第58話 一緒にいる理由

※大変お待たせ致しました、今回はつなぎとアミメキリンが裸で語り合う回です。いや本当に。多分描写的にはセーフなんですけど一応R15扱いにしておきますです。

また、一部地震を思わせる描写があります。お話を進める上で必要な描写なので入れましたが、もし不快に感じる方がいらっしゃいましたら、大変申し訳ありません。




前回のあらすじ


 オイナリサマに海を綺麗にする道具を探して来て欲しいと頼まれ、温泉施設へ手がかりを探しに行くアミメキリンとつなぎ。途中で見つけた温泉に浸かって暖まるが、ゆきやまを歩く上で頼みの綱であったペンギン雛風防寒具を、何者かに奪われてしまったのであった。





 この極寒の地で衣服が無くなることはつまり洒落にならないのである。


「早く取り返さなくちゃ……!」


 つなぎは急いで残された作業服を着る。上下一体なので素早く着衣することが出来るのだ。


「待ちなさいつなぎ! 一人で行くのは危険よ!」


「でも見失うと大変です! 先に行ってます! アミメキリンさんは後から追いかけてきてください!」


 つなぎは、そういってトキモードにて地を蹴って滑空し、低空を飛行し追いかける。盗んだフレンズのものと思わしき足跡が残っている。これを追えば、犯人の元へとたどり着ける筈だ。


「ああもう! 言うこと聞かないんだから!」


 置いていかれる形になったアミメキリンも急いで体を拭き、服を着る。しかし、彼女の服は少し着衣に時間がかかる。ブーツや手袋の着用もそれに拍車をかける。結果、つなぎにだいぶ遅れてその後を追いかける形となってしまった。

 

「嫌な予感がするのよね……無理していないと良いんだけど……!」


 そう言いながら走るアミメキリンの先、冬の空に灰色の雲が広がり始めていた。




温泉施設



「はあぁ…………みずべちほーではえらい目にあったのです」

「温かいお湯が疲れに沁みるのです……ふあぁぁ……」


 博士と助手の二人は、アミメキリン達に先駆けて温泉施設へと来ていた。キョウシュウ近海の問題は島の問題、事が大きい為、海の除染方法の調査に博士達も協力するつもりであった。

 が、さすがにハードな仕事続き。まずはせっかくの温泉なので疲れをとるために一息入れているのである。適度な休憩は仕事の効率をあげるのです! なお助手たっての希望により博士と助手二人っきりで入浴中である。



「それにしても、ギンギツネが言っていた“毛皮盗り“……気になるのです」


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「ギンギツネ、久しぶりなのです。温泉施設に特に問題はありませんか?」

「キタキツネやカピバラも元気ですか? 我々は常に島の者の健康を気にかけているのです」


 博士と助手は比較的寒くない道を選んで飛び、アミメキリン達よりも遥かに早く温泉施設に辿り着いていた。


「あら、博士と助手こんにちは! キタキツネはまたゲームしているわ……カピバラは今日も入浴中よ。所で、二人がこんなところに来るなんて、何か用かしら?」


「後から二人組のフレンズがここに来る筈なのです。そいつらを手助けしてやる為に来たのです」

「あと温泉です。博士と私はとても疲れているので、二人っきりで疲れを取りたいのです。やつらが来る前に、ゆっくり入るです」

「え、そうでしたか? 助手? ……まぁ、温泉も入りたいのは事実です」


「そう、お風呂なら何時でも入れるわよ。ただ、その二人組が心配ね…… 今日は天気荒れそうだし、ゆきやまの寒さを舐めてると、死んじゃうわよ!」


「そこら辺は大丈夫なのです。ペンギン達にとっておきの防寒具を渡しておくように頼んだのです、吹雪の対処法も伝えるようにお願いしておいたので、無事辿り着くと思うのです」


「とっておきの防寒具……つまり毛皮よね? ということは寒さにあまり強くない……やっぱり心配だわ、“毛皮盗り“にあってなきゃ良いんだけれど」


「“毛皮盗り“? 何かあったのですか?」


「ここ最近、暖かい毛皮を狙った盗難事件が多発してるのよ。この温泉でも一回あったわ。外の小さい温泉とかでも、入浴中に盗られた事件があったのよ。こうしてはいられないわ、吹雪く前に探しに行ってあげないと……でも私が行くには……」ブツブツ


 ギンギツネは何か呟きながら施設に入っていってしまった。



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「まぁ、あいつらもさばくやらなにやら乗り越えてきた旅の経験者なのです。特に問題なく着くと思うのです」

