても……」


「ふふ、そういう気持ちと同じようにあなたとご飯を一緒に食べたいって気持ちもあるんです」


 

 墓に背を向け、歩き始める。来たときに通った足跡と同じ道に、二人ぶんの足跡をつけながら。


 自分の心に蓋をするけものは、そこにはもういなかった。


 雪の勢いが弱まっているのに気がつく。フードを外したその時、ふと何かが耳を掠めた。




─── ありがとな、ズー ───





 懐かしい声が聞こえた気がして、ズティは振り返った。しかし、そこには何もなかった。


 ただ、やさしく降る雪の中、流れ星のような光が一瞬瞬いた。その光は高く高く空へ登っていき、そして──消えていった。





ゆきやまちほー アミメキリンと凍土に眠る愛、そして会いに来る温泉  完






















次回予告



 ヒトの欲はフレンズを蝕み、どこまでも消えない傷痕として残る。機械仕掛けの名探偵は、世界の理を知り嗤う。

 夢は夢のままにならず、得るものと失うものの差は広がるばかり。

 だが努々忘れるなかれ。本当の敵は自分自身ではなく、君の足元に。目隠しをした獅子こそが、炎切り裂く希望となる。さあ、最大の推理はすぐそこに────



 とか何とか言っておくと壮大な感じがするので、取り敢えず書いておいた私だ。





次回 ろっじ


アミメキリンと自由で平等な独立宣言 じゃ、湯無いけど、stayする? オブ アリツカ

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