第32話 サヨナラ

※お待たせしました、申し訳ありません!

前話の終わりから一転シリアス回です。ギャグが好きな方がいたらごめんなさい。でも今回はギャグ挟みすぎると話がががが…… 許してくれとは言いません。


ちなみにこのボス暴走編(勝手に命名)のテーマは、本当にボスは無能なのか?です。





 潜入したすぐ後の入り口でアミメキリン達とヒグマ、キンシコウは合流し、建物内を探索していた。


「大体、何であんなめちゃくちゃな方法で突撃したんだ?」


 ヒグマはアミメキリン達に疑問を投げ掛ける。キンシコウもそれに補足する。


「あんな事しなくても、その……つなぎさん?でしたっけ。貴方がヒトならそのまま中に入ってこれたんじゃないですか?」



 アミメキリンは少し言いよどんだが、ハンター二人からの疑問に答えるため口を開く。


「最初はそうしても良かったかなとは思ったのだけど…… 本当にこの中にいるのがラッキービーストだけじゃなかった時、一人では危ないと思ったのよ」


「なるほどな……考えなしの突撃じゃないと? ……お前本当にアミメキリンか? タイリクオオカミが中に入ってたりしないだろうな?」


「しないわよ! 失礼ね、私はいつだって深い考えを持ってるんだから!」


「わ、分かったよ……」


 本拠地は、機械的な通路が縦横無尽に走る複雑な構造であった。ラッキービーストの姿はチラホラあるが、誰もこちらに気を止めない。むしろ動いているかさえ怪しく、やはり機能に異常をきたしているように見えた。



 その様子を見て、ヒグマは顔をしかめる。


「私はな、こいつらとは個体は違うがラッキービーストの勇姿をこの目で見てきた。本当に俺達が危険な時、あいつらは自分達の命を省みず助けてくれる。だから、これは何かの間違いだ。絶対に……」


 走る彼女の顔は真剣であった。しかし、あまり長く走ってはいないのに額につたう汗は彼女が本当は焦っていることを物語っている。


 そうして急ぐ一行の先に、大きな隔壁が立ち塞がった。他の道は行き止まりであり、先に進むためにはこの先に行かなければいけない。


「開けるためにはどうすれば……」


 つなぎは辺りを見渡すと右端の壁に、数字が書いてあることに気が付く。


「パスワード式……片っ端から試す時間はないですよ……!」


「何だか知らないが開ける方法が分からないならこうするしかないだろ!!」


 隔壁の前に立ったヒグマは、野生解放しサンドスターを熊手にありったけこめる。


「うおおおおっ!!!」


 そのまま隔壁を思いきり殴り付ける。ボグッと音と共に、隔壁がへこむ。


「いける…… このまま殴り続ければ」

「ヒグマさんっ!」


 キンシコウが武器を構え後ろを見る。通ってきた通路の壁が開き、そこからラッキービーストが出てきてこちらに向かって進んできていた。



「施設ヘノフレンズニヨル攻撃ヲ感知、捕獲シマス、捕獲シマス!」



「げぇっ! ラッキービーストだけじゃなくこの建物自体攻撃しちゃ駄目だったのか!?」


「逃げ場が無いわよ!?」


 続々と押し寄せるラッキービースト達。隔壁を壊す、ラッキービーストを押し退ける、どちらも危害を加えたことになる。


「クソッ…… リカオン、すまない……」

「アミメキリンさん達もごめんなさい、これはどうしようも無さそうです……」


 ハンター二人が半ば諦めたような事をいうが、アミメキリン達は諦めない。

 

