第70話 自分から食べられにいくスタイル

※遅くなって申し訳ありません!! 今回は困ったときは神頼み回です。つなぎちゃんお休み中……





 つなぎの診断を終了し、ベッドから降りたボスはもう一度導き出した結論を口にする。


「アミメキリン、コレハ、寄生虫ガ原因ダト考エラレルヨ」


「寄生虫…?」



ジャパリ住血線虫。


 その名の由来は、かつて山梨県甲府盆地で500年以上に渡り猛威を振るい続けた寄生虫、「日本住血線虫」に非常に近い特徴を持つことから来ている。


 日本住血線虫について少し話そう。

 昔、甲府盆地の農村では地方病と呼ばれる謎の病気が人々を苦しめていた。

 発熱や下痢等の症状の後、お腹が異常に腫れ上がりやがて死んでしまう。恐ろしい病気であるが感染源がまったく不明で、予防のしようがなかった。

 甲府に住む人々の決死の嘆願により研究が進められ、正体が明らかになった。それが日本住血線虫なのである。

 水の中に潜み、皮膚を突き破り体内へと侵入、肝臓に取りつきその機能を破壊する悪魔の虫。だが、先人の努力により現在は終息を迎え新たな患者は出ていない。


 詳しいことはwikipediaの日本住血線虫の項目を参照していただきたい。あのサイトの中でも指折りの完成度を誇る記事の為、読み物としてもオススメである(ダイマ)




 と色々述べたが、このジャパリ住血線虫もそれと同様の性質を持っており、水に触れたフレンズの体に侵入しその肝臓に寄生してお腹の腫れと熱を引き起こす。

 フレンズに寄生する生物は後にも先にもこれ以外には発見されていないらしい。


 データが秘匿されていたのは、原因究明と治療にフレンズの解剖を行わなくてはならなかった為である。なお、現在は終息しているとのこと。



「つまり、そんな危険なものに犯されてしまっているのね……」


「治療法は、手術による直接除去、ト記サテイルヨ」


 この寄生虫は肝臓に集結し、その表面にて増殖する性質を持つ。その為手術にて取り去ることで対処可能なのだ。


「ですが、私も含めそんな技術を持ったフレンズはいません。ましてや、ヒトの医者の手配など……」


 出来ない、と最後まで言い切る事は出来ずオイナリサマは目を背ける。口にしたら諦めてしまいそうだからだ。


「原因が分かったのに、対処不能……?」


 不安な目でオイナリサマを見つめるアミメキリン。しかし、その目に対する答えはない。


「え? オイナリサマ、嘘でしょ? 何か方法が……」


「アミメキリン、ごめんなさい。私の力でも、どうしようも……」


 嘘はつけない。やれることがあるならなんだってやってあげたいと思う。しかし……ヒトに出来て神に出来ない事もある。自分はヒトにはなれない。ああ、私はなんて無力なのか────

 


「フレンズを救うことに諦めを見せるとは、そのほうらしくないではないか? オイナリ!」


 突如、外からかかった謎の声が二人の会話を遮った。


「この声は……まさか!」


 オイナリサマの耳がピクピクと反応する。何かを感じているようだ。恐らく、それは大きな力の気配。


「知っているの?」


「ええ。すべての命の繁栄と平和を願い、正しき道へと導くもの、彼女の名は……」


 オイナリサマが名前を告げる前に外から再び声がかかる。


「そう、余こそが神なるけものの一柱、ヤタガラスだ!」


 どこだ? どこだ? あそこだ! 窓から少しだけ顔を出してこちらを見ているのだ! はい、ひょっこり神。


 黒き装束に身を包んだ鳥のフレンズ。守護けものの一人、ヤタガラスがそこにいた。腰から伸びる黒い三本の腕と鍵爪が特徴的だ。


「どうしてそんなところに?」


「夢を運ぶものは玄関からは入ってこない。そうであろう?」


 彼女は過去“夢“に関する大きな事件に絡んでおり、その経験から守護けものの中でも“夢“を司る者として有名になった。


 ちなみに夢を運ぶものと言われると赤と白のプレゼント大好きおじさんが頭に浮かぶが、筆者はその正体がお父さんであることを知る前に職業サンタが存在することを知り色々衝撃を受けた。ずいぶんと昔の話である。