「最悪つく前に吹雪いたら、かまくらか穴を掘って耐えるようにも伝えてあります。マズそうなら我々も探しに行ってやりましょう、博士」


「そうですね、助手。あと助手は本当に脱ぐと凄いですね……」


「あ、あんまり見つめないで欲しいです……///」





「つなぎ! つなぎしっかりして!! こんな所で倒れてたら死んじゃうわ!!!」


 博士と助手の想定以上に事態は悪い方向に進んでいた。アミメキリンは地面に横たわるつなぎを激しくゆする。


「ちゃんと体拭かずにゆきやまで空飛んだら、凍えちゃうに決まってるでしょ!!」


 つなぎを追いかけ始めて10分後、アミメキリンは真っ青な顔で地面に墜落している彼女を見つけたのだった。



「…ぼ、僕はもうダメです…… アミメキリンさん……どうか気にせず……犯人を追ってください……」


 つなぎはアミメキリンをちらりと見て、凍える体でそう言った。


「馬鹿言わないで、防寒具何かより貴方の方が大切に決まってるでしょ!! 一端温泉まで戻りましょう、温めないと……こんなに冷たいじゃない」


 アミメキリンはぐったりとするつなぎを背負い、来た道を引き返し始める。本当に力が入らないのか、いつもよりも酷く重く感じる。手足は氷のようであった。


「背負って歩くのもなかなかキツいわね……自分が足腰が強いけもので良かったわ」


※フレンズだから一気に温めても平気ですが、本当の人間の場合とても冷えた手足を一気に温めるのは危険な場合があります、真似しないように!!


 黙々と歩き続けるアミメキリン。しかし、運悪く吹雪が彼女達に襲い掛かる。視界が白に染まり、風の音が全てを遮断する。


「足跡が消えて……正しい方向が分からない……こっちで……あっているのかしら……」


 宛の無いまま黙々と足を動かす。とその時、吹雪く視界の中に明らかに自然の物では無い何かが映る。


「あれは……?」


 そこにあったのは、かばんがつくったかまくらであった。時間がたったもののまだその姿を保っているあたり、丁寧なつくりがうかがえる。まさに、地獄に仏であった。


「闇雲に進んでも正しい方向が分からない……あそこで、吹雪がおさまるのを待つしか……無いわね……」



────────────────────────


「キタキツネ! ここにいるんでしょ!」


 ゲーム場を覗きながら、ギンギツネはキタキツネを呼んだ。


「なーにー、ギンギツネもう設備点検終わったのー? じゃあ一緒にお風呂入ろーよー」


 キタキツネは新たに発見されたすえおきがたゲームというのをテレビで遊んでいた。


「まだよ、それよりも頼みたいことがあるんだけど……」


「…………話だけなら」


 ゲームをしながら、明らかにトーンの下がった声で応える。


「ここに向かってるフレンズ二人組がいるらしいんだけど、吹雪に見舞われて大変なことになっているかもしれないの、探してきてくれないかしら」


「……ギンギツネが行けばいーじゃん。僕ジャパリ防衛軍のけもフェルノ攻略で忙しいんだよ……ライオンダーZがないとどうしても攻略できないのに落ちない……」


 全ての狙撃武器の頂点に存在するライオンダーZ、二丁持ちすることで圧倒的な殲滅力を発揮できるのだ。


「私は設備点検続けなきゃいけないの! それに、貴方の方がフレンズ捜しは得意でしょう? お願い、貴方にしか頼めないの!」


 ギンギツネは両手を合わせてキタキツネにお願いする。耳がペタンと垂れ下がり本当に困っているようであった。


「ボクにしか頼めない…………分かったよ、今回だけだからね。帰ったら一緒にお風呂入って尻尾洗ってね」




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 かまくらの中につなぎを寝かせたものの、一向に彼女の状態も、吹雪も収まる様子が無かった。


