第38話 愛がつくる守護の形 後編

※しんりんちほー最終回です。ちょっとしんみり感を出してますが、深く考えることは無いのです。



「良い? 作戦はこうよ。最後の一個の煙玉。これを中に投げて混乱させるわ。そしてどさくさに紛れて助手を捕まえ、このホワイトセルペッパーを食べさせて元に戻す……」


「もしも上手くいかなかったら、どちらかが逃げてハンター達を呼びに行き、そして再度突入する。扉を開けっ放しにすれば、最愛二人とも捕まっても誰かは逃げて助けを呼んでくれる」


 アミメキリンとつなぎは地下室で助手を元に戻す作戦の最後の打ち合わせをする。

 なお、ラッキービーストは厨房に置いてきた。何だかんだ無理してホワイトセルペッパーを製造してくれたようで、としょかんの電気を拝借して充電中らしい。


「助手は強いけど、正直フレンズひとりだけなら何とかなるわ……行くわよ、作戦開始!」


 アミメキリンが部屋内にパンカメ印の煙玉を投げ込む。勢いよく煙が吹き出し、部屋の中は白煙に覆われる。


 二人はアイコンタクトを取り、中に突撃する。姿勢を低くし、左右に別れて助手を取り抑えにかかる。


 しかし、目印にしていた博士の閉じ込められた檻、その側まで来ても助手の姿が見当たらない。


「……見失ったわ! 一旦撤退よ!」


 アミメキリンはつなぎに指示を出し、自分も撤退を始める。しかし、想定外の事が起こった。

 煙が、急速に晴れていく。あれほど視界を覆い尽くす程であったのに、もう薄靄のようだ。

 地下の空気の異常を感知し、自動換気設備が働いたのだ。

 そして、撤退指示を出したのに、つなぎからは何の返答も無い。


 一瞬立ち止まるアミメキリンであったが、もし何かあったとしたら自分がつかまる訳にはいかない。再び部屋の出口へ向かうが、その道を遮る者がいた。


「……助手」


 隠し扉を閉め、助手はアミメキリンの前に立つ。片手につなぎの頭を鷲掴みにしながら。


「おやおや、こんな夜中にどうしたのです。ヒトもキリンも、夜行性では無い筈ですが?」


「……つなぎを離しなさい」


 有り体なセリフな上、まず離してはくれないだろうがアミメキリンはそう言うしかなかった。この状況、すぐに思い付く打開策が無い。最悪、ラッキービーストが助けを呼んでくれる。それまで、何とか時間を稼がなくてはならなかった。


「こいつが大事なんですね…… フフフ、良いですよ? どのみちお前達にも島を守る戦士として働いてもらうのです」


 無造作につなぎを放り投げる助手。


「つなぎっ!」


 アミメキリンは転がされた彼女の側に寄り、怪我が無いか確かめる。

 それと同時に、せっかくの人質をすぐ離したのはなぜか、思考を巡らせていた。


「そんな目をしなくても教えてあげるのです…… 全力で立ち向かってくるお前達をねじ伏せ、抵抗は無駄だと分からせるためですよ」


 助手は笑みを絶やさない。ただひたすらに不気味さだけがある。


「気を付けるのです! 今の助手は、恐ろしい力を手にしているのです!!」


 博士が後ろから叫ぶ。他のフレンズ達は何か分からないけど休むチャンスだとぐったりしている。


「恐ろしい力……?」


「そう、今でこそ私はコノハと同じ背の高さ。しかし、本当は2倍以上の差があります……」


 助手から感じる、不穏な気配が強くなる。瞳に湛えた黒い光が、急速に増加する。


「大きさは、強さ。私はコノハを守るため、何者にも負けない力を手に入れた。それはつまり、どのフレンズにも負けない巨大な体!!」


 助手からほとばしる黒い光が彼女の体に吸い込まれていく。


「はああああああっっっ!!!」


 助手が目を見開き、力を開放する。サンドスター・ロウが唸りをあげ、彼女の体を凄まじい速度で巨大化させる!!



