第17話 オオカミ先生

※ただただオオカミ先生とアミメキリンちゃんを会話させる回です。


「いやいや、いきなり驚かせて悪かったよ」


「うう……せんせぇ、原稿無くしてごめんなさい……」


「原稿は僕を助ける為に無くなってしまったんです…… アミメキリンさんは悪くありません!」


「だから悪かったって……」


 かなり申し訳なさそうにしているアミメキリンと、彼女を全力で庇うつなぎの姿にタイリクオオカミは困ってしまっていた。


「原稿はね、無くなっても問題ないんだ。少し前の物なら、覚えているからすぐ書き直し出来るからね」


 タイリクオオカミはうつむくアミメキリンの頭を撫でる。


「それよりも、彼女を助けられたことの方が大切さ」


 タイリクオオカミはつなぎの方を向き直す。


「自己紹介が遅れたね、私はタイリクオオカミ。自己流だけれど作家をやらせていただいているよ」


「あ、はい。私はヒトのフレンズで、皆からつなぎって呼ばれています」


 つなぎはそう言って頭を下げる。


「へぇ、ヒトのフレンズ! かばんが探しに行った後、この島にひょっこり他のヒトのフレンズが現れるなんて…… 運命的というか何というか……」


 タイリクオオカミは彼女の顔をまじまじと見て、少し考え込む。


「色々思い付いたことがあるが、ひとまずは良しとしよう。アミメキリンが活躍したことも風の噂で聞いているよ。また、じっくり漫画の題材として聞かせてほしい……所だが、実は今、漫画を描けないんだ」


 その言葉を受け、再びアミメキリンの顔に影がさす。


「あぁ……また、すらんぷとか言うやつですね。私が原稿を無くしてしまったばっかりに漫画を描くのが