第47話 もう一度、やくそく
※グレープくん編最終回、真面目回だよごめんなさいね?
更新二日空けてしまったら最新話ひとつ前から読んでくださる方が多かったので、皆様の為に実験的に前回のあらすじも簡単につけるようにしました。お納めください。
前回のあらすじ
フルルに頼まれグレープ君を探すことになったアミメキリンとつなぎ。いざ見付けた彼にフルルに会って欲しいと伝えると、会えないと言っていきなり逃げ出したのだった。
「あっ! やっぱり逃げるじゃない!! 待ちなさい!!」
「待ちませぬ!」
元ペンギンとは思えない早さのダッシュ。みずべちほーにまばらに生える木々の間を縫うように走るグレープに、アミメキリンは徐々に離されていく(状況の分からないジャイアントパンダは置き去りになりました)。
「は、速すぎ……! 元ペンギンでしょ!? 何であんなに速いの!」
アミメキリンでは追い付けない。しかし、こと追跡にかけては────
「逃がさないです! ちゃんとした依頼ですから、せめて理由を聞かないことには!」
ただのダッシュではつなぎwithトキモードからは逃れられない。あっというまに追い付き、真後ろから抱きつき捕まえようとするが……
「捕まえまし……あれ?」
捕らえたと思った瞬間、目の前からグレープくんが消え、つなぎの腕は空を切った。
「つなぎ! 前、前!」
「え? ぶべっ!?」
そのままの勢いで木に激突してしまい、叩かれた蚊のようにフラフラと墜落する。
「だから前って言ったのに! いや、それよりも、グレープはどこへ行ったの!?」
アミメキリンは周囲を見渡す。見失ったが、あまり遠くへはいっていないはず。
すると、グレープは二人の背後の方に回り込んでおり、そろりそろりと近くの茂みの中へ身を隠そうとしていた。
「嘘! いつの間に……瞬間移動!?」
横を抜けていったら嫌でも分かるはずなのに気が付かなかった。あ、パンカメちゃんは無理です。
「でも好都合……!」
アミメキリンは瞬時にマフラーを外し、グレープへと放つ。ぐるりと彼の足首に巻き付き、逃走を封じる。
「のわっ!?」
「捕まえたわ! 何で逃げたか、理由を聞かせな……さいっ!」
マフラーを思いきり引っ張り、グレープをこちらへと引き寄せる。……が、マフラーの先には誰もいなかった。
「また消えた!?」
茂みがガサガサ揺れている。そちらへと逃げていったようだ。
「に、逃がしちゃった……つなぎが気絶しちゃっている今、追い付けないわね……」
落胆するアミメキリン。とその時、もう一度茂みがガサガサ揺れ、そこからひょっこりとフレンズが顔を出した。
「よう! 声がすると思ったらやっぱりいたな! アミメキリンとつなぎ、久しぶりだな! 今日もロックしてるか!?」
イワビーであった。ほっ、とジャンプして茂みから出てくる。
「あ、あらこんにちは……何でこんなところに?」
「ん? ああ、ちょっと体を動かしたいからランニングだぜ!」
「…………ランニングにペンギン抱えていく必要ある?」
そう、イワビーは一羽のペンギンをその手に抱えていた。
「え? いや、こいついきなり今飛びだしてきてさ。この見た目フンボルトペンギンだろ? 森の方に迷い混んでかわいそうだから海に連れていってやろうと思ってな!」
「飛びだしてきた? フンボルト? …………まさか!」
ひとつの可能性を閃いたアミメキリンは、イワビーに声をかける。
「ねぇ、その子、せっかくだからフルルに見せてあげてから海に帰さない?」
「お、それもそうだな! ちょうどさっきランニングの途中でジャパリまん食べてるところ見付けたから、すぐ連れていける……おわっ! いきなり暴れんな、じっとしろって!!」
バタバタとフリッパー(翼)をはためかせ暴れるペンギン。
「ビンゴね……」ニヤリ
イワビーの元まで歩み寄り、ガシッとペンギンの体を掴む。
「あ、おい可哀想じゃんアミメキリンいきなり何して……!」
「ごめんなさいイワビー、この子まさにフルルが探してる子なのよ」
アミメキリンはそのペンギンの顔をじっと見つめながら話を続ける。
「……グレープくん? まさか、動物の姿とフレンズの姿、自由に変身できるとはさすがに盲点だったわ! でも───もう逃げられないわよ?」
掴まれた状態でも暴れるグレープ(ペンギン)であったが、秘密がバレて途端に大人しくなったのであった。
イワビーには事情を説明し、なぜフルルに会いたくないかグレープに聞くので、一旦席を外して貰った。
