第72話 ヤクメキリンとはたらくハシブト

※1日更新遅れました、ごめんなさい!! ハニーバターナンでも焼きますから!!(インド感)

そろそろゆきやまちほー編も終わりに差し掛かってきています。今回のボスをどうやって倒すのか、予想してみてくださると私が嬉しいです








「こ、こんな最後なんていやあああああ!!!!」



 アミメキリンが悲鳴を叫んだその時、遠くの方で大きな地響きの音が鳴り響いた。飛びかかろうとしていたゼンダマキン達の動きが止まる。



「むっ!? またアイツが!」

「どうする? ほっといたらまた暴れだしてランドがめちゃくちゃになっちゃうよ?」

「でも僕たちじゃ敵わないし……」


 ざわつくゼンダマキン達。


「アイツって、まさか」


 アミメキリンの問いに、彼女達は口々に答える


「でっかいミミズみたいな化物、地面を食い破って出てきては、あちこちめちゃくちゃに破壊するの!」


「このままじゃこのツナギーランドは閉園、この世界も崩壊しちゃう!!」


「だからお客様から栄養を貰ってはたらく免疫細胞を増やさないと……」 


 今日も白い作業服の何かが戦っています。


「でも免疫も歯が立ってないし…… 空から降ってきてどんなものでも解決しちゃう、あの伝説の存在がいれば……」


「伝説って?」


 ああ、それって羽栗棒?


「伝説の救世主、その名も“おくすり“様だよ!!」


「あ、ああなるほど……」


 ピンチの時に現れて助けてくれるのはまさしくヒーロー救世主。

 そういう視点で写るのかー、なるほどなーと感心する。


 そして、ハシブトガラスはそんな会話を受けて打開策を思い付いた。


「おい、お前たちに良いことを教えてやる……そのおくすり様とは、こいつの事だ」


 そういってアミメキリンを指差す。


「え、ちょ」


「薬の神、ヤクメキリンというのだ」


「なにそれ!?」


 適当ぶっこむハシブトガラスだが、ゼンダマキン達の反応は上々であった。


「本当に!?」

「おくすり様はフレンズじゃないって話だけど」

「でも空から降ってきたよ!」

「なら本物? 本物?」

「本物のおくすり様だ!!」


「おくすり様たすけて! このままじゃランドが消えて無くなっちゃうの!!」

「「「「「たすけてー!!」」」」」


 先ほどまでとはうって変わって足元でぴょんぴょんしながらアミメキリンに手を伸ばすゼンダマキン達。


「か、考えたわね、ハシブトガラス」


「私も消化されるのはごめんだ……ああいうしか無いだろう、どのみち目的は変わらないからな」


 




「こっちこっち! ついてきてー!」


 ゼンダマキン達はアミメキリンとハシブトガラスを件の場所へと案内する。


「あれがその問題のやつだよ!!」


 そこには、自分達よりも10倍は大きそうな、黒く細長い怪物がいた。恐らく、つなぎの体を蝕む寄生虫そのものである。

 そしてその巨体の先端、ギザギザの歯がついた鋭い口の側には──



「巨大な目……あれは、まさか、セルリアンか……!?」


 寄生虫がセルリアンになるのか、という疑問点も勿論あるが、例の異変が起きる前は細菌の姿を模したセルリアンが多く存在していたという。


「なるほど、セルリアン化している事で狂暴性が増し、症状の悪化が早かったのね」


 つなぎから聞いた謎のヒトが撒いた黒い水、サンドスター・ロウが含まれていたのは寄生虫をセルリアン化させる為であったのかもしれない。




「おくすり様、アイツを倒して!!」


 しかし、このままではあまりにもスケール感が違いすぎるのである。


「そ、そう言われても想定よりも大きすぎて、どうしたら良いか……」


「そんなこと言わないでー!(T-T)」


 足元に集うゼンダマキン達の涙をたたえた熱い視線が二人に注がれる。


 ちなみに、ゼンダマキン達の多くは球菌(きゅうきん)と呼ばれる形態の細菌からなる。赤い子は辛味に強く、黄色い子は酸味に強く、青い子はブルーハワイ味に強い。僕たち球菌、あなただけについていく。


「普通ならここまで大きさの差があっては勝ち目は無いが……今日ほど、敵がセルリアンであったことに感謝したことはない、な」


 鋭い視線を向けながらも、ハシブトガラスは少し不敵に笑っていた。


「あいつに感謝って…… セルリアン化していなかった方が勝機無かったとでも言いたげだけれど」


「当然。あれを見てみろ」


 アミメキリンも観察眼には自信があるが、ハシブトガラスのそれは更に上を行く。非常に小さな異変も見逃さない。


「あれもセルリアン。なれば、弱点である石が存在する、という訳だ」


 指差した先、寄生虫の頭の上側。そこにほんの小さな出っ張りがあった。


 頭の、上に、石が、ある。叩きに、いこう……ボッ!? あの石、高い!?


