第37話 愛がつくる守護の形 前編
※長くなったので前後編にしました。GWだからってノリノリで書いてたら6000文字いきそうだったので。
今回は助手キャラ崩壊回です。正統な助手が見たければ気分屋さんの親猫77話とか読んでください。可愛い助手が読めますよ。
「としょかん……そういえば、まだ調べていない箇所がありました」
つなぎは地下へと続く階段を下りていく。アミメキリンもその後に続いていった。
「ヒグマさんは確認したかもしれませんが、私達自身ではこの中は確認していません」
「そうだけど……いたら流石に気が付くんじゃない?」
「でも、ガーリックパウダーの匂いが、確かにこちらからするんです」
目に弱めのサンドスターの光を湛えるつなぎ。通常よりも感覚が強くなるため、ニンニクの様な強い匂いは何とか追うことが出来た。そして、それは確かに地下へと続いている。
「ここは、人が使用していた施設です。本当に荒らされたく無い場所があれば、フレンズには気が付かれないように隠しているかもしれません。そして、長い監禁状態のとき、偶然見付けてしまったのかも……」
「じゃあ博士と助手は居なくなったんじゃなくて、自分から隠れているということになるわね。何のために……?」
「皆目検討も着きませんが……取り合えず地下室を調べてみましょう」
そう言ってつなぎは扉を開ける。地下室は夜の為に真っ暗であった。懐中電灯で調べてみる。すると、悩むまでもなく怪しい箇所が見つかった。
「あそこ!」
ポテチの袋があからさまに壁と壁の間に挟まっている。さらわれたフレンズが、ヒントを残してくれていたのだ。
二人は急いでそこに駆け寄り、壁を押してみる。すると、さほど抵抗もなくズズズ……と開いた。
ズン♪ ズン♪ ズン♪
開いた扉の隙間から、リズミカルな何かの音が響いてくる。
アミメキリンはそろーりと、薄く開いた隙間から中を覗き込む。
「な、何あれ……!?」
つなぎもつられて覗き込み、その様子を確かめる。
「あれは……!?」
隠し部屋にあったのは、様々な運動器具であった。ルームランナーやエアロバイク等、多様な器具があり、そして部屋もかなり広い。壁には電源がついていないものの、大きなディスプレイがあった。
「様子から察するに、恐らくは、フレンズのトレーニング、もしくは身体能力を測る施設……」
つなぎがそう判断したのは、各種器具がフレンズの身体能力に合わせて設計されてるように見えるからだ。エグい速度のルームランナーが動いているし、1tはあるであろうバーベルのサイズ等が物語る。
隠されていた理由は、フレンズが勝手にこの部屋を使用したら非常に危ないからだろう。
スピーカーから流れているであろうリズミカルな音楽が、部屋の中に異様な高揚感を演出している。
その音楽に急かされる様に、部屋のあちこちでヘロヘロになったフレンズ達が必死で運動を行っていた。
しきりに部屋の中央を気にしながら。
そして肝心の部屋の真ん中。助手と、檻に閉じ込められた博士がそこにいた。
「まるで全体を指揮する監督みたいですね。ということはこれ助手さんが……」
「しっ! ……何か会話しているわ」
アミメキリンはつなぎの口を手で塞ぎ、耳をすませる。二人の位置は博士達まで遠いが、音楽は大音量で流れていたわけでは無いため、何とか聞き取ることが出来た。
「み、皆疲れているのです……解放してあげて欲しいのです……」
博士は焦燥しきった声で、助手に嘆願する。
「駄目です、こいつらはコノハを守るための兵士…… ジャパリパークの平和、そして私達の幸せな未来の為に屈強なフレンズに育て上げなければいけません」
不敵に笑いながら部屋を見渡す助手。必死に運動するフレンズ達を眺め、満足げに頷くと博士が囚われた檻の側まで歩み寄る。
「コノハ……何も心配することはありません。何が起きても、私が、守ってあげるのです……」
檻の中の博士の顔に手を添え、うっとりとした顔で助手はささやく。その目には、黒い光を湛えていた。
「しょ、正気に戻って欲しいのです…… 助手……」
青い顔をして、体全体で震えながらも、博士は助手に訴える。
しかし、助手はその言葉を聞き、顔をけわしくして手に隠し持っていた鞭を地面に強く打ち付ける。バシンという音が響き、博士は驚いてシュッと細くなってしまう。
「ミミ…… もしくはミミちゃん、そう呼んでと言ったです、コノハは理解できない悪い子ですか? ミミはこんなにも尽くしているのに、おしおきが必要ですか……?」
「ご、ごめんなさい…… ごめんなさいなのです……ミミ……」
「ミミ……はぁ、良い響き……! 博士と助手なんて仰々しい呼び方ではなく、なんて親近感を感じる響き……!」
助手は檻に限界まで顔を近づける。
「もっと、もっと言ってください! コノハ、私の事をもっと呼んでください!」
荒い息づかいで檻にかぶりつく助手に、博士はさらに怯む。
「ミミ、こ、恐いのです! ミミ………」
「もっと、もっと、もっと、もっと!!」
「ミ、ミミ……」
