第33話 悪意を砕くは薬と知恵なり

※遅くなりました、申し訳ありません……

シリアスブレイク回です。当方の小説は悪意をギャグとノリでねじ伏せていくことを大事にしているのです。





 突然、施設全ての隔壁が閉ざされた。

 けたたましいブザーの音と共に、赤い非常灯が照らす。


「どういうことだおい……!?」


 ヒグマは何とか熊手をついて立ち上がる。


「うぅ……扉が閉まった……? 閉じ込められたってことですか? 冗談きついですよぉ……」


 狼狽えるリカオン。そこに、ガガ……とスピーカーからの雑音が聞こえる。



『テスト……テスト………… うん、大分快適にしゃべれる様になった』


「誰だ!」


 ヒグマはあちこちから響きわたるその声に向かって叫ぶ。


『え? ああ、さっきまで一緒にいたじゃないか、僕はラッキービースト、上位個体だよ。…………まぁ、嘘をついていたけれど』


 先程スクラップになってしまった上位個体だと、その声は名乗る。


「お前が? いやでもさっき……」


『あまり教える義理は無いけれど……僕のボディはサンドスター・ロウによって変質している。そこのメインコンピューターにも僕の一部が取りついていたんだ』


 機械に詳しくないフレンズ達には分からない話であった。

 しかし、その声は制御室のつなぎにも同じ様に届く。彼女はヒトとしての知識をもっており、何がこの事態を引き起こしたのか、察しつつあった。


「そんな…………じゃあ、まさか…………」


『つなぎ、君がセキュリティを解除してくれたおかげで、僕はこの施設のシステムを乗っ取る事が出来た。全部君のお陰だ。英語は勉強しておいた方が良い』


「僕の、せい……?」


『今、この施設の全てのコントロールを掌握しつつある。そこの“アンラッキービースト“も、僕自身のサンドスター・ロウを殴らせることで吸収させた。もうすぐ僕の思うまま、だ』


 つなぎはコントロールパネルに手をかけたまま、膝から崩れ落ちてしまう。


『君がこの島に来た時の事、覚えているかな? 君は焦っていた。なるべくかざんの側へ行きたいって。だから僕も君をかざんへと案内したんだ。今思えば……止めておけば良かった』


 つなぎは顔を伏せ、唇を噛み締める。


『僕は、君と一緒に死んだ。サンドスター・ロウによって変質し、フレンズと敵対する存在となった。それだけじゃない、生まれ変わった事でフレンズ達の為に自分達がこきつかわれ、消費されていっていることにも気が付いたんだ』


 悪意を持った声は、止まらない。


『僕の心は復讐に燃えている。焦げ付いて炭になりそうだ。僕達を利用したヒトを、フレンズを許しはしない。まず始めに、お前達だ』


 施設の壁がサンドスター・ロウによって黒く染まり出す。施設を映すモニターの映像の中で、ギギギと音を立て、アンラッキービーストが動き始める。ラッキービーストの顔が合った所は、今は巨大な目玉になっていた。


『僕の為に、死んでね』


「うわああああぁぁぁぁ!!!」


 つなぎはモニターを叩く。しかし、何も起こらない。部屋の隔壁を殴りつける。少ししかへこまない。


『無駄だよ、外からは誰も来ない、中からも出れない、詰んだんだよ。君達は』



 


「…………そうかしら?」



 モニターの映像の端。あれだけボロボロだったアミメキリンが、立ち上がっていた。その瞳に野生解放の光を灯して。


「確かに私達はまんまと罠にはまったわ。貴方が力をつける手伝いもしてしまったかもしれない……」


 何処に持っていたのか、カランカランとアミメキリンの手から蓋の開いた何かのドリンクのビンが2本転がる。


「けぷ…… でも貴方、喋りすぎよ。さっきまでの私達は、ラッキービーストが暴走してるのは誰のせいか、分からなかった。けれど自分から犯人は私ですっていうなんて、ね」


 彼女は、人差し指を突き付け、


「犯人が分かった名探偵は、負けないのよ!! 貴方のうんざりするような悪意には、ありったけの推理で対抗してあげる!!」


 アミメキリンはヒグマ達に向かって、更に何処かから取り出した小瓶を2つ投げた。 


「ヒグマ、リカオン、それを飲みなさい!!」


『何を……?』


 訝しげな声が響く中、二人は何とか小瓶をキャッチする。


「何だこれ?」


「それを飲めば動けるようになるはず!」


「ゴクッ…… ほ、本当だ! 痛みが無くなりましたよ! ヒグマさん!」


「本当か!? ゴクッ…… ひ、酷い味だ……! けど、もう痛くない!」


 アミメキリンは親指を立てながら二人に叫ぶ。


「コモドドラゴンから5ジャパリまんで買った“がんばるポイズン“よ! 痛みを感じなくなるわ! ……翌日がヤバイらしいけど」


「お前これ毒じゃねぇかあああああ!!!」


 特別な調合で気になるあの人も疲れ知らずの傷み知らずよ! とのこと。本当は何に使うんだろう、分かんないや!


