みずべちほー アミメキリンVS怪盗PPP 凍った心を解き放て!

第39話 あの子の正体

※大変お待たせ致しました、新章突入です! アニメ版以外のフレンズ多め、そろそろ伏線回収していきますよー!

あ、今回は人の格好を笑うな回です。





「シャウト!! ソウル!! ビースト!! 叫べ心の限りいいいぃぃぃ!!!」


 フレンズ達の奥底にはけものの心が宿っている。


 響き渡る重低音と、歌声とは思えないその叫びが、聞くけもの達の野生を呼び覚ます。


 反響する声は確実に自分の体へとダメージを与えている筈なのに、体は自然と野生解放を求め、いたずらにサンドスターを消費する。だが、それが心地よい。


 ロックだろうか? いや、違う。これはメタルだ。野生を込めたメタル。私はこれをけもメタルと名付けたい。


 私はアミメキリン。今、ライブの最前線でもみくちゃにされている。


 まもなく私は意識を失うであろう。何故なら、ステージのセンターに立つつなぎが、気が付いてしまったからだ。

──────そう、トキの能力を使えばさらに新たなメタルの領域にたどり着けると。


 まもなく“けもメタル“はさらに進化する。“トキメタル“となり、誰も辿り着けなかった領域の壁を突破する。

 耐えられないと分かっているのにその先を期待してしまう。頭を空っぽにして、本能の限りがむしゃらに叫ぶ。


 さあ、恐れずに踏み出すのだ。限界の、その先へ────


────────────────────────────


 みずべちほー、PPPライブ会場から少し外れて、しんりんちほーの様な木々の中をアミメキリンとつなぎは歩いていた。


「みずべちほーはフレンズが多いわね、あっちもPPP、こっちもPPP……皆グッズを片手に集まって楽しそうに何やら話しているわ」


 ハイテンションで夜通し歩いて、水辺から昇る朝日を見た後に爆睡した二人(とは言ってもアミメキリンの睡眠時間は2時間ほどだったのだが)。


 結局探索開始はお昼を過ぎてしまったのだが、人が多く聞き込みにそこまで時間は取られなかった。


「案外あっさり目的の場所が分かってしまいましたね」


 今回の第一目的は、つなぎの野生解放に関連するフレンズを訪問する事である。


「ただ聞き込みするフレンズ達が皆、ひっかかることを言ってたのよね……」


 あそこは怖い、あそこは怪しい。そんな感じの事を言っていたのだ。

 そして、今まさに二人はその問題の建物の前に辿り着いた。


「……なるほど、この様子じゃ納得、というところかしら」


 目の前には白黒トーンのこじんまりとした一軒家が建っている。

 何でこんなところに家があるかって?どうやら旅する謎の二人組が、あちこちで武者修行といってご挨拶をしながら家を建ててまわっているらしい。謎の二人組とは一体、うごごごご……


 だが、不気味さの正体はそこでは無かった。

 墓だ。家の周囲に墓、墓、墓、墓、墓……20個以上は並ぶ墓が、その家をゴーストハウスの様に見せているのだ。


 そして、この家に住む住人こそ、ヒグマから聞いた、つなぎの野生解放に関係しているであろうフレンズ。




 皆大好き、ジャイアントパンダその人である。




────────────────────────────


 時は数話前に遡る。


「そいつはきっとみずべちほーにいる。……気候に合わないちほーにいるのは趣味みたいなもんだ。名前は─────ジャイアントパンダ」


「パンダ……ですか?」


「パンダ……ああー、成る程。パンダ……」


 アミメキリンはうんうんと頷いている。


「そんな真っ黒な手でクマに近いフレンズなんてこのキョウシュウではまずアイツしかいない。あいつは根っからのPPPファンでな……みずべちほーに住み着いているレベルなんだ」


 ヒグマは額を押さえやれやれと首を振る。


「だがその腕力は本物だ。何故か動物の頃よりも大幅に強くなっている。そしてキレると手がつけられない。───ついたあだ名がジャパリパークの核弾頭(リーサルウェポン)」


 ヒグマはそこまで言って、うむむ……と腕を組んで悩む。


「……ジャイアントパンダは少なくともつなぎ、お前がフレンズ化したであろう時よりもかなり前からキョウシュウエリアにいるんだ」


 つなぎの目を見つめ、ヒグマは言う。


「恐らくお前が島の外から連れてきたジャイアントパンダの子ども。それがフレンズになれたかは分からない」



────────────────────────────



「しっかしどうしてこんな墓地みたいなことに……はむ」


 つなぎはせっかくのイケてるデザインの家が大量の墓で台無しになっていることを嘆く。


「お墓に関しては何となく思い付く推理はいくつかあるけど……ちょっと待ってそれ何食べてるの?」


 つなぎが手にもってパクついているジャパリまんに注目する。中のあんこはそのままだが、回りの皮が透明のぷるぷるした葛(くず)のようなものに替わっている。


「これですか? みずべちほー名産、みずべまんです! うーん、ぷるぷる冷たくて美味しーい!」


 要は水まんじゅうである。え? 知らない? とうかいちほーの一部で愛される夏のふーぶつしなのだ! 筆者のすんでる地域がバレるのだ!