「一回だけ、ですか?」
「ミミ、ミミ、ミミ、ミミ、ミミ、ミミ!!」
「はあぁ、はああぁぁああ!! コノハ、ミミがずーっと守ってあげるのです!! ……お前ら!! サボって良いなんていってないのですよ!! 使えない豚はじゅるりしてしまうのです!! おらおら走るのですよ!!」
……やっべぇ光景が繰り広げられていた。恐らく瞳にたたえた黒い光は、サンドスター・ロウによる影響だと思われる。
この様子から察するに、キンシコウがサンドスター・ロウを浴びてしまった時も多分ヤバかったのであろう。この小説のレーティングを守ってくれたラッキービーストには感謝しなければいけない。
つなぎとアミメキリンはそっと隠し扉を閉めた。
「恐らく、助手はサンドスター・ロウで暴走しているわ」
「でも、いったいなぜ……」
「私が推理するに、助手が博士を地下に閉じこめ、他のフレンズもさらった。二人が地下に閉じこめられている間は異変は無かったのだから、地下から救出された後~その日の夜中までの間に原因となる何かがあったのよ」
つなぎには、その時間中に起こった変わったことに、ひとつ心当たりがあった。
「まさか僕が二人にふるった食事も容疑かかってます?」
「ラッキービーストが持ってきた食材にそんな気配は無かったけど、残念ながら貴方にはセル巻きっていう前科があるから……お皿がセルリアンだったとかやりかねないし」
つまるところバッチリ容疑がかかっているわけだ。アミメキリンが向けてくる疑いの目線に、つなぎは言い返すことができずしょんぼりしてしまった。
「というわけでやって来たわよ厨房。何か手掛かりが見つかれば、助手を元に戻せるかもしれないわ」
え? 紅茶飲ませろって? アルパカさんも忙しいのでしんりんちほーまでは出張出来ないのです。
「サンドスター・ロウガ、ミツカレバ、ソレヲ除去スル物質モ作レルヨ」
「しれっといるけど貴方暴走したラッキービーストよね? 今は本拠地跡地に拘留されてるって聞いてたけど何でいるの?」
「警備ガ、ザルダカラネ」
脱走だった。ちなみにさっきとしょかん入口にいたため合流して今ここにいる。
「ツナギガ、危ナイ気ガシテ。終ワッタラ、チャント帰ルヨ」
ただ、脱走した理由は意外な物だった。私達が思っているよりも彼は、一度死なせてしまったつなぎの事を大切に思っているらしい。
「ま、元サンドスター・ロウのスペシャリストが味方なのは心強いわ。さっさと原因の物を見つけちゃいましょう……とはいえ、食材はやっぱり大丈夫そうなのよね……」
アミメキリンはそう言って食材の元を離れ、食器類を確認する。しかし、怪しい所は無い。
「アミメキリンさーん、鍋とかも問題無さそうです。やっぱり、料理じゃないんですよ。ふぅ、良かった良かった……」
立ち上がって安心したつなぎの横、ゴトリ、と棚から何かが落ちた。
そちらをチラリ、と見たつなぎの顔が、だんだん青くなる。そーっと手を伸ばし隠そうとしたため、アミメキリンは駆け寄ってそれを急いで回収する。
「あっ! ま、待ってください!」
つなぎの制止を無視し、それを確認する。落ちたのは、黒胡椒であった。側面が透明になっており、中には黒胡椒の粒がそのまま入っている。上をクルクル回すと胡椒が削れて、新鮮な風味を味わえる代物だ。
アミメキリンは容器を軽く振る。黒胡椒が揺れ、中の粒に目がついてるのが見えた。ちゃうやんこれ、黒胡椒じゃなくて黒胡椒型セルリアンやん。
「バカ! バカバカ!! つなぎのお馬鹿!! 案の定じゃない!! この事態、貴方のせいじゃない!!」
助手にだけ振る舞ったステーキ、あれにたっぷりかけたのがセルリアンだったのだ。
……美味しい訳無いのだが、助手は極度の疲労で味が分からなかったのだ、多分。つなぎも、ステーキ自体の味見はしていたが胡椒をかけての味見まではしていなかった。
「あああ……! 前科が……また、増えてしまいました……」
事件解決数と前科の数がどっこいどっこいになりつつあるつなぎ。
「大丈夫ダヨ、悪気ハ無カッタシ、ツナギハマダ未成年ダカラ情状酌量ノ余地ハアルヨ」
「何が大丈夫なの!?」
アミメキリンのツッコミにもラッキービーストは動じず、その手から黒胡椒型セルリアン、セルペッパーを回収する。
「セルペッパー、回収シタヨ。分析完了、対策アイテム、精製終了、証拠隠滅完了」
チーン、という音と共にゴトリ、と何かがラッキービーストから転がり落ちた。先程までの黒かった胡椒……いやサンドスター・ロウが白く変わっていた。
「コレヲ助手ニ食ベサセレバ、キット元ニ戻ルヨ」
「証拠隠滅ってのは?」
「モウ、セルペッパーハ無イカラ、ツナギヲ捕マエル証拠は無イヨ」
そう言ってつなぎにウィンクする。彼はつなぎ達に、ちっぽけな感情が自分の中に芽生えたと言っていた。しかし多分ガッツリ感情を持っている。
私達が思っているよりも、彼はつなぎにダダ甘であった。
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