ゆきやまちほー アミメキリンと凍土に眠る愛、そして会いに来る温泉

第57話 ゆきやま舐めてると死ぬ

※お待たせしました、新章突入です!!

極寒の地にて、アミメキリンとつなぎを待ち受けているものとは…………




前回のあらすじ


オイナリサマまじつよい






 白い雪原を、二匹のペンギンの雛がてちてち歩いています。片方はつなペンギン、もう片方はアミメペンギンの雛ですね。もこもこの毛皮でとても暖かそうです。この厳しいゆきやまちほーでは、どうしても寒さを防ぐ手だてが無くては、生きていけません。


 え? そんなペンギンいないって? みずべちほーはどうなったかって?

 はい、それに関してはこれからお話しますから、ね?




ゆきやまちほー アミメキリンと凍土に眠る愛、そして会いに来る温泉




 オイナリサマの文字通り身を粉にする程の働きにより、みずべちほーの危機は去った。PPPの絆もより深まり(スキャンダルの記憶はそっと胸の奥にしまいこまれた)、UPPPも無事にデビューを果たした。

 と、上手く行ったことを列挙すれば大成功に見える。ポジティブシンキングはいつだってヒトを次のステージに連れていってくれるものだ。


 しかし、いくつかの問題は解決しなかった。まず一つ目として、セルシップを倒してもジャンジャンの輝きは返って来なかった。



「セルリアンを倒した少し後から、ずっと眠ったままなんですよー。博士達が言うには、輝きが戻ってくる事を信じて、少し無理したのではないかって。数日は眠ったままっぽいので、私がついて見ておくですよー」


 ジャイアントパンダはそういって、ジャンジャンに毛布をかけていた。彼女の寝顔は苦しそう、というわけでは無く寝息も静かである。


「…………パパ…………ヒトなのにパンダの匂いする…………ママ…………何で私だけ見捨てるの?……zzz」


 彼女はアミメキリン達が最初に訪れた時は殆ど感情が無かった。輝きをセルリアンに奪われたのだと。

 そして、サンドスター・ロウによる騒動が起きたとき少し感情を取り戻したのだ。


 では一体、ジャンジャンが感じていた自分の輝きが近いという感覚は何だったのか。その謎は残るが、ひとまず以前の様な感情の無い状態に戻ることはない。




「───と私は考えています。貴方達との交流で、彼女は新たな輝きを手にいれたのです」


 アミメキリンとつなぎは次にオイナリサマに呼ばれ、海辺へと来ていた。

 

「ジャンジャンについては分かりましたけど、オイナリサマ、一体話って何でしょうか?」


 ジャンジャンの問題は急がなくても何とかなる問題。


 そしてもう一つ、こちらはオイナリサマの口から語られる。急がなくてはいけない問題であった。




緊急クエスト [ 綺麗な海を取り戻せ!]



メインターゲット : 海洋除染装置×1の納品


サブターゲット  :どん兵衛×10の納品



依頼主:白い狐耳の神様



 あのセルリアンが残した爪痕は、あまりにも大きいです。あいつを倒したと共にサンドスター・ロウ・オイルは元の化石燃料へと戻りました。……そうです。悔しいですがサンドスター・ロウこそ消失したもののこの海域は汚染されてしまったのです。


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 今は私の力でこれ以上広がらないように、簡易的な結界を張り、閉じ込めています。

 結界の維持の労力はさほどでもありませんが、その代わりここから離れることが出来ません。

 それでも、汚染された海域を元に戻さなくてはなりません。


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 だから────探すのです、海を元に戻す手段を。昔同じようにパーク近海で化石燃料による汚染が起こった時、ヒトはそれを浄化していました。何かしらの手段があるはず……ここから離れられない私に替わり、どうか方法を見つけてきてください。


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 ふう、アミメキリンとつなぎさんは行きましたね。さて、それではお昼にしましょう。ふふふ……長達にお願いして、用意して貰ったのです。そう、レトルトのパックのおあげさんです!! ああ、久しぶりで思わずよだれが……

 ヒトがいた頃の産物ですが加熱処理されているので食べても問題ないでしょう! いただきまーす! 