 彼女はこの巨大化能力で、夜の森林を歩くフレンズを捕らえてきた。初日に寝込みを襲われて逃げた博士も、この巨大化した助手の前に捕らえられてしまったのだ。


 その大きさたるや、約5メートル。元の身長の3倍程。アニメ最終話の巨大セルリアンも、今の彼女なら一瞬で葬れるであろう。


 そして巨大化する際の隙もほぼ無い。元の身長から巨大化が完了するまで約0.5秒。全力で巨大化を阻止しても間に合わない。


 シンプルでかつ強力。サンドスター・ロウは助手の心の内の願いを、ねじ曲がった形で叶えたのだ。




 だからこそ、助手はもう少し今の状況を考えた方が良かったかもしれない。


「がべふっっ!!??」


 無惨な叫びと共に、その巨体がゆっくりと倒れる。彼女は白目を向き、その頭には体に似合った巨大なたんこぶが出来ていた。


 つまるところ、3.5メートル位の高さしかない地下室で瞬時に巨大化したため、すごい勢いで頭をぶつけ気絶したのであった。


「「…………………………」」


 アミメキリンとつなぎはしばらく動けなかったが、我にかえり助手にホワイトセルペッパーを食べさせる。体からサンドスター・ロウが抜け、助手の体が元に戻っていく。


 その様子をみながら、何となく思い立ってアミメキリンはホワイトセルペッパーを一粒口に含む。


 ぱっかーん


「……これもセルリアンじゃない」


 サンドスター・ロウ浄化能力を持っているがそれもセルリアンであった。

 ドッドッドッドッとなり続ける音楽が、何とも言えない空気をかもし続けていた。




「とりあえず、助手を元に戻してくれてありがとうなのです」


 博士を檻から出し、アミメキリン達は助手の傍らに集まっていた。


「捕らえられていた皆も、サンドスター・ロウによる事件ならしょうがないと許してくれたのです……この島はお人好しばかりなのです」



 それだけではない、助手は、気絶した後うわ言で自分の本当の願いを呟いていた。


 夜に出歩く夜行性ではないフレンズを保護し、鍛練さえすれば強くなれるフレンズ達に適切なトレーニングを施しセルリアンの犠牲者を減らしたい。

 働きづくめの博士を休ませ、また本来自分の方が強いのだから、博士を守りきれる力を手にいれたい。

 そして、叶うならもう少し博士と近づきたい。他のフレンズよりも、ほんの少しだけ特別に扱ってほしい。


 あいも変わらず中途半端に元の願いを残して叶える、サンドスター・ロウは、質が悪いものだ。


「なぜ助手がサンドスター・ロウに飲み込まれてしまったかは分かりません。しかし、助手にここまで心配をかけてしまったのは私が不甲斐ないからなのです……」


 博士の目には、少しだけ涙が浮かんでいた。


 アミメキリンは博士に近づき、マフラーの端で軽く涙を拭う。


「貴方達の関係に口を突っ込むのは野暮かもしれないけれど、長ってのは、下の者達よりも立派で無ければいけないわ」


「……………」


「だから、あまり弱い所を見せられないかもしれないけれど…… 二人で長なんだから、お互いには甘えても良いんじゃないかしら」


 アミメキリンは博士の顔を覗き込み笑いかける。


「……へっぽこ探偵が、一丁前のことを言うのです」


 博士は二人に背を向け、助手の傍らに座る。


「お前達は、旅を続けるのです。後始末も、この島の問題も、我々が解決するので心配要らないのです。我々は…………賢いので」


「博士さん……」


 つなぎも声をかけようとしたが、アミメキリンは首を振ってそれを制する。


「これ以上は……ヤボね、行きましょう」


 それヤギとかけてます? とその場で言わなかっただけ、つなぎも徐々に空気を読めるように成長しつつあるのだろう。そのまま、こっそりとしょかんを後にするのであった。




 しんりんちほーの夜の中を、アミメキリンとつなぎは歩いていく。その足は、みずべちほーへと向かっていた。


「アミメキリンさんって、強いですね……精神的にも、肉体的にも…… ちょっと羨ましいです」


 つなぎはアミメキリンの後ろを歩きながら呟く。先程の博士達を見て、少し考えてしまったのだ、自分ではあんな言葉はかけられなかったと。


「…………あの二人は、島の事を背負っているわ。貴方も、過去の記憶や正体を背負っている。私には、失って怖いものなんて、あまり無いのよ」


 アミメキリンは空を見上げながらそっと言う。自分がセルリアンに襲われても、悲しむフレンズはあまり居ないだろうと思った。ただ、オオカミ先生が泣いてしまいそうなので失って怖いものがまったく無いとも言えなかった。


