第69話 記録せずに休むと申されるか
※アミメキリン回のようなそうでないような。前回つなぎちゃんに活躍して貰ったので今回は彼女はお休みモードです。
一難去ってまた一難、という言葉がある。困難や災難を乗り越えたと思ったが、息つく暇もなく次の困難がやってくる様を示した言葉だ。
実は、これはインドのことわざである。巨大なナンを何とか食べきったら次のおかわりのナンが焼かれてもってこられた絶望を表す言葉だ。とか言うのは嘘。
ただ、一つ言えることはこの小説は一難去ってまた一難に満ち溢れている。謎のヒトを撃退してはい、終わり、とはならなかったりする。
海の中での激闘が終わった直後、つなぎはアミメキリン達が乗るクルーザーによって助け出された。
「へ、へへ……やりましたよ、一人で、あいつを追っ払ってやりましたよ……」
そういって笑うも、その顔に力は無く服もぼろぼろであった。
「正直、助かってほっとしてるけど、どうやってあいつの手から逃げてきたの?」
「……」
つなぎはその言葉に答えない。力なくふらふらと歩き、そして立ち止まる。
「つなぎ?」
「……お腹が……痛い………」
つなぎはその言葉と共にうずくまり、その場でバタリと倒れてしまった。
陸に上がり、手近な施設のベッドに寝かされたつなぎ。その顔は青く、うなされている様に見えた。
その様子を傍らで見ているのは、アミメキリンとオイナリサマである。
「アミメキリン。一体、何が原因でこうなったのですか?」
「分からないわ、海の中で何かあったのかも……」
つなぎの様子を診察しているのは、たまたま近くにいたラッキービーストである。
「高熱ト、オナカニ張リガアルネ。専門ノ医師ニヨル診察ヲオススメスルヨ」
「それが出来たら苦労しないのですが……」
オイナリサマはラッキービーストをベッドから下ろし、自らでも様子を確認する。
「確かにラッキービーストの言う通りですね。私が考えていたのは、病気か毒の可能性です。呪い……みたいなものがこの世に存在するかは分かりませんが、私の様な存在がいる以上その可能性もゼロではないかもしれません……」
「病気、毒、呪い…… フレンズが病気にかかった事なんて聞いたことないのだけれど……」
「一部、特殊な病気はフレンズも罹患する事がわかっています。この様な症状のものは聞いたことがありませんが……」
オイナリサマは少し考え込む素振りを見せたが、すぐに姿勢を直しアミメキリンへ語りかける。
「しかし、安心して下さい。私はフレンズの安全を守る守護けもの。菌が原因の病気や毒、呪いを祓う事が出来るのです」
「そんなことが、可能なの……?」
「私は他の守護けものと比べても、こと悪いものをはね除けることに関しては得意なのですよ」
かつてジャパリパークを救ったと言われる伝説のヒト。彼が持つオイナリサマのしるしが刻まれたお守りは、あらゆる災難から彼を護ったと伝えられている。
「オイナリサマ、お願いします……!」
アミメキリンは深く頭を下げる。
「勿論、そのつもりです。アミメキリン、頭をおあげなさい。目の前で苦しんでいるフレンズを放っておける筈がないじゃないですか」
そういって微笑みかけた彼女の顔は、まるで神様のようであった。会いに行けるタイプの。
「こほん、さて……それでは始めましょう」
一つ咳払いをし、つなぎの枕下まで移動すると彼女は言った。
「生きとし生けるフレンズは みな守護けものの子。 わが神社に どんな ご用ですか?」
▶おいのりをする
おつげをきく
いきかえらせる
びょうきをなおす
どくのちりょう
のろいをとく
やめる
「え? どういう仕組みなのこれ!? と、とりあえずびょうきをなおす?」
「さすれば 我が神社に 8ジャパリまんの寄付を。よろしいですか?」
「料金取るの!?」
価格は貴方の気持ち次第。
「冗談です、お約束かなと思いまして…… さて、始めましょう。大いなる神よ! この者の体に救う悪しき病原菌、毒、呪いを取り払いたまえ!!」
オイナリサマが祈りを捧げると、つなぎの体が天から差す光に包まれた。屋内なのに。
そして、そのまま寝ているつなぎが浮き上がりくるくると回りだす。
「ちょっと待ってつなぎ回る必要あるのこれ?」
「まんべんなく光を当てるためですよ。そのままだと片方だけ沢山浄化されちゃいますから。フレンズ一人だと600kwで2分30秒ですね」
まさかのレンジ式浄化である。
コンビニでお醤油を買った時に「袋に入れてください」と言おうして間違えて「温めて下さい」と言ってしまい、慌てて訂正しようとして「ここで食べていきます」と言ってしまったのは私くらいではないだろうか。
「そろそろですか」
浄化を止め、つなぎの体を様子を確かめる。
「……うう……」
しかし、病状は治らなかった。むしろ、悪化しているようにも見える。
「病気や毒が原因なら、これで何とかなるはずです。しかし、治らない。どうして……」
治す自信があったオイナリサマだが、失敗し少なからず動揺していた。
「オイナリサマ、アミメキリンさん…… 何となく、これだけでは治らない気はしていました……」
つなぎがゆっくりと目を開く。途中から意識を取り戻していたのだ。実は浄化の光には痛み止め作用もあったので、少しだけ話せる様になっていた。