 はむ、むぐむぐ…………おいっしーー……くないです。

 何ででしょう、何か味がボケていると言うか。あ、油の酸化とか何かですか。これはどん兵衛食べた方が美味しいですね………ううう………口にするとどん兵衛が食べたく……

 おあげとうどんがふふふふふーん(ふっくらの踊り)


 はっ!? 貴方達、まだいたのですか!?


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「オイナリサマの謎ダンスなんだったのかしら……」

「可愛かったですよね」


 どん兵衛召喚の躍りである。ギンギツネの前でやるとめっちゃ怒られる。


「さて、目的地はゆきやまちほーだったわよね。その中でも、えっと……」


「温泉ですね。このキョウシュウエリア内で、水の浄化設備がありかつ現在でも稼働している施設。博士達もそこじゃないかと言ってくれました」


「ただの水の浄化と燃料の除去は全然違うけれど、手がかりがそこしか無いって訳ね。幸い隣のちほーで助かったわ」


 オイナリサマの話を聞いたあとに聞き込みして二人が出した結論。それが温泉施設でジャパリパークの水質浄化技術について調査することであった。


「ここからゆきやまちほー何ですね。草原と雪原がきっかり分かれてて面白いですね!」


「さばくちほーを思い出すわね。さ、行くわよつなぎ!」


 アミメキリンが一歩を踏み出そうとした時……


「こらー!! 冬毛も持たないのにゆきやまに入っちゃダメーー!!」


 遠くから走ってくるフレンズが見えた。プリンセスとコウテイである。



「はぁ……はぁ…… 自殺行為よ!? なにちょっと隣町までみたいなノリで行こうとしてるの!?」


「いや、なんていうか……はじめてのゆきやま……」


「最悪凍死しちゃうぞ!?」


 コウテイの言う通りである。だーれにーもーなーいーしょーでーおーでーかーけーして良い場所ではなかったのだ。しょげないでよべいべー。


「全く……はい、これ。私達の雛鳥の頃をモチーフにした毛皮。万が一極寒の地に行っても良いように作ってあったものだけど、あげるわ」

「二人にはすっかり世話になってしまったからな。餞別というわけでは無いが、持っていって欲しい」


 そういって手渡されたのは、フード付きの灰色のコート2着であった。毛皮がすっごくふぁふぁである。


「温泉までは結構距離があるから、途中で吹雪に見回れると思うわ。天候が荒れそうなら早めに穴を掘るか、かまくらを作って風がしのげるようになさい」


 プリンセスは人差し指を立てて説明し、分かった?と二人の顔を見て言う。


「わ、分かりました」


「アミメキリン、私からはもしもの時の暖の取り方を教えておこう……ゴニョゴニョ」


「……ギロギロで話だけ出てきたことあるけれど、本当に効果的なの?それ」


 コウテイから耳打ちされた内容に、アミメキリンは思わず眉をひそめる。


「あはは……もしもの時限定だから使わないに越したことは無いさ」


 そして、二人がコートを着終わるのを見届けてから、プリンセスは忠告をしてくれた。


「最後に、ゆきやまは誰も居ないように見えてもフレンズ達が暮らしているわ。ピンチになったら大声で助けを呼びなさい。耳の良いフレンズが聞き付けてくれるはずよ。決して、自分達だけで何とかしようとしないこと」






 という訳で物語は冒頭に巻き戻る。二人は毛皮のコートをしっかり着込み、温泉を目指していた。


「……これ着てても寒いですね」


「……本当にね。あのまま突撃したら私達氷づけだったわね……」


「温泉…………まだですかね。疲れたのでちょっと休憩しましょうよー」


「まだまだ先よ、日が暮れ始めると動けなくなるわ。あんまり休んでると最悪かまくら作って一泊よ? それが嫌なら進まないと」


「そんなぁ…………あ、でもあそこ湯気見えません?」


「そんな訳……あら、本当ね。でも何で?」


 二人は興味を引かれ少し早足で湯気の発生源へと向かう。そこには、回りの雪原だらけの風景には似つかわしくない、岩で囲まれて湯気を発する水場があった。大きさは直径3メートル程である。