「こうなったらまた人質作戦を……!」

「いや僕が止まってってお願いしたらワンチャン……」


 わちゃわちゃしてる間にも迫ってくるラッキービースト達。


 しかし、唐突にこちらに来るのを止め、全員、機能がストップしてしまった。


「た、助かったの……?」


 アミメキリンがそう呟いた時、施設に設置されているスピーカーから放送が入る。


『皆さん! 大丈夫ですか!』



「この声……リカオン!?」

「貴方、無事なんですか!」


『連行されていく途中に、この施設の管理権限を持ってる?とかいうボスが助けてくれたんです!』


 その通信と同時に、ガコン、と音を立てて隔壁が開く。隔壁の向こうにはラッキービーストが立っている。そして、向こうから話しかけてきた。



「大変ナ目ニ合ワセテ、ゴメンネ。僕ハ、ラッキービースト、上位個体ダヨ。コノ基地ノ管理ヲシテイルンダ」


 そこまでいって一旦言葉を終える。ピロピロと、何かを読み込む音が聞こえる。


「ソコニイルノハ“ヒト“ダネ。コノ基地ノ為ニ、力ヲ貸シテホシイ。キミノチカラガ、必要ナンダ」



 しかし、ラッキービーストの姿が3分の1ほど見えた時点で隔壁の上昇が途中で止まった。ヒグマアタックは破壊力。歪んで上まで上がらなかったのだ。


「アワワワワワワ!」


 上位個体といえど、肝心な所は締まらないのである。


 結局、僅かな隙間を身を捩って通り抜けることになったのだが……



「─────助けてくれ」


 ヒグマが、はまってしまった。


 何処がつっかえてるかは明言は避けておきます。



「ヌググググ!!」


 久々登場のつなぎ野生解放パワーモードである。すさまじい引っ張り力だ、馬力が違いますよ。


「ぐわあああ無理無理無理!!!」


「ヒグマさん頑張って下さい!」ムギュギュ


「キンシコウも全力で押しすぎぃぃ!」


 前からはつなぎが、後ろからはキンシコウが、ヒグマを通り抜けさせようと全力で押し引っ張る。かなりしっかりはまっており、救出は難航を極めた。


 やがて、すぽんという音と共にヒグマは隔壁から抜け出すことに成功。

 が、新たな問題が起きてしまった。


ガッシャン!