「毎度の事だけどよく調達してくるわね……でも美味しそう、一口食べさせなさい!」


「駄目ですよ! あとはジャイアントパンダさんにお土産として持っていくんですから!」


「いや住んでるフレンズにそこのちほーの名産を贈ってどうすんのよ……」


「あ」


「というわけで頂き!」


「ああっ!!」


 アミメキリンはつなぎが動きを止めた隙にみずべまんを奪い、そしてぱくりと一口食べた。


「ん~、冷たくて美味しいわね!」


「あああ…… アミメキリンさんが満足ならそれでいいです…… それよりも、思い付く推理って?」


「はぐはぐ…… 喜びなさい、つなぎ。がつがつ…… お墓っていうのは何処まで行ってもヒトの文化なのよ。ごくごく……意外に紅茶にも合うわね。」


 アミメキリンの新しい推理スタイル、名推理ならぬ食い推理である。

 推理しながら疲れた脳へ糖分を補給できる実に合理的な推理。欠点があるとすれば普通にお行儀が悪いことだけだ。あと紅茶はとしょかんで勝手に淹れて持ってきた。


「つまり、ここにはヒトの“死“に関連した何かがある…… 貴方が死んだと思ってそれを弔いたい気持ちが、この墓に込められているとしたら……どうかしら? 貴方の連れてきたジャイアントパンダがフレンズ化している、そう思えない?」


「なるほど……」


「取り合えず、ノックしてみるわよ」


 アミメキリンはその家のドアの前に立ち、コンコンと軽く叩く。


「…………反応が無いわね」


 再度叩く。今度はもう少し強めに。しかし、それでも中から反応は無い。


「留守ですかね?」


 二人顔を見合わせ首を傾げる。フレンズは日中は外で過ごしていることが大半なので、家の中から反応が無ければ居ないと考えるのが普通だ。

 しかし、反応は別の所から返って来た。


「そんなことをしても、無駄ですよー! 彼女は、ずーっと心を閉ざしているんですよー!」


 二人の背後、家へと繋がる道の方から声がかかる。


 そこには、手足真っ黒でセーラー服、頭にいかにもパンダっぽい被り物をしたフレンズが立っていた。そう、ジャイアントパンダその人だ。


「ほとんど訪問者が来たこと無い私の家に、一体何用ですー? しかも彼女への訪問者? ここらじゃ見た事無い顔……怪しい、怪しいですよ!!」


 いきなり現れた彼女は、取りつく島も無く警戒体制に入る。普段は愛らしい姿の彼女だが、闘いとなれば強力なパワーで敵を粉砕する強者へと変わる。


「取り合えず、ぶっ飛ばしてから悪いやつか聞き出すですよー!」


 彼女を怒らせるのは、それだけ危険なことなのだ。

 だからこそ、強者として見た目にも出来れば気を配って欲しい。


 PPPはっぴとPPPハチマキ、そして両手の指の間に4本ずつサイリウムを挟んだまま凄まれても、ほんっとうに申し訳無いのだがお祭り帰り、もしくはウル🌑ァリンごっこにしか見えないのであった。


「その格好でそんなこと言われても……」


 アミメキリンは頭をかきながら苦笑する。怒らせたらいけない相手だということが頭から抜け落ちていた。


「PPPをバカにしたな……? ────ぶっ🌑す……!」


 そういった直後、凄まじい踏み込みと共に手加減無しの一撃がアミメキリンに向かって放たれる。


 ボッ、と空間ごと抉りとる様な拳が、一瞬で顔面の前にまで来ていた。


(───あ、これ、私、死ん…………)


 そう思った時、アミメキリンは何故かPPPライブのチケットを顔の前にかざしていた。生きるための生存本能が、彼女に自然とその行動を取らせていた……!


 そのチケットにより、すんでの所で、拳は止まった。


「…………なーんだ、PPPファンの方だったんですかー! PPPファンは皆家族、悪いフレンズな訳無かったですねー!」


 ジャイアントパンダは、警戒体制を解き笑いかける。


 しかしアミメキリンは、しばらくその場から動けなかった。

 バクバクなる心臓の鼓動が治まらない。

 最近の、命に危険が及ぶ頻度に、何か悪い物でも取りついているのだろうかと心の中で嘆いていたのであった。

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