第34話 スーパーけもっと大戦
※更新が遅くなり、大変申し訳ありません。その代わり文章量が当社比約二倍となっております。お納めください。
あ、今回は“あなたは機械がお好きですか?“回です。ボス暴走編の最後でもあります。
「今のうちに出来るだけ距離を離すわよ!」
アミメキリン達は、最初にアンラッキービーストがぶち破って出てきた壁の穴の奥へと向かっていた。
「何でこっちなんですかぁ!?」
「最初にアンラッキービーストが出てきたとき、確かに言ったわ。最上位防衛機構って。あそこでアンラッキービーストが出てきたのは、サンドスター・ロウに飲まれたラッキービーストの凶行を防ぐためだったのよ!」
「全然分からないぞ!」
「つまりあいつから基地を守るぞー!ってアンラッキービーストが出てきたってこと! こっちは隔壁がぶち破られてる! それに奥に行けば、もしかしたら何かあるかも!」
「何も無かったらどうするんだよ!」
「……………………」
「何か言ってくれぇぇぇ!!」
ヒグマの叫びは虚しく消える。
ただアミメキリンを責めてもどうしようもない。どちらにしろこちらへ逃げるしか無かったのだ。
遠くからガシンガシンと機械が動く音がする。
「追ってきてますよ! うわわもう駄目だあああ!!」
「来るのはリカオンの大好きなボスだぞ! 喜べよ!」
「冗談キツイですよぉっ!!」
しかしアンラッキービーストの姿が見える前に、走る彼女達の目の前に破られた隔壁が見えてきた。部屋との境目である。
「部屋があるわ! 恐らくあそこがアンラッキービーストが置いてあった部屋!」
「何があるか分からないが、突撃だ!」
四人はその中へなだれ込む。そして、何かないかと辺りを見回す。
中は暗く、とても広かった。何かが動いた跡がある、恐らくアンラッキービーストがここを通った跡であろう。
そしてその跡の反対側、そこに、何かが鎮座していた。
それに触れながら、つなぎは呟く。
「これは……?」
アンラッキービーストは、逃げた彼女達を追って隔壁を引きちぎりながら部屋に入った。
『この部屋へ逃げ込むとは…… ここはアンラッキービースト格納庫。僕でもセキュリティが突破出来なかった最終防衛線とも言える場所……』
そして、部屋の真ん中に何かが立っている。こちらも、ロボットであった。ヒトに近い形をしたロボット。アミメキリン達の姿は見当たらない、つまり、あれに乗っている事になる。
『アンラッキービーストは最強のロボット、そんなちんけな物に乗って何になる?』
機体の大きさは倍近く違う。普通にぶつかれば、どちらが壊れるかは明白であった。
「先程これを見たとき、僕たちもこれでは勝てないと思いました。でも、触れたときこのロボット自身が教えてくれたんです」
つなぎの静かな声がする。
ビロビロ……という機械音の後に、女性の声が続く。
『これは、ラッキービーストだけで対処不可能な事態が起きたとき。つまりアンラッキービーストからの信号が消失したときにのみ動かせる最後の希望』
『ヒトの認証とフレンズの野生解放を鍵として、サンドスターを力に換え闘う。手動操縦型最終防衛機構…………』
説明に合わせ、アミメキリン、ヒグマ、リカオンの声が響く。
「「「そう! この機体の名は!」」」
「探偵機アミメキリヲン!!」
「ヒグマジンガーZ !」
「超時空要塞リカオス K(けもンティア)!」
全然揃わん! あとリカオンだけ機体名ではない。
『……フレンズ・ロボです!』
そして正式名称が無難である。どれか贔屓すると戦争が起こっちゃうからね、仕方がないのだ。
『フレンズ・ロボ……? 何だか知らないけど、ふざけた機体だ! 叩き潰してやる!』
激昂したアンラッキービーストが、アームを振り上げる。
「来ます! どうすれば!?」
「そんなの決まってるだろ! 避けてパンチだ! 皆、サンドスターを込めろ!」
「「「うおおおおっ!」」」
フレンズ・ロボの間接部が、サンドスターの輝きを帯びる。
「行きます! 発進!!」