 引っ張り抜けた衝撃で、隔壁が閉じてしまったのである。


「また閉まっちゃったわよ!?」


「マ、マカセテ。マタ開ケルヨ……アレ?ウゴカナイ……アワワ」


 さらに衝撃が加わり、完全に動かなくなってしまったようだ。つまり、キンシコウが取り残された形になる。


「いてて、尻が…… どうする? やっぱりぶっ壊すか?」


 ヒグマがお尻を擦りながらいうが、上位個体はそれを止める。


「基地内ノラッキービーストノ対処レベルガ上ガリ過ギルト、異常事態ノ今、ボクデモ止メラレナイカモシレナイ。ダカラ、ヤメテネ」


 そうなったら結局キンシコウも危険に晒される事になる。


「私の事は良いです! ここで待っています、だから先に進んで下さい!」

「すまない、キンシコウ! すぐ戻るからな!」

「はい! リカオンを頼みましたよ!」



 そうして、キンシコウを除いた三人と一体は先に進む。先程までとは違い道は一本道で、他のラッキービーストの姿も無い。


「一番奥ニ、制御室ガアルンダ。ソコデ、“ヒト“ニシカ出来ナイ初期化コマンドヲ入レテホシイ。ソウシタラ、コノ暴走モオサマルハズナンダ」


「初期化コマンド?」


 上位個体を抱えて走りながら、つなぎは聞き返した。


「簡単ニ言ウト、普通ノ状態ニ戻ルヨ」


「信用していいんでしょうね? また失敗でアワワワワワワ、だったら困るわよ!?」


「マ、マカセテ……」


「あーもう、機械の事は推理ではどうしようもないのに~!!」


 今までのちほーではアミメキリンは事件解決のキーを担っていた為、あまり役立てない状況に歯がゆさを感じていた。


『僕も制御室にいます! そんなに遠くでは無いです!』


「よし分かった! とっとと行ってこの事件を解決するぞ!」


「ちょっとヒグマ! 私のセリフ取らないで!!」


「二人とも! 広い部屋に出ますよ!」


 走り続けた三人はだだっ広い広間にたどり着く。奥には扉が1つあった。


「アノ扉ノ奥ガ制御室ダヨ。リカオンモ、ソコニイル。サア早ク!」


 何も無い広い部屋を走る時、体感時間としては長く感じる。三人も、急がねばとさらにスピードを上げて扉に向かう。



 が、もっと急ぐべきであった。



 唐突に部屋の壁の一ヶ所が吹き飛んだ。



 もうもうと煙が立ち込め、その中に何かがいるのが分かる。



「な、何!」


「アレハ……ナゼ……何モシテイナイノニ勝手ニ……」


 そこに居たのは、まごうことなきロボットであった。4つのアーム、二足歩行、白と青の美しいボディ。でも顔はラッキービースト。



「ハジメマシテ。僕ハ ジャパリパーク第172管理基地 最上位防衛機構 “アンラッキービースト“ダヨ」




 そう言い、腕を振り上げ突撃してきた。



「走ッテ! 早ク!」


「は、はい!」


 思考停止仕掛けていたつなぎは、その言葉に再び走り出す。


「ヒグマトアミメキリンハ何トカ足止メヲ! 初期化ガデキレバ、アレモ止マル!!」


「やるしかないか、つなぎ! 一刻も早く止めてくれよ!」

「神殿型セルリアンに比べれば、こんなやつ屁でも無いわ、任せなさいつなぎ!」


 二人の声を背につなぎは制御室へと急ぐ。上位個体によって、扉が開かれる。



「皆さん! お待ちしてました! 早くあのコンピューター?とかいうやつへ……って何ですかあれ!?」


「リカオン、君モ、アレノ足止メヲ!」


「ええっ! メチャクチャ強そう、オーダーきついですよぉ!!」


「ぐあっ!?」

 ヒグマがアームの一撃を受け損ね、吹き飛ばされる。


「ああっ! ヒグマさんに何をっ!」

 激昂したリカオンもつなぎの脇を抜け、戦いに参戦する。


 入った中にはコントロールパネルが設置されていた。しかし、表示されるのは英語であった。


「ツナギ、英語ハ読メル?」

「ごめんなさい、分かりません……」


「大丈夫、僕ノ言ウトオリニタッチシテネ」


「はい!」




 ヒグマ、アミメキリン、リカオンはアンラッキービーストのパワーとスピードに苦戦を強いられていた。


「リカオン、裏に回り込めないか!?」


「本当にオーダーきついです! こいつ4つの腕をバラバラに動かせるから回り込む隙がありませんよ!」


「そして私は開幕数秒でやられたわ……ごめんなさい……」ボロ


 判断力に優れるアンラッキービーストは、一目で三人のうち最も遅い者を瞬時に判断し、連続攻撃で速攻倒していた。




「後ハココニ、手ヲ乗セテ、上ノ数字ガ100ニナッタラ完了ダヨ」


「分かりました、くそっ早くして下さい……!」


 こうしている間にも彼女達は追い詰められていく。


「41……42……43……! まだ……!?」


 つなぎは後ろを振り返る。アミメキリン達は大丈夫かと。



 しかし、そこには立っているフレンズは居なかった。


 三人とも、ボロボロの状態で横たわっている。ヒグマ、リカオンは何とか立ち上がろうとはしているが、しかしもう攻撃を防ぐ余裕があるようには到底思えない。


「皆さん!!」


 今すぐあちらに駆け付けたい。ヒトである自分が庇えばこれ以上は攻撃されないかもしれない。だが、今動いたら彼女達の頑張りが無駄になる。


「────マカセテ」


 上位個体が、つなぎの元から離れ制御室の外へ向かう。


「ラッキービーストさん!」


 上位個体は、くるりとつなぎの方を向き、呟く。


「ツナギ、二人デノ旅、楽シカッタヨ」


 お世辞にも速いとは言えない速度で、アンラッキービーストの前へと向かう。その歩みに迷いは無い。


 そして、ボロボロのヒグマ達の前に、立った。



「────サヨナラ」



 ズン、とアームが降りおろされる。


「嘘……」


 アームが退けられた後、そこにはグシャグシャとなった残骸だけが残った。

 しかし、それでもアンラッキービーストは止まらない。何度も、何度もアームを叩きつける。


「止めろおぉぉぉ!!!」


 ヒグマの叫びも機械には届かない。ただ冷酷に攻撃は続けられる。


 そして─────


「99……100」


 100の数字を刻んだとき、アンラッキービーストはようやく止まった。


「と、止まった…………でも…………」


 もう、上位個体は、鉄の塊と成り果てていた。パーツが残っている、というレベルではない。粉砕と呼んでも差し支えない状態であった。


「うぅ…………ラッキービーストさん……!」


 つなぎは、パネルから手を離したら数字が0に戻ってしまう気がして、そのまま動く事が出来なかった。




 辺りは、もう静けさに包まれていた。他の個体の暴走も、止まっていた。





































 ピピ、とコントロールパネルから音がなる。


「……え?」


 様々な英語が表示されている画面の真ん中に突然ウィンドウが開き、そこにメッセージが表示された。




 ツナギ、二人デノ旅、楽シカッタヨ


 サヨナラ













 僕ノ為ニ死ンデネ



 その瞬間、バツンという音と共にコントロールパネルの電源が切れ、施設全ての隔壁が閉ざされた。

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