「これは…………温泉ね」


「だからそういってるじゃないですか! 看板がありますよ。どれどれ……『ここは自然のどうぶつたちのための温泉だよ! よいこは入らず遠くから温泉に入るどうぶつたちを静かに見よう!』 ────なるほど、温泉施設とは別に設置されたものみたいですね」


 確かに先程まで動物が入っていたのか、雪にいくつかの足跡が残っている。


「温度も調度良いし、せっかくだから足だけでも使って暖まろうかしら……って、つなぎ、何で全裸になってるの?」


「え? 温泉ですよ?」


「ええそうね、でも動物用みたいよ? それに全身入ったら出たとき逆に寒いと思うわよ?」


 つなぎは全裸で少し考え込む。あと全身震えてるのでやっぱり寒いらしい。


「……ヒトも動物です! 出たときのことは後で考えます! やっほう!」


 つなぎは考えることを止めた。目の前に温泉があれば、ジャパニーズピーポーとしてどうするべきかは明白であった。


 ざっぱーーん!!


 


「飛び込むかもと思ったけど本当にやるなんて……」


 水しぶきでアミメキリンもびちゃびちゃである。


「はあぁ……極楽極楽」


 つなぎは満面の笑みを浮かべ、温泉の縁に背を預けでろーん、としていた。


「アミメキリンさんは入らないんですか? こーんなに気持ち良いのに?」


「いやでも……」


「実はフレンズの頃の名残で座ったまま寝ているけれど、そのせいで首が凝ってること知ってるんですよ? ほら、こうやって岩に首を預けて脱力すると気持ち良いですよ……? それに、迷った末に選んだ選択は、どちらを選んでも後悔するものです。なら今は楽チンな方を選ばないと!」


「ぐ、ぐぬぬぬ……」


 険しい顔でつなぎを睨むアミメキリン、そんなことお構いなしに仰向けで温泉の表面にぷかぷか浮かんで楽しむつなぎ。


「ほーら、ほーら……こっちの水は、あったか~い……」


「ぐぐぐぐぐぐ!!!」




「はぁ~これはフレンズを駄目にするお湯だわ~……首が楽~♪」


 結局誘惑に負けたアミメキリン。まぁ日本人でなくてもテルマエは良いものである。平たい胸族のつなぎが教えてくれたのだ。


「アミメキリンさんって、おっぱいおっきいですよね」


 そして若干、胸の大きさを気にしていたつなぎ。


「ずいぶん唐突ね……こんなこといっては何だけれど、元の動物が大きかったり、種族としてはそんなに大きくないけど品種として大きいフレンズはおっきい気がするのよね。おっきくても良いこと無いわよ?」


 カバとかコウテイとか。ジャイペン先輩? まな板……かなりまな板だよこれ! まな板にしようぜ! ……ん?こんな時間に誰かな。


「そんな悪いことを言うのはこのおっぱいですか!!」モミモミモミモミ


「きゃああ! ちょっと止めなさい! わか、分かった私が悪かったから!!」


 突如背後からおっぱいを鷲掴みにされ、驚きつつも止めるようにいうアミメキリン。しかしつなぎの猛攻は止まない。


「アミメキリンさんが泣くまで! 揉むのを! 止めない!!!!」


「意味分からないこと言ってないで離しなさい!!」


 アミメキリンが無理やり手を引き剥がそうとしたとき、唐突につなぎが自分から手を離した。勢いから、アミメキリンは黒塗りの温泉に水没してしまう。


「わぶっ! …………ちょっといくらなんでもいきなり離しすぎでしょ!?」


 アミメキリンが抗議するも、つなぎは気に止めず急いで温泉からあがる。そして、脱いで置いておいた服の元へとたどり着き、その光景に愕然とする。


「な、無い……! あったかふぁふぁが……無い!?」


「どうしたのよつなぎ……?」


 アミメキリンが覗き込んだその先、つなぎがいつも着ている作業着と、アミメキリンの服があった。


 ────そして、プリンセス達に貰った、あったかペンギン雛コートは無かった。


 何者かの足跡が……それを奪ったであろう者の足跡が雪の中へと続いていた。

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