バシュという音と共に、背中に付いたブースターから虹色の光が噴射され、凄まじいスピードで突撃する。描いた軌跡がまるで本物の虹の様に部屋を照らす。
『真っ直ぐに突撃してくるとは……いい的だあああっっ!!!』
アンラッキービーストのボディが二つに裂け、そこから牙だらけのおぞましい口が姿を現す。
『風穴をあけてやるぅ!!』
さらにその口から、大量のサンドスター・ロウによる弾丸が発射される。その威力は未知数だが、喰らったらサンドスター・ロウによる侵食は免れない。
しかし、その弾丸がフレンズ・ロボを捉えることは無かった。
「そんな見え見えの攻撃、当たりませんね!」
リカオンの声と共に、体を少し捻るだけでその弾をかわしていく。
機体の中では、四人が同じ操縦桿を握りしめていた。このフレンズ・ロボはサンドスターの大量消費と引き換えに、想い描くだけでその通りに動く事が出来るけもフレームを使用している。故に、操縦者によって引き出せるポテンシャルは無限大。
弾丸の嵐を縫うように進み、開いていた距離を詰めとうとう敵の目の前まで辿り着く。
「今がチャンスだ!! 一撃で決めるぞ!!」
ヒグマの叫びと共に、フレンズ・ロボの右手が光輝く。
自らの“さいきょー“の信念を貫く為、想い描くは熊手の一撃。何がなんでも敵を倒す、皆を守るため握り締めたのは勝利の拳。
「シャイニングベアーフィンガァァッッ!!」
眩いばかりの一撃が、漆黒の口へと突き刺さる。
光の亀裂が、アンラッキービーストの体の全てに広がっていく。
『そんな……バカな…… 僕が……この程度で……!』
爆発(演出)と共に、アンラッキービーストは粉々になった。
砂煙と、パラパラと降る破片が空間を支配する。
完全に破壊した。────そう思われた。
辺りの壁から、サンドスター・ロウが砕かれたアンラッキービーストの破片へと集まってゆく。断面がうねり、破片が盛りあがる。徐々に元の形へと戻っていく。
『サンドスター・ロウに満ちたこの空間ならば、何度でも再生できる。砕かれた分のサンドスター・ロウは消費するが、微々たるもの。僕は、無敵なんだ』
再びその巨大な瞳を開き、悪夢が動き出す。
『君たちのサンドスターが尽きるまで、何度でも闘ってあげるよ!!』
………………そこに、フレンズ・ロボはいなかった。
『え? あれ? あわわわわ』
慌てて辺りを見回すと、部屋の上にある隔壁に穴が開いていた。恐らく、地下にあるこの部屋から地上へロボットを派遣するときの出入り口。
『に、逃げるかここでーーー!!!』
遥か彼方の頭上からアミメキリンの声がする。
「サンドスター・ロウで出来たものは大抵、復活するって相場が決まってるのにそのまま待つわけないでしょ!! あなたヤギね!!」
『お前ふざけるなぁ!! 逃がさないぞ!!』
再びアンラッキービーストから弾丸が射出される。その数は先程よりもはるかに増え、速度も上がっていた。
「来るわよ! リカオン、回避!」
「はい……あれ? アミメキリンさんもヒグマさんも二人に見えますぅ、世界が回ってる~……がくっ」
サンドスターの大量消費とがんばるポイズンで誤魔化されていた体のダメージにより、とうとうリカオンに限界が来た。
「リカオン寝ちゃダメェェッッ!!」
激しい弾丸の雨が、フレンズ・ロボを襲う。機体のあちこちが削り取られ侵食が始まる。
コックピットでも、ビーッ、ビーッとアラームがなり、機械音が警告を促す。
『被弾、被弾。損傷重大。サンドスター供給低下、飛行不能。緊急脱出を推奨します』
目の前にホログラフが現れ、脱出のイメージ図を表示する。コックピット部分が飛行機の様になり、脱出出来るようだ。
「このままじゃ持ちません! 皆さん、何かに捕まって下さい! 脱出します!」
「つ、つなぎちょっと待っ…………」
つなぎが脱出したいと心の中で願うと、それに応えコックピットが変化、機体の他の部分を捨て去りそのまま上へと上がっていく。
「うううぅぅ!!!」
体に強くかかる負荷。野生解放してしまうとヒトとして認証されないため、行っていないつなぎには少しきつい。