「もう……駄目です……きっと……」
「きっと?」
「地球外生命体がお腹の中からこんにちはしてくるんです……皆さん逃げて下さい……!」
そんな地球外生命体まで出てきてしまったらスケールがさすがにでかすぎるのである。セルリアン私セルリアン、貴方のお腹を惑わせる♪
「諦めてはいけませんよ、つなぎ。必ず治してあげますから、今は休んでいなさい」
「はい……」
しゅんとするつなぎを部屋に残し、オイナリサマとアミメキリンは一旦外へと出た。曇っていた空が不自然に晴れ渡っている。心の中は晴れだとは言い難い気分であったが。
「しかし、アミメキリン。これは本当にまずいかもしれません」
つなぎの前では彼女を怖がらせまいと笑顔で接していたオイナリサマだったが、今は険しい顔をしている。
「それって、どういう……?」
「助け出してから病状の悪化が早いです。私は医者では無いので詳しいことは言えませんが、このままだと、最悪の場合を想定しなくてはいけないかもしれません」
それはつまり────
「このままだと、死んじゃうってこと……?」
「そこまでは言いませんが、正直何とも言えません。皆目検討がつかないのです。何か、手がかりがあれば……」
「手がかり……」
診療とはある意味推理、数々の手がかりから犯人である“病名“を突き止めるものである。そう考えた場合、自分も何か出来るとアミメキリンは思った。
「私、少しつなぎに聞いてきます。原因に心当たりがないか」
つなぎはコップを手に持って、ストローで何かを飲んでいた。顔色は相変わらず悪い。痛みを我慢しているのであろう。
「あ、アミメキリンさん。これ、お腹の調子が悪いフレンズ用につくられたドリンク、ジャパリラッシーなんですって。味は、まんま飲むヨーグルトなんですけど飲んでみます?」
ラッシーとはインドの飲み物で、ヨーグルトとミルクを混ぜて、砂糖や蜂蜜で味を整えてつくる。激辛カレーもこれを一口飲めばあら不思議、刺すような痛みが一瞬で消えるのだ。
ちなみにジャパリラッシーを配布するボスはラッシービーストと呼ばれているとかいないとか。
「つなぎ、食事中悪いわね。辛いかもしれないけれど、答えてちょうだい。海の中で戦ったとき、何か引っ掛かることやおかしなことは無かった?」
「おかしなこと……?」
考えてみると、ダントツで怪しい瞬間があった。
「……あいつ、奥の手だ、と言って黒い液体をバラまいて逃げて行きました。もしかして、それかも」
「黒い液体?」
アミメキリンはつなぎの服を良く見る。確かに、所々少しだけ黒くなっていた。
「その液体に秘密が……?」
急いでラッキービーストに分析してもらう。すると、一つの事実が分かった。
「ホンノ微量ダケレド、サンドスター・ロウが含マレテイルヨ」
今まで何度も立ちふさがってきたサンドスター・ロウ。
「サンドスター・ロウがこの現象に関わっている、予想はしていたけれど、よりその可能性が高まったわね」
アミメキリンは、その事をオイナリサマに報告する。しかし、事態はあまり進展しなかった。
「そうですか、サンドスター・ロウ……しか検出されなかった。としたら、例のあいつが撒いて逃げたのは、サンドスター・ロウが含まれていたただの水、ということになります。黒かったのはそのせいですね」
「ロウに侵されているわけではないの?」
「それならば、先ほどの時に浄化できる筈です」
「じゃあ、関係ないってこと?」
「それも何とも……」
つなぎの証言から有益な情報を得られなかった。それはつまり、捜査の取っ掛かりが無くなってしまったということだ。
しかし、アミメキリンは慌てない。
(確か、前にもこんなこと……)
この状況に役立ちそうな、自分の過去の記憶を引っ張り出す。フレンズの中でも賢く、さまざまな探偵術を知っているタイリクオオカミと過ごした記憶が、彼女の強みなのだ。
─────────────────
あれは夏の日、タイリクオオカミが漫画が思うように書けず苦しんでいたので、傍らで応援していた日。気分転換になればと話題をなげかけたのだ。
「先生、証拠がものすごい少ないとき、どうすれば推理できますか?」
「そうだねぇ……まず、推理には証拠が必要不可欠だ。証拠なしの推理は言いがかりになってしまうからね」
「ふんふん、そうですね!!」←理解できていない
「そんなときは、新たな証拠が出てくるまで何度だって聞き込みするんだ。一度聞いた話の中に、まだ真実が埋もれているかもしれない。大抵、根っこの部分で勘違いしていることがあったりするのさ」
タイリクオオカミは書きかけの漫画から手を離し、ううんと背伸びして立ち上がる。
「そんな訳で、私も今日が〆切だと思っていたが、それは勘違いだった。〆切は明日だ。だから、とりあえず今日はひなたぼっこでもして明日に備えるとしよう」
「え? でも長達が朝からロッジに来て原稿待ってますけど」
そんな甘くはいかなかった。
「くそう!!」
─────────────────
アミメキリンは考える。一番最初の視点が間違っているとしたら……
自分より優れている相手の言った事だと思考を放棄して、言われたことを鵜呑みにしているとしたら……?