「そ、そう言えばセルリアンは石を叩いて砕くのが定石だったわね……」


 最近はセルリアンとめっきり戦わなかったので忘れていたなんて言えない……! 弱点の石を叩いて砕く。アミメャーンがやらねば誰がやる。


「私に任せなさい。一撃で、沈める」


「そのセリフ、嫌な予感しかしないんだけれど……」


「いや、奇襲による弱点への攻撃であれば、アミメキリン、貴方よりも私の方が向いているというだけのことだ」


「うっ、それは一理あるわね」


 石は高い位置にあり、渾身の力でジャンプしても届かない。そもそも走って近づいては気付かれてしまう可能性が非常に高い。


「よし、やるぞ」


 ハシブトガラスはどこからともなく取り出した、鳥のフレンズのぬいぐるみを抱き締める。


「ヤタガラス様、私に勇気を……」ギュー


「それなに?」


「1/8ヤタガラス様ぬいぐるみだ、やらないぞ?」


「いやいらないけれど」


 信じられない、という顔をするハシブトガラスだが、今その話は後回しである。


「ヤタガラス様成分も摂取した。もう失態は……しない!!」


 バシュ! と鋭い音を立てて飛び上がったハシブトガラス。

 一瞬の内に高く舞い上がり、気付く間も与えず頭の上に回り込む。


「そこぉっ!!」


 空中で一回転し、その勢いを殺さぬままに石に向け強烈なかかと落としをぶちこむ。あ、スカートの中が見え(殴


「グギャアアアアッッ!!!!」


 断末魔の叫びをあげるセルリアン。突然の激痛、身悶えしながらも攻撃した相手を探し、その体を激しく震わせる。


 しかし、それも数秒。亀裂が走り、そして……



 ぱっかーんっ!!