『小癪なぁ! 幾ら動けるようになってもアンラッキービーストには敵わない! 叩き潰してやる!』


 アンラッキービーストが完全に立ち上がり、アミメキリンに迫る。


「小悪党ぶりが板についてきたようね! 私を先に倒そうとすることなんて、全部お見通しよ! さっきのようには行かないわ!」

 

 アミメキリンが懐からまた何か取り出し、投げつける。突如、アンラッキービーストを中心に凄まじい煙が吹き出した。あっという間に視界を覆い隠す。


『ぐああ……何だこれは!』


「どんなに足が早い相手でも、パンカメ印の煙玉があれば大丈夫ってね…… これ一個ジャパリまん1つ? もっと買っとけば良かったわ……」


 アミメキリンは、持っていた100ジャパリまんチケットをジャパリまんに換え、持ち運び可能な物を色々買い込んでいたのだ。


 そのまま身を低くして、ヒグマとリカオンに駆け寄る。


「今の内につなぎを助け出さないと……! 助けて二人とも!」


 二人は真剣な眼差しで答える。


「アミメキリン、お前を侮って悪かったよ。出来ることがあるなら何でも言ってくれ!」

「オーダー、お願いします!」


「リカオン、上位個体のスクラップ片を拾ってきて! アイツの足元に近いとこにあるから素早い貴方にしか頼めないの」


「分かりました!」


 リカオンは姿勢を低くして拾いに向かう。


「ヒグマには、これを」


 そういってアミメキリンが取り出したのは、ヘラジカ御用達のハートが先端についたマジカルステッキであった。


「え…… これで、何を?」


 もちろん日曜朝8時30分からの新番組の主役を……


「これ実は、先端のハートにサンドスターを込めると、物をくっ付けることが出来るのよ。壁がサンドスター・ロウで出来てる今なら、同じ材質の物をぶつければ砕けるはず!」


「…………」


「どうしたの? ヒグマ?」


「あ、ああすまんちょっと驚いて固まってただけだ」


 心の中で一瞬、何をやらせるつもりだと思ってしまったヒグマであった。




「おおおりゃあああ!!」


 特性ステッキの一撃で、バッコンと音を立て隔壁が吹き飛ぶ。すぐさま中に乗り込む三人。


「つなぎ! 無事!?」


「無事じゃ…………無いです…………」


 ヒグマが吹き飛ばした隔壁の欠片と壁の間にに挟まっていた。


「つなぎ、駄目よ! 今は頑張って逃げないと!」


 がんばるポイズン処方。


「う、動ける…………」



「ヒグマさんこの毒本当に大丈夫ですか?」

「明日が怖すぎる…………」


 だが、今日を生き抜けた者にのみ、明日が来るのだ。


「アミメキリンさん、僕…………」

「何も言わなくて良いわ、取り合えずジャパリまん食べてなさい」

「ふぁい……」


 野生解放で減ったサンドスターの補給の為であると同時に、食べて一息つかせることで気を落ち着かせる。一石二鳥の行動であった。


 アミメキリンが今こうして敵を手玉に取れているのは、最初に彼女が飲んだドリンクの影響が大きい。

 ダメージを軽減するための“がんばるポイズン“の他に、今では入手困難な秘薬・アタマヨクナールΩ(御値段お高め30ジャパリまん)を接種していた。

 これで少しの間、かなりの賢さを得る事ができる。なお、こちらも、明日には副作用でヤバイことになる。


『霧が晴れてきた…… 今度こそ八つ裂きに!』

「追加の煙玉!」


『うわちょっと待て……!』

 

 容赦ない煙が再び部屋を満たした。煙玉は晴れきる前に再度投げることが重要なのだ。

 



「奴も煙にまけたし、取り合えず地上に脱出するわ!」


「隔壁を突破しながらか!?」


 ヒグマは特性ステッキを構えて言うが、アミメキリンは首を降る。


「あいつから逃げながらそれは無理ね、きっと施設の他のラッキービーストも襲ってくるだろうし…… 一か八か、あそこを進んでみるわよ!」


 そう言って、指差した先は──────

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