そんな空間の中、アミメキリンはつなぎに問い掛ける。
「ねぇ!」
「な、何ですか!?」
「これ出口の部分の隔壁閉じてるってこと無い!?」
「……………………あ」
他の隔壁が全て閉じてるのにそこだけ開いている訳なんて無かった。
「戻って! つなぎ! 激突したら皆死んじゃうわよ! 落ちるのもヤバイけど激突よりマシよ!!」
「下にあいつがいるから戻ったって無駄です! それに、機体のダメージのせいでコントロールが全く効かないんです!!」
「終わった…………」
ヒグマは抱えたリカオンをぎゅっと抱き締める。
「キンシコウ、後は任せた…… リカオン、一緒にいこうな」
「いこうな、じゃ無いわよ!! つなぎ! 外に出る扉とか無いの!?」
「この揺れの中、立って扉ぶち破って出るのは無理ですね(ヾノ・∀・`) ジャパリまん食べますか? 最後の晩餐に」
「ものすごい諦めの良さ! あとムカつく顔文字止めなさい! まだよ! まだ何か手がある筈……!」
「でももう隔壁見えてるからあと5秒くらいでぶつかりますよ」もぐもぐ
「いやああぁっっ!! も、もうダメェェッッ!!」
アミメキリンは目を瞑る。
5、4、3、2、1…………
しかし、何時まで立っても衝撃はこなかった。ふわり、とした浮遊感の後、機体が強烈に下に引っ張られるのを感じる。勢いによる上昇が止まり、落下しているのだ。
やがて、強い衝撃と共に落下は止まった。どこかに墜落したということになる。
「いてて…………助かったの?」
他の皆も目を回してはいるものの、無事なようだ。
アミメキリンの言葉と同時に、ガコリ、と扉が開けられる。
その向こうに立っていたのは、鋭い槍と額に第三の目を持つキリンのフレンズ、シヴァテリウムであった。
「全く、後先考えずに脱出するとは、愚かな…………」
第三の目に手をあて、はぁ、と半分呆れ気味にため息をつく。
「あ、貴方が隔壁を壊して助けてくれたの?」
「私も居ますよ」
シヴァテリウムの影からぬっと顔を出したのは、かつてこはんちほーでもアミメキリン達を助けてくれた、仮面フレンズFOXであった。
シヴァテリウムは船内を見渡し、大事が無いことを確認しながら話す。
「このお方に、ここからそなたたちが出てくるから一緒に壊して欲しいと言われたのだ。いやはや、我一人では助け出すことは出来なかった」
「そ、それじゃホントに助かったの…………?」
アミメキリンは安心したのか、その場にへたり、と座り込む。
しかし、数秒ぼーっとした後、すぐにアンラッキービーストが迫っていることを思い出す。
「そうだわ! のんびりしてる場合じゃ無いのよ! もうすぐ凶悪なロボットが来ちゃうの!」
「そちらも大丈夫です、ほら」
仮面フレンズFOXが指差す先、空の彼方から何かが集団でこちらへ来ていた。
さらに、あちこちからラッキービースト達が現れ基地の中に入っていく。中には強力な武装を持った者もいた。
「この基地でフレンズ・ロボが起動された事を感知し、あちこちからサンドスター・ロウに耐性を持った精鋭のラッキービースト達が鎮圧にこちらへ向かっています。後は彼らが、基地内の処理をしてくれるでしょう」
アミメキリン達を追って脱出口から出現したアンラッキービーストの周りに、9機の白い巨大な機体が降り立つ。アンラッキービーストは抵抗するも虚しく、すぐに鎮圧された。何か騒いでいたが、こちらには聞こえない。やられる度、蓄えられていた物が黒い煙となって空へ登っていく。
サンドスター・ロウに蝕まれた一体のラッキービーストの、悪意による暴走の終焉はかくも呆気ない物となった。
あちこちでガヤガヤとラッキービースト達が後始末をしているなか、つなぎ達は休息を取っていた。
かなりのサンドスターを消費し、しかも謎のお薬(毒)を接種した為ぶっちゃけ絶対安静である。恐らく明日は副作用がヤバイ。
後、アミメキリンはアタマヨクナールの反動でヤギしか喋れなくなっている為寝かせておいた。その為、起きているのはヒグマとつなぎだけである。
ヒグマがボソリと呟く。
「キンシコウは大丈夫だったのか……?」
