へいげんちほー アミメキリンとあれとそれとこれが今ならセットでけも割引

第16話 徹夜は禁止です

 とあるフレンズが、セルリアンから逃げていた。

 彼女は戦う力も無く、足も遅い。その為普段は腕の立つ友達と一緒にいて、いざというときは守って貰っていた。

 しかし、今はその友達もいない。セルリアンも足が速く、追い付かれるのは時間の問題である。

 ジャパリパークの掟は自分の身は自分で守ること、だが彼女のように戦いが不向きで逃げることも苦手なフレンズもいるのだ。


 追い付かれそうになり、もうダメだと思ったとき、あることを思い出す。セルリアンが飛びかかろうとする直前、彼女は懐に手を入れ、そこから丸い玉を取りだし、地面に投げつけた。玉から一気に煙が吹き出す。

 大量の煙は彼女の体を覆い隠し、セルリアンは彼女を見失う。間一髪、無事に逃げることが出来た。




 ─────そう、腕に自信の無いあなたも、このパンカメ印の煙玉があれば、いざというときも大丈夫でござる!!






 アミメキリンとつなぎはへいげんちほーに到着し、としょかんに向けて歩いていたが、その途中、二人組のフレンズに槍を突き付けられていた。


「おい! おま……あ、貴方達、どっから来やがったんで、ご、ございます?」

「敵だった場合、お引き取り願います!」


 オーロックスとアラビアオリックスである。


「な、慣れないしゃべり方は(キャラとしての)寿命を縮めるわよ……?」


「う、うるさーい! 大将からの命令なんだ……です!」


 指摘され憤慨するオーロックス。しかし、問題はしゃべり方の内容ではなくそれが必要な理由である。


「なぜそんなしゃべり方を?」


「なんだ、知らないで来たのか」


 アラビアオリックスも口調を戻す。割りと似合っていたので勿体無い。


「うちの大将とヘラジカ達が協力して、とある催し物を開いているんだ。内容は……直接見てもらった方が早いな」


 そう言われ、どこかに案内される二人。途中巨大な和風の城等もあったが、そこはスルーし、舗装された道を進んでいく。


 やがて、ガヤガヤとフレンズ達の賑やかな話し声が聞こえ始め、目的の場所にたどり着いた。


「これは……」


 アミメキリンは素直に驚く。ホラー探偵ギロギロの舞台には出てきたことがあるものの、物に基本執着しないフレンズ達には無縁のだと思っていた景色がそこにあった。


 舗装された道を挟んで各々がブルーシートを敷き、思い思いの物を広げて他のフレンズを呼び集めている。あちこちのちほーから集まったフレンズ達が、一堂に介していた。


「ほえー……」


 つなぎも感心したようにその様子を眺めている。その反応に満足したのか、オーロックスとアラビアオリックスは自慢げにこう言った。


「ようこそ! フレンズ達が自慢の品をもって集う……」

「けものマーケット! ……通称“けもマ“へ!!」



 オーロックス達の案内から離れ、アミメキリンとつなぎは、けもマの探索を開始していた。


「驚いたわね…… へいげんでは様々な合戦をやってるって聞いたのに、こんなことになっているなんて」


「神殿で見かけた方が結構いますね…… 帰ったと思ってましたけどこっちに来ていたんですね」


 今ホットなスポットに取り合えずすぐさま駆けつける、何ともミーハーなフレンズ達である。


「あんれぇ、二人とも、またあったねぇ!」


 傍らから声をかけられ振り返ると、そこにはこはんで別れたと思っていたアルパカが簡易的なカフェを開いていた。

 途中で他のフレンズに「紅茶まだありますか?」と聞かれ、「ごめんにぇ~、もう完売しちゃったよぉ、取っておくからまた明日来てねぇ~」と返す。


「あなた、こうげんのカフェに戻るって言ってなかった?」


 アミメキリンは首をかしげる。カフェに戻って準備して来たとしても早すぎる。


「カフェに戻ったすぐ後にハシビロちゃんが来てねぇ、頼まれたから、準備して急いで来たんだよぉ」