そこに突破口があるかもしれない。
「オイナリサマ、あの浄化の光は大抵のものはなんでも治せるの?」
アミメキリンは確認を取る。
オイナリサマは言った。これで治せないなら病気でも毒でも無いと。呪いはよく分からないが。
しかし、本当に絶対無いのだろうか?
「ええ、微細な病原菌や毒の成分なら、まず間違いなく」
「つまり、大きいものは無理ってこと?」
「ええ…… 目に見えないほど細かな悪しきものを祓う力です。はっきりと目で見えるような大きさのものには効きません」
「逆に言えば、目で見える大きさのものが体内に侵入している可能性がある、ということ」
八方塞がりかと思われた状況から、新たな手がかりが生まれた。
しかし、それでも分からない。知識が足りない。犯人のことを知らなければ犯人だと断定出来ない。
調べものをするなら図書館だが、そんなことをしている暇もないしそもそも本も読めない。
そういう時は、手近な誰かに助けを求めても良いかもしれない。そして、貴方がもし沢山の人達と関わって生きてきたなら、願わなくてもピンチの時には誰かが助けに現れることも、もしかしたらあるだろう。
「菌デモ毒デモ無ク、ヒトノ体内ニ侵入シ悪サヲ働ク物……可能性ガ高イ物ガアルヨ」
アミメキリンとオイナリサマが話している足下、いつの間にか接近している者がいた。
そこに居たのは、普通の個体より黒くて尻尾モッフセレクション金賞を受賞したラッキービースト、元暴走ボスであった。
「貴方……服役中じゃあ……?」
「チャント刑期ヲ終エテ出テキタヨ。モシ僕ノ刑期ガ不自然ニ短クナッテイテモ、ソレハアチラノ責任ダヨネ」
「ああ……貴方がどうやって出てきたのか、何となく分かる気がします……」
オイナリサマは頭に手をやってやれやれと首を振る。
「ツナギヲ僕ニ見セテ。サッキマデノ情報トツナギノ様子ヲ照ラシ合ワセテ、診断シテミルヨ」
自信たっぷりだが、オイナリサマにわからなかったのにこいつに分かるのであろうか、アミメキリンは少なからず不安を覚える。
「確かに貴方が過去役立った事はあるけれど、今回は中々難しい……」
「任セテ、ナンテ言ワナイ。僕ハタダ最高ノ結果を出スダケ。オ前達ハ、イエス、ト言ッテ結果ヲ待っツダケデ良インダヨ」
無駄に言い回しがかっこよかった。
「そ、そこまで言うなら……やってみなさいよ」
「了解、チョット待ッテテ」
元暴走ボスは寝ているつなぎの枕元に行き、そしておもむろに衣服を剥ぎ取る。
「ちょっと!? 何やってんの!!??」
「医療行為ダヨ!! グヘヘ……」
「グヘヘって言った! あいつグヘヘって言ったわ!!??」
「落ち着きなさい、アミメキリン。今はあいつに任せるしかないのです」
しかし、剥ぎ取ってむき出しになった肌には、おかしな所が確かにあった。
「腕、足ニ虫刺サレノヨウナ赤イ痕」
蚊に刺されたような腫れが何ヵ所かにあったのである。当然、海の中に蚊はいない。
「腹痛、腹部ノ腫レ、発熱、水ニ入ッタ後ニ腕ニ赤イ痕……ソシテ何ヨリ、フレンズガ、患ウ病気……」
元暴走ボスは診療の手を止める。アミメキリン達が導きだした手がかりと診断結果から、真実を捜す。
「症例分析……データベースヘアクセス……該当無シ。上位個体ノミ閲覧可能ナデータヘハッキング………………」
ガタガタ震えながら高速なデータ検索を続け、そしてひとつの答えを導きだした。
「………………該当1件 寄生虫症 ジャパリ住血線虫」
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