実はフルルも捜査に必要であればグレープくんのことについて話すことはOKを出してくれているのだ。
あとつなぎは頑丈なのですぐ意識を取り戻しました。
「で、グレープ、なんで会えないの? フルル貴方に会いたがってたわよ」
アミメキリンの問いに、グレープはサンドスターの煌めきと共にフレンズの姿に戻る。その顔は少し暗かった。
「…………ご覧の通り、私はフレンズの姿と動物の姿を取ることが出来ます。私をこの世界へと運んでくれたヒト達の願いとでも言いましょうか、それが両方の姿を私に与えてくれたのです。どちらの可能性もある、と言わんばかりに」
「願いの力……?」
普通ならあり得ないと笑い飛ばす話だが、サンドスターがあるここジャパリパークでは十分にあり得る話である。非実在生物のフレンズさえいるのだから。
「私は元いた世界で死んだとき、たくさんの想いに乗せられてここジャパリパークへとたどり着きました。その想いのほとんどが、大好きなフルル、愛しのフルルと結ばれてくれ! と私に語りかけ背中を押し、ここまで連れてきてくれました」
そこまで言ってグレープは深呼吸をする。数秒の空白の後、意を決したように話し始めた。
「────しかし私は、彼女に恋をしていた訳では無いのです」
「私はあの動物園の中で、あまり他のペンギンから相手にされなくなっていました。妻を奪われた弱い奴、そう思われていたのでしょうなぁ」
アミメキリン達は知らないが、グレープは妻を他のオスに奪われた(もしくは妻がグレープの元から離れた)過去がある。
「そんな変化の無い日常の中に、突然彼女のパネルは設置されました。今までにない新しいもの。他のペンギンは群の仲間と過ごすことで忙しかった様ですが、幸い私には時間がたくさんありました。彼女……フルルのパネルはあの狭い空間の中で私を拒絶せず、寄り添ってくれるものだったのです」
「恋心ではなく、私はただ居心地のいい場所として彼女のパネルの側にいました。そんな私が、皆を騙してしまっていた私が彼女と会うなど出来ない……」
「しかしやはり好奇心には勝てませぬ…… 一度だけ、そう思い見に行ったのです。そして、そこで歌い輝く彼女の姿を見ました。皆から愛され、笑顔を振り撒く皆のアイドル。 そんな彼女に、いきなり近づくことが許されましょうか?」
そう言って、自分のしわくちゃな手を握り広げ、じっと手のひらを見つめる。
「そして何よりもこの身は老体………… 彼女と知り合いになれたとして、私は他の者より長くは無いのです。今を輝く彼女に、私の死を見せたくは無い…………」
その言葉にアミメキリンとつなぎは息をのむ。動物に戻るのではなく、死。それは平和に生きるフレンズに強いトラウマを与えてしまう可能性があることは否めない。
「会いたくないのは、そんな理由です。そして、今私にはやりたいことがあります」
グレープは見つめていた手のひらを、太陽に向けてかざす。
「かつてはひとつの場所で、同じことを繰り返す毎日でした。しかし今は素晴らしい自然が広がるここジャパリパークにいる。恥ずかしながら、自由となった今、この広い世界を見て回りたくて仕方がない! そう強く願ってしまう自分がいるのです」
告げるべきことは終わったのか、グレープはふう、と息を吐く。
「そうですね、動物園にずっといたんですから、そう思いますよね」
つなぎはその言葉に理解を示した。そして、一度旅に出たらその途中で亡くなり戻ってこれないかもしれない。
ならば、フルルに何も言わず知らせず、彼をこっそり送り出すのが良いのではないかとも思ってしまった。アミメキリンとつなぎは、その理由を聞いてなおフルルに会ってあげて欲しいと強く言うことは出来なかった。
しかし、その沈黙を打ち破る声がかかる。
「でもやっぱり、私はそれでも会いたかったよ~」
後ろからかかったその声。皆が振り向くとそこに立っていたのは……
「「「フルル!?」」」
「えへへ、ごめんね~。途中から聞いちゃってたんだ~」
てへへ、と頭をかきながら照れ臭そうに笑う。
そして、そんな彼女の影からひょっこり出てきたのはイワビーであった。
「席は外したけどよ、やっぱり会いたいと思ってるフレンズ同士が合わないのって、ロックじゃないと思っちゃってさ~」
手を合わせて、ごめん!と仕草で謝るイワビー。
「グレープくん、って呼んでも良いかな~?」
フルルは彼の前に立つ。
「は、はい……」