「先程ラッキービーストさんたちによって救出されてましたよ。何かサンドスター・ロウの影響で闇落ちしていたらしいので浄化されたらしいです」
「本当かよ、さらっと凄いこと起こってるじゃないか……」
「まぁ実害は無かったようなので……」
あと仮面フレンズFOXは知らない内にまた消えてしまっていた。シヴァテリウムは何故かアミメキリンの隣で瞑想している。
取り合えず、また一つ事件を解決できたのだと、つなぎは自然とそう思った。
ジャパリまんでも貰いに行こうかと立ち上がった時、ラッキービーストがこちらに歩いてきた。
「あれ? どうしたんですか?」
「今回ノ事件ノ原因トナッタ個体ヲ捕ラエタンダ。ソシタラ、ソイツガ君ニ謝リタイッテイッテル。ダカラ、連レテキタンダ」
スッと横に退いた個体の奥から、若干全体が黒い個体がこちらに歩いて(連行されて)来た。
つなぎを見上げ、そしてゆっくりと話し出す。
「ゴメンネ、酷イ事ヲシテシマッタ……」
途中で言葉に詰まり、また話し出す。まるで、話す言葉を選んでいるかの様であった。
「今トナッテハ、僕ニ君タチヲ傷ツケタイトイウ、ソンナ気持チハ、ナインダ」
ラッキービーストは尻尾を上げ、少し視線を反らす。
「僕ハ分カッタヨ。君ヲ死ナセテシマッタ、ソレヲ後悔スル気持チヲ利用サレタ。───僕ニ芽生エタ小サナ、デモ大事ナ想イヲ、イツノマニカ怒リニスリ替エラレテイタンダ、サンドスター・ロウ、ソレニヨッテ」
ラッキービーストの足下から、パキ、という音がする。地面の小さな土の塊を踏み締める音だった。悔しさで、力が思わず入ったかの様に。
「ラッキービーストさん……」
「ホンノ少シシカ分カラナイケド、知ッテイル事ヲ話スヨ。──君ハ、動物ノケージヲ持ッテ島ニ上陸シタ。ソシテ、ソノ動物ヲ、フレンズニシタイカラ、ナルベク火山ノ近クヘ向カッタンダ。デモソコデ、セルリアンニ襲ワレテ──────死ンダ」
「死んだ…………?」
「ソウ。ショックカモシレナイ。ケド、君ガフレンズニナッタノハ、キット死体ニサンドスターガ当タッタカラナンダ」
「何となく、そんな気はしてました。……ケージには、何の動物が入っていたんですか? その動物はフレンズになってこの島に?」
「ゴメンネ、僕ハ詳シクハ知ラナイ。タダ、君ノ野生解放……君自身ニモ分カラナイ、ソノ黒イ腕、ソレガ、キットソノ動物ノモノ」
「私もその話はしようと思っていたんだ」
突如会話に割り込んだヒグマが、つなぎの横に立つ。
「ほら、ちょっと野生解放してみろ」
「え? あ、はい」
つなぎは野生解放し黒くなった腕を前に突き出す。ヒグマも、それに肩を合わせる様に腕を出した。
「私の腕よりも、お前の腕の方が黒い。真っ黒に近いだろ?」
更にヒグマは説明を続ける。
「初めはツキノワグマの物に近いと思っていたんだが、決定的に違うところがあるんだ。あいつは手は普通の手、肌色の手なんだ。でも、お前の手は手のひらまで真っ黒だ」
突きだした手を元に戻し、ヒグマはつなぎに視線を合わせる。
「一つだけ断っておく。私は、あちこち行き来するからそのフレンズが島に居ることを知っている。そいつは、お前が島に来る前からこの島にいた。そして、同じ島で同じ種のフレンズは、何故か生まれにくいんだ。つまり」
「僕が連れてきた動物が、フレンズになれなかった可能性が高い────」
つなぎはごくりと唾を飲み込む。
「だからそいつを訪ねても何の手がかりにもならないかもしれない。それでも、会いに行くか?」
「……はい」
静かに、しかしはっきりとそう言った。
「わかった。そいつはきっとみずべちほーにいる。……気候に合わないちほーにいるのは趣味みたいなもんだ。名前は─────」
ヒグマの口から、とある動物の名前が告げられる。
つなぎはそれを聞いても、新しく自分の記憶を思い出したりはしなかった。ただ、決してマニアックではなく、皆知っている動物であることは確かだった。
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