「ここに来ると愉快なものがたくさん見られるとの夢のお告げだったが、本当だったか」


 窓から部屋に入ったヤタガラスは、中を見渡し満足そうに頷く。余裕そうに見えるが体のあちこちに葉っぱとかがくっついている、実は猛スピードで駆けつけたのだろう。


「一体何しに来たのですか?」


 オイナリサマは彼女のことをよく知っている。決して、無駄なことはしないフレンズだ。ここに来たのであれば、確固たる目的があるに違いない。


「昨晩、余は夢を見た。謎の老人と握手し、予言を授けられる夢だ。 “古からの死臭ただよう密室で、幼子が門を開くとき……“ こっちじゃなかった。 “キョウシュウのみずべちほー、そこに命絶えそうなフレンズがいる。訪ねて思い思いに行動すれば、面白いものが見られるであろう“ とな」


 そこまでいってヤタガラスはベッドで寝ているつなぎの方をチラリと見て、命絶えそうなフレンズとは誰の事かを確信する。


「ひとまず、今の状況を教えてはくれまいか?」


 


「なるほど……ヒトのフレンズにフレンズのみに寄生する生物……か」


 少し苦しそうに眠るつなぎの傍らで、アミメキリンとオイナリサマから話を聞いたヤタガラスは腕を組み考え込んでいた。


「うむ、危険だがアレしかあるまい」


「何か手が!?」


 物凄い勢いで詰め寄るアミメキリン。ちょっと唾が顔にかかりチベスナ顔になるヤタガラス。


「あ、ご、ごめんなさい!」

「よい。そこの娘を助ける為に、余が力を貸してやろう。しかし、それには条件がある」


 少し距離を取ったあと、アミメキリンの事をジーっと見つめる。その力を見定める為に。


「アミメキリンよ、そのほう、余も会ったことのない守護けもの、霊獣 “麒麟“ の眷属と見た」


 アミメキリンはきょとんとしている。全く知らないから無理もない。


「あやつ、四神とオイナリ以外の守護けものには頑なに会おうとしないのだ、そうだろう?」


「ノーコメントです。最近連絡つかないですから……」


 視線を向けられたオイナリサマは顔を背けてそう言った。

 あれほどアミメキリンとつなぎの事を気にしていた彼女だが、最近とんと連絡がつかない。心配してはいるが、こちらの状況が余談を許さないこともあり、訪問できてはいない。


 ここでオイナリサマが砂漠へと赴いていたら物語は大きく変わったかもしれない。ifの話ではあるが。



「さて、余が提案するのは危険な方法だ。だから友を救いたいのなら、眷属としてその身に宿した力を見せて貰おう」


 ヤタガラスはなんらかの力がアミメキリンに宿っていることを感じていた。詳しくはわからない、ただ、ぼんやりとその気配を感じるのである。


「けんぞく? 違うわ、私はアミメキリン、名探偵よ!!」


 ゆきやまちほーに入ってからあんまり探偵ぶりを見せれていなかった彼女、ここぞとばかりに探偵属性の再確認。


「う、うむ。絶対賢さ低くて攻撃力とHPが高いギガン○スタイプの能力値だと思うのだが…… まぁ良い。そのほう、名探偵を名乗るのであれば、余の眷属を知恵にて打ち負かして見せよ!」 