「私ね、ずっと貴方に会いたかったんだよ~? 辛くて激しい練習の日々も、夢の中で貴方とゆっくり出来たから、乗り越えられて来たんだ~」
グレープはその言葉を受けても、顔を伏せ、彼女の事を直視出来ないようであった。
「ありがとう、貴方のおかげで私は今もアイドルとして頑張れています」
「…………!!」
お礼を言われるとは思っていなかったのであろう、俯いていたグレープの目が驚きに見開かれる。
「だからね? 私はやりたいことがあるなら応援するよ~! 広い世界で色んなこと、見てきてください。私はアイドルが好きだから、ここから離れられないけど……ジャパリパークは、良いところだから~。騙しているだとか、資格がないとかそんな悲しいこと言わないで、本当に好きなことを、純粋に楽しんで……」
グレープの目の前まで近づき、その手をとって語りかける。
「いつかまたここに来たら、旅のお話を聞かせてください」
グレープは見開いた目で彼女を見ていたが、やがて目を閉じ、じっくりとその言葉を噛み締め、言葉を返す。
「…………分かりました、きっと、必ず」
「やくそくだよ?」
「やくそく?」
「貴方に会えるようにって、やくそくを歌にしたら会えたから、だからやくそく。もう一回会えるように~って」
フルルはグレープに微笑みかける。
「やくそく……分かりました、しましょう。旅を楽しんで、その話をしにここへ戻ってくることを!」
「うん!」
フルルは繋いだ手を離す。グレープはゆっくり頷き、背を向けて歩き出す。
「いってらっしゃ~い!!」
フルルはその背中に声をかけ手を振る。グレープも顔だけ振り向き、手を振りながら歩いていく。
その背中が見えなくなるまで、彼女は手を振り続けた。もうじき日が暮れ、夜が来て明日が来る。今までと変わらないけれど、ちょっとだけ気持ちに変化が生じた日常がまた始まるだろう。
そして、そんな彼らを上空から見ているフレンズがいた。
「博士、あいつらの元へいかなくても良いのですか? 今ならグレープも交えて話が出来ると思いますが」
「良いのです、助手。綺麗にまとまったところをわざわざ引っ掻き回すことはしないのです」
博士はハァと溜め息をつく。
「全く、よくもまぁあんな嘘を堂々とつけるのです。本当は本物にあったら可愛すぎてガチ恋してしまっただけの癖に。直視出来ないほど惚れているって……」
実はアミメキリンと博士達が見ていたライブに、グレープもいたのである。
~ライブ中~
「ああぁ……やはりフルルは可愛い! うああぁダメじゃ好きになってしまう~! もう好きなのに~! 叶わぬ恋と分かっているのに、つがいになりたすぎて辛い~! よっしゃ旅にでる! もっと強くなってフルルに振り向いて貰うんじゃあああ!」
ライブ会場の隅で頭を抱え、うんうん唸っていたのであった。ライブ開始数分で耐えられなくなってペンギンになって離脱。これがライブ中に消える老人の真相である。
「オスならガンガン押していくべきです。好きだという気持ちを伝えなくては始まらないのです」
そう言う博士を、助手が嗜める。
「言いたくても言えない気持ちもありますよ、博士」
「助手……?」
「彼女に見合う強さを手に入れたいのも、きっと本心ですよ。老人に見えますが、彼はまだ20歳越えた辺りらしいです。そしてフレンズとしては生まれたばかり。自分を磨いてから好きな相手に気持ちをぶつける、良いことだと思うのです」
「まぁ、確かに。我々はもう野性動物ではないですからね。オスが強くなるまで待つなど種の保存的に捉えると悠長な事この上ないのですが」
「そうかもしれませんが……ヒトの心を手に入れてしまったからこそ、個体としての強さのような繁殖上の理由ではなく、ただ一緒にいたい相手と恋愛をするのでは? 楽しさ、可愛さ、面白さ、かっこよさ……理由は様々でしょうけど」
自分の言葉にうんうんと頷く助手。フレンズだからこそ、楽しく、かけがえのない相手と過ごす。彼女達が、ただの獣ではない証かもしれない。
「じゃあ、あの事だけ伝えるのです」
「ですね、博士。フレンズの寿命はサンドスターが尽きるまでなので、元となったものが老人でも寿命には関係ないということを。そうじゃなきゃ、体毛から生まれたフレンズは寿命0なのです。……長生きしますよ、グレープはきっと」
世話焼きフクロウは、グレープを見送った一行の元へ降り立っていくのであった。
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