「こうなったら…………四の五の言っている暇は無いわね」




「うーん……あったか……」


 つなぎは自分の体を包み込む、暖かくて柔らかい感覚を感じる。


 ゆっくりと目を開くと、至近距離でこちらを見つめているアミメキリンの顔があった。


「……目、覚めた? つなぎ」

「……? え、え?」


 状況が分からず混乱するつなぎ。今、彼女は温泉に入ったときと同じ一糸纏わぬ姿であった。そして、それはアミメキリンも同様である。

 端的に言って、二人は裸で抱き合っていたのである。


「……/// あ、アミメキリンさん!? な、なななな何が……!?」

「じっとしてなさい、さっきまで凄い冷えてたんだから!」


 アミメキリンがコウテイに教えられたのは、もしも二人が極限状態に陥ったとき、肌と肌を合わせて寒さを凌ぐ方法であった。

 下に衣服を敷き、少しでも寒さを防ぐ。かまくらの中は思ったよりも暖かく、いつの間にかつなぎの体温もだいぶ元に戻っていた。


「…………アミメキリンさん、あったかいですね」

「キリンの体温はヒトよりも暖かいそうよ、そのせいじゃないかしら……」

「いや、そうじゃなくて……何でもないです」


 相変わらず吹雪く外。その音と雰囲気に飲まれ、会話がそこで途切れる。しかし、しばらく無言で抱き合う中で、つなぎが口を開いた。


「……ごめんなさい」


「突然どうしたの……?」


「また一人で先走ってしまいました、迷惑かけてしまって、こんなことになってしまって」


「いいのよ」


 優しくアミメキリンは呟く。また、二人の間に沈黙の時間が流れる。


 


「アミメキリンさん、何で、こんな僕に一緒に着いてきてくれるんですか? 僕は、色んな事件に貴方を巻き込んでしまっている気がしてならないです。でも、貴方はこうして一緒に居てくれる、一体なんで……?」


「何でって……それが当たり前だから……」


 つなぎに問われた彼女は短くそう言ったが、その言葉を取り消すように軽く頭を振り、つなぎの目を見つめる。


「私は、ロッジにいた頃あんまり役に立ってはいなかったわ……オオカミ先生やアリツさんに迷惑かけることばっかり。でも、二人はいつも私の前に立って守ってくれたり庇ってくれたの……」


 アミメキリンはふっと息を吐き出し、話を続ける。 


「だから憧れていたわ、誰かの前に立てることを。この旅の最初、始めてそんな存在である貴方に出会って、私は貴方を守ってあげることに躍起になっていたわ」


「だったら……」


「でもね、私がみずべちほーで倒れたとき、貴方に助け出して貰ったこと。他にも色んなところで助け合って協力して…………正直に言うわ、楽しかった。ロッジにいた頃と比べても、本当に事件が起きて、それを解決して…………守る、守らないじゃなくて、もういつの間にか一緒にいることが当たり前になっているの。楽しいから、貴方といるのよ。だから、なぜ、とかは言いっこなし。……分かったわね」


「…………はい。僕もアミメキリンさんと一緒にここまで来て、本当に良かったと思ってます。……寒いから、もっとくっついても良いですか?」


「…………今日だけだからね」





「…………磁場を感じる。また、あのかまくらから……」


 かなり吹雪いてきたため、キタキツネはさすがにマズいと思い雪原を駆け回っていた。その折、かつてかばんたちが作ったかまくらから何者かの気配を感じ、様子を見に来たのだ。


「ここだね……よいしょ!」


 キタキツネはかつてギンギツネが行ったようにかまくらに顔を突っ込む。中にフレンズがいるはずだと、しっかりと見渡そうとしたその時、


「「……あ」」


 そこには、裸できつく抱き合う二人のフレンズがいた。


「──────ごゆっくりー……」


 キタキツネは、全てを察してすっと顔をかまくらから引き抜く。



「ああ! 待ってください!」

「ち、違うの! これには深いわけがああああ!!!」


 かまくらの入り口から顔を出して引き止める二人の方をチラッとみて、キタキツネは呟く。


「さくばんは、おたのしみでしたね……」


「お願いだから話を聞いてえええ!!!」




 一方その頃温泉施設では─────


「後はここだけ、ね」


 ギンギツネは、温泉施設全体の設備点検、その最後の部屋に来ていた。

 この部屋は、鍵の調子が悪く強くドアを閉めると鍵がかかってしまう上、外からしか鍵が開けられない厄介な場所であった。


「だからつっかえ棒で押さえとく必要があるのよね」


 その時、部屋全体が激しく振動し始めた。けものであるギンギツネでも、立っているのが難しいほどの揺れである。


「な、何が……きゃあ!」


 バランスを崩し部屋の中に転び混んでしまう。その拍子に、つっかえ棒も外れ、扉が勢いよく閉まってしまった。


「ああ、やっちゃった!」


 しばらくして揺れが収まってくるも、ギンギツネは部屋に閉じ込められる形となってしまった。


「この部屋は機材の音を遮断するために音が聞こえづらい仕組み…………閉じ込められたことを誰かに伝えないと、誰も助けに来てくれない…………」


 しかしこの施設にある通信機器は事務所にある留守電機能付きFAX電話くらい。そして、ギンギツネは連絡を取れる携帯など持っていない。


 そしてこの部屋は、機材の他にはかつて置場所に困り、ここに設置した複合機と印刷用紙、後は机と筆記用具があるだけである。

 

 つまりこの複合機で外へSOSを送る必要がある。


 何が言いたいのか。


 そう!


 ここは!


 いわゆる!





 FAXをしないと出られない部屋なのである!!

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