「あの二人はもう少し他のフレンズを見習って気軽に考えた方が良いわ。……賢すぎるのも、毒なのよ、多分ね」


「はぁ……?」


「ちょっと、私も不安になったわ。貴方の事、ちゃんと正しい方向へ連れていってあげられるかって」


 そう言いながら、アミメキリンは自分の服のポケットを漁る。


「私らしくないわね……疲れてるのかも。────みずべちほーに着いたら、PPPライブでも見に行きましょうか、きっと元気出るわ」


 アミメキリンはピッと取り出した2枚のチケットを指に挟んで見せつける。としょかんを出るときにこっそり拝借したPPPライブチケット(通常版)であった。


「それ、犯罪ですよ?」


 ふふふと笑いながらつなぎは指摘する。


「そんな事ないわ、正統な事件解決報酬よ!」


 アミメキリンもつられて笑う。二人の足取りは少し軽く、早くなった。


 夜明けまではあと3時間。みずべちほーには、このまま歩いて2時間ほど。水辺から登る朝日は、きっと素晴らしい光景であるに違いない。見逃す訳には、いかなかった。





 所変わってしんりんちほーのとある場所、せっかく地獄から脱出したパフィンちゃんであったが、またセルリアンに追いかけられていた。


「来ないで! 来ないでくださーい!」


 もうだめだと思い、パフィンちゃんは尻餅をつきながら腕を必死に振り回す。しかしセルリアンは、振り回す腕を気にせず、彼女を捕食しにかかる。


「うわああーん! もう駄目でーす!!」


 勢いよく突進した為、振り回す腕が、セルリアンに少し当たった。


 ゴッ!!


 鈍い音を立てて、セルリアンは吹き飛ばされた。近くにあった木に叩き付けられ、目を回している。パフィンちゃんが、セルリアンを吹き飛ばしたのだ。


「こ、この力は……?」


 ポケットから飴を出し、力を入れて握る。バキバキバキ!!と言う音と共に粉々になって砕け散った。

 以前の自分ではあり得ないパワー。


「あのキャンプが……?」


 頑張った貴方を、ミミーズ・バード・キャンプは裏切らない。たった一日で、彼女は戦士へと成長を遂げていた(効果には個人差があります)。


「君も力に目覚めたようだね!!」


 謎の声がパフィンちゃんの後ろから彼女を呼ぶ。

 振り替えると、逆光に照らされた中に沢山のフレンズが佇んでいた。それは、あの厳しいミミーズ・バード・キャンプを乗り越えたメンバー達であった。


 その日から、パフィンちゃんはセルリアンハンターではない島を守る組織、フレンジャーズのメンバーとなった。今日も、彼女は悪と闘っているだろう。






 またまた所変わってラッキービーストの本拠地、そこでシヴァテリウムは瞑想を続けていた。没頭しすぎてもう3日経っていた。


 その彼女の傍らに、別のフレンズが立つ。シヴァテリウムの顔を覗き込み、彼女が瞑想の境地にあることを察すると、そのフレンズは腕を思いきり振り上げ、キレッキレのチョップを繰り出した。


「…………ぐへぇっ!? だ、誰だ! 我が瞑想の邪魔をするものは!!」


 いきなりの攻撃に、シヴァテリウムは目を白黒させる。


「誰だじゃないわよー! あんた私置いていくし、その癖アミメキリンちゃん放ってなに瞑想にふけってんのよー!」


「へっ!? い、いないのかもう……? 旅だったのか? 私以外の、けものと……」


「そーよ! もう、このちほーには居ないわよ!」


 シヴァテリウムの前で怒りの仁王立ちをする彼女、ロスチャイルドキリンは、夜のしんりんちほーでも一際輝いていた。

 否、その身にほんの僅かながらの雷を宿し、輝きとしていた。

 言い訳を続けるシヴァテリウムが彼女に電気ショックを受けたのは、この30秒後の出来事であった。






しんりんちほー 選ばれし円卓のメシ達と秘密を暴く##7(アミメ7)  完

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