 いくつもの黒いキューブとなって、弾けて消えた。


「図体はデカイが、こんなものか」


 満足げな顔で、ハシブトガラスは地上に降りる。

鮮やかに、無駄なく、そして鋭い一撃であった。


 ゼンダマキン達もこちらに手を降って何かを言っている。讚美の言葉だろうか、感謝の言葉だろうか。




 ん? その後ろにいるアミメキリンが慌てている様に見える。何か言っているな、耳を澄ませてみるとしよう。


「────ハシブトガラス!! まだそいつ生きてる!!」


「なっ!?」


 後ろを振り返ろうとするが、それでは間に合わないと感じ急いで距離を取ろうとする。しかし、やはり遅かった。


「ぐぅっ!?」


 見えはしなかったが、こちらに向かって噛みついてきたのであろう。左腕に激痛が走る。ヤツの歯がかすってしまったようだ。


「ぐ……確かに倒した筈、何故……」


 弾き飛ばされながらも、アミメキリン達の元へと戻るハシブトガラス。

 ようやく振り返ると、そこには傷ひとつない、全く同じ姿のセルリアンがいた。いや、一つだけ違いがある。一回り、小さくなっている。


 攻撃に耐えた訳ではない。爆発するところは確かに見たのだ。なぜ倒れていないのか考えども理由については分からなかった。



 フレンズである二人には知りようも無いが、そこにはこの寄生虫の形態に関するある特徴が隠されている。

 雌雄抱合。この寄生虫は、雄が体の中に雌を抱き抱える形をとる。ハシブトガラスが倒したのは雄にあたる外側の個体だけで、内に包まれていた雌の個体は生きていたのだ。




 そして、雌雄が存在するということは最悪の可能性を示唆する。




「ピギャアアアアアア!!!!」


 今までの鳴き声よりも、一際高い声。その声が響き渡ると共に、激しい地響きが巻き起こり、そして……


「まさか……」


 次々と、地面から黒が這い出てくる。

 巨大な寄生虫型セルリアン、それは決して一体ではない。総数20をも越える程の、増殖した悪夢であった。


 寄生虫一体に食い荒らされた所で、ヒトは平気だ。だが、やつらは増える。その一点が命を奪う凶悪な牙となる。


 奇しくも幸いなのは、先ほどのセルリアンの叫び声に体中の別個体が引き寄せられたことである。

 その為、ここにいる物を全て倒せればつなぎを救い出せる。



 ──無論、倒すことが出来れば。


「無理……だ……」


 声を絞り出しハシブトガラスは伝える。


「石は高い位置、奇襲は不可能……放置すれば増殖するなら、ゲリラ戦も出来ない…… 小さくなっていられる制限時間もある……」


 そして、ハシブトガラスは負傷している。


「奴等をまとめて倒す、守護けものの様な圧倒的火力があれば話は別だが……そんなもの、お前も私も……持ってはいない……」


 そもそも、自分達の生還さえも困難である。呼ばれたセルリアン達は今はアミメキリン達に気が付いていないが、気づくことは時間の問題である。


「私を、置いていけ…… お前が逃げるための時間位、稼いでみせる……」


 当然、この数を足止めするなんてことは万全の状態でも厳しい。ハシブトガラスの言葉は、自らを切り捨てろという意味であった。


 ───普通のフレンズならすぐに逃げ出したかもしれない。


「何言ってるの!? 諦められないわよ! つなぎも、つなぎの為に危険を侵して立ち向かってくれた貴方のことも、私は諦められない!!」


 アミメキリンの本質、それは立ち向かう勇敢さ。決意の強さ。


 ぐったりと項垂れるハシブトガラスを無理やり背負い、全力で逃げ始める。


「グギャアアアアア!!」


 二人に気が付いたセルリアンは叫び、周囲にその存在を知らしめる。沢山の目が、こちらへと視線を向けることを感じる。


「あとちょっとなのに……!」


 しかし、そのちょっとが永遠のように遠い。セルリアンは大きな口を開け、アミメキリン達を丸のみに……することは出来なかった。


「おくすり様達を守れーー!!」


 ゼンダマキン達が突撃し、セルリアン達に取り付いて撹乱し始めたのだ。


「あなた達、そんなことしたら死んじゃうわよ!? そんなことしなくても逃げ切ってみせるから……!」


「僕たちは、やられても菌に戻るだけだしすぐ増える事ができるから!」

「僕たちが増えるためのこの世界の方が大事!」

「だから絶対アイツらやっつけて! おくすり様!」


 この会話をしている間にも、どんどん蹴散らされていくゼンダマキン達。


「つなぎのことを諦めて、ゼンダマキン達を見捨てて、逃げることしか……出来ないの……?」


 目の前で繰り広げられる戦い。無情に蹴散らされていくゼンダマキン達。

 その光景の衝撃に走らなくてはいけないとわかっていても、膝をついてしまった。


「おくすり様! ダメ! 逃げて!!」


 それを察知したゼンダマキン達が、この場から逃がそうとアミメキリン達を押し運ぶ。


「何で止まるんだアミメキリン。諦めたく、ないんだろう?」

「ハシブトガラス……」


 暗い顔のアミメキリンに対し、優しく諭すハシブトガラス。


「何がお前をそこまで突き動かすのか…… 私も少しだけ分かる。ヤタガラス様が危ない時、私はきっと敵わないと分かっていても立ち向かってしまうだろう」


 背負われた状態から降り、彼女はアミメキリンをまっすぐに見つめる。


「私では無理だが…… お前なら何か思い浮かばないのか? いくつもの事件を解決してきたその探偵の知恵とやらで、逃げる以外の選択肢を、見つけ出せないのか?」


「新しい……選択肢……?」


 そんなこと言われても、ここには何もない。逆転の一手には、それなりの物が必要なのだ。

 一面覆うピンクの空、浮かぶ食べ物達、ミクロフレンズ…………


 お腹の中の世界……お腹……セルリアンを一網打尽……


「あーーーーーっ!!!」


「な、なんだいきなり叫んで!?」


「これよ! この夢の世界だからこそ、ふざけたようなこの空間でこそ、あいつらを一網打尽に出来る方法がある!」


 アミメキリンは、思い付いた案をハシブトガラスに話す。


「正気か!?」

「正気じゃやってられないわよ!! でも、これしか方法がないからこそ賭けてみる価値はあるわ!!」


 それは自分達にも大きな危険が及ぶ作戦。しかし、寄生虫型セルリアン達を一掃できる可能性を持つ、一世一代の大博打。






「作戦名は、そう─────メシマ作戦!!」



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