 そう言い放つヤタガラス。


「知恵で勝つ? 一体何をすればいいの……?」


「そう身構えるな、余の用意した簡単なゲームにて勝てば良いのだ。────ハシブトガラスよ!!」


「───ここに」


 ヤタガラスが片手を挙げると、即座によく似た服装のフレンズがその足下に馳せ参じた。彼女がヤタガラスの眷属の1人、ハシブトガラスである。


 尚、本当は屋内なので、外で待機していたハシブトガラスは扉をノックしてから開け、ゆっくりと彼女の元へ歩いていたので即座に参上とは言い難い。

 ふふふ、皆その程度のことなどわかったうえでたわむれているのだがの。


「こちらにいるアミメキリンとお前で、知恵比べのゲームをして貰いたい、出来るか?」


「このハシブトガラス、ヤタガラス様から命じられたことならば何だって致します。出来るかではなく、やれと一言仰っていただければ良いのです」


「そちらで用意したゲーム……」


「アミメキリンもそう警戒するな。勿論、ハシブトガラスを贔屓したり、イカサマしたりなどはせぬよ」


 微笑むヤタガラスからはその真意は読み解けない。本当に知恵を見たいのであろうか。


「ヤタガラス様、して、そのゲームとは?」


 膝まずいた体制から立ち上がり、ハシブトガラスは自らの主にそう尋ねた。


「ゲームの名を“長レース“。かつて別のちほーにて島の長を決める知恵比べの時に使われていた物だ」


 提示されたのは道具なしで出来る、簡単なゲーム。


「ルールは簡単。私が指定した単語、その単語の終わりの文字から始まる単語を指定された単語にくっつけて言う。例えばリンゴ、と指定されたらゴから始まる言葉、そうだな……ゴリラをくっつけてリンゴリラ、と返す。お互いそれを言葉に詰まったり思い付かなくなるまでくり返す。BGMを用意してやるから、ゲームのリズムにのれなかったり、言葉が詰まっても負けだ」


 つまり、ひたすら同じ頭文字の単語を言い合い、語彙力を競うのである。


「指定された単語を二回繰り返し、その後に指定された単語+その終わりから始まる単語を言ってもらう。リンゴ、リンゴ、リンゴリラ、という風だ。それが同時に制限時間でもある」


 ゲームはリズミカルに、かつスピーディーに。


「余が指定する単語は知恵を争うこの勝負にちなみ、“叡知(えいち)“だ。準備は良いか? それではミュージックスタート!! ……デデッ♪デデッ♪デデッ♪デデッ♪デデッ♪デデッ♪」


「BGM まさかのヤタガラス様自ら!?」


 全力でリズムを刻むヤタガラス。ゆるい雰囲気であるがしかし、これはつなぎを救うためのゲームである。

 そして、ヤタガラスを盲信するハシブトガラスにとっても、期待を裏切らないため負けられない闘いであった。


「アミメキリン、いかに貴様が優れていようとも、ヤタガラス様のお側で悠久の時お仕えし、学んできた私に勝てるものか!」


 ハシブトガラスは指を指し宣戦布告する。


「くっ」


 アミメキリンの額に冷や汗が流れる。自らよりも多くの言葉を知っているであろうフレンズ相手に、自分は勝ち目があるのか。勝機を見つけ出せないまま、ゲームはスタートする。


「覚悟しろ! いくぞぉ!! 叡知、叡知、叡ちん────────」








「うわああああヤタガラス様お慈悲をおおおお!!!! どうか!! どうか!! このハシブトめに今一度名誉挽回のチャンスをおおおお!!!!」


「う、うるさいうるさいうるさーーーい!!!!/// 真っ先にあんな卑猥な言葉言うなんて、余の眷属じゃないもん!//// そんな子に育てた覚えはない!///」


「違うのです! 絶対に打ち負かしてやろうという意気込みで頭に血がのぼって興奮してしまって……!」


「興奮してあ、あの単語が出るのかぁ!?///」


 真っ赤な顔をしてそっぽを向くヤタガラスとその足下にすがりつくハシブトガラス。


 その様子を一歩引いて見るアミメキリンは苦笑いで立ち尽くし、オイナリサマは顔を背けて小刻みに震えているので多分笑いをこらえている。



 ハシブトガラスの第一ターン、彼女はあろうことか“ち“から始まり“こ“で終わるオスしか持たない例のアレの名前を全力で叫んでしまった。


 当然、知恵を争う崇高なこの勝負に下品なワードを使うことはNG。

 つまるところ、ハシブトガラスのミスによりアミメキリンの勝ちということである。そもそも単語の知ってる量よりも閃きが肝のゲームだったりするのだ。衣服交換はありません。


「ね、ねぇ…… どんな方法でつなぎを助けてくれるの?」


「む、まぁ確かに負けは負けである……」


 結局何も示せていないのだが、ゲームで勝ったら力を貸すという前提条件であった。渋々協力を承諾する。


「そもそも薬なぞないのだ。寄生虫を倒す他あるまい」


「でも手術とかいう方法では無理だって……」


「そこは、ここに守護けものが二匹も揃っているから何とかなろうというものだ。オイナリ、確か前に話していたであろう? けものプラズムのコントロールによって、フレンズの大きさを自由に変えることが出来るんだと」


「そんな事も言いましたね。ええ、制限はありますが出来ますけれど……まさか?」


「そうだ、体を切り開かねば治せない? 否、切り開かずに寄生虫を駆除すればよい」





「アミメキリンよ! その方が直接あの者の体内に入り、寄生虫を駆逐するのだ!!」

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