「そ、そう」


 まさかの普通に歩いて来ただけだった。アミメキリンは知らない、アルパカの驚異の輸送能力を。


「トキちゃん達がお世話になったから、ご馳走してあげたいんだけどぉ、もう無くなっちゃってねぇ……」


「ありがとうございます。それは大丈夫ですけど、お代ってどうなってるんですか?」


 当然そこが気になる。通例通りであれば、丸くて美味しいあれである。


「ジャパリまんだよぉ、でも、沢山のジャパリまんを持ち運ぶのが大変だから、こんなものが使われてるみたいだよぉ」


 そう言って取り出されたのは、紙に“さーばる“と書かれたチケット。


「これをとしょかんの博士達に渡すと、ジャパリまん1個と換えてくれるんだってぇ。すごいよねぇ、長は考えることが違うよぉ」


 確かにすごい仕組みだ。フレンズの文化は着実に進化の一歩を遂げている。


「それは……本当に凄いわね。よく我々は賢いのでって言っていたけど、あながち間違いでは無いのかも」


「ジャパリまんと交換ですか……」


 つなぎはポケットの中をチラチラ見ている。食を減らして物を得る、彼女の中では中々に厳しい選択である。

 ふと、具材がもやしだけの焼きそばで過ごすかつての自分の姿が見えた気がして、少しテンションが下がった。


「ありがとう、アルパカ。でも取り合えずとしょかんに急いでいるから、また帰りに寄るわ」


 アミメキリンがバイバイと手を振ると、アルパカも振り返してくれた。


「分かったよぉ、また来てねぇ」



 その後も道なりに歩き、様々な店を流し見していった。各地の名産品もあれば、自分の服の一部を商品にしているフレンズもいる。

 シロサイなど鎧全部売ってインナーだけになっていた。曰く数日で復活するらしい。「体が軽いですわ!」と楽しげだったので本人的には問題ないようだ。


 


「いやぁ…… 面白いですね! あ、あそこでは美味しそうな木の実売ってますよ!」


「あなたもう手持ちのジャパリまん食べちゃったでしょ」


「アミメキリンさん、そのマフラー……幾らで売れますかね?」


「嫌よ! これ私のアイデンティティーなの! 絶対ダメ! それならあなたが服を売ればいーじゃない!」


「この下裸だからダメです!」


「そーなの!?」


 結局、木の実は諦めることとなった。


「寄り道したいのは山々だけど、先にとしょかんに行くわよ」


 何だかんだ言って堪能していた二人だったが、けもマへは用事を済ませた後でも来れる。

 ジャパリまんも、ラッキービーストからあらかじめ多目に貰っておけば交換も何とかなるだろう。


「あれ? 何で急いでいるんでしたっけ?」


 つなぎは自分のこともあるが、他の急ぐ理由をど忘れした為に改めて聞いてみる。


「忘れちゃった? 漫画の原稿を無くしてしまったから、渡す予定だった長にその事を早く伝えないと行けないのよ! ほら、急ぐわよ」


そう言って歩き出そうとするアミメキリンの背中に声がかかる。


「まぁまぁ、そんなこと言わずにわたしの店だけでも覗いていってくれないかい?」


 声の主へとアミメキリンは振り返る。


「いや、ごめんなさい急いでいるから……」


 そして、アミメキリンの動きが止まった。


「うちの商品は“読み聞かせ“なんだ。ジャパリまん1個で一話。最新話は64話だよ」


「あ、あわわわわわわ」


 ラッキービーストの様にあわわしか言えない。


「所で、長達の所に今までの原稿を取りに行ったら63話が無かったんだ……何でだろうねぇ?」


「オ、オオカミ、しぇんしぇー…………」


 アミメキリンは泣きそうになり、呂律も上手く回らず全身ぷるぷる震えている。

 声をかけてきた店の店主、タイリクオオカミはその様子を見て満足そうにこう言った。


「お、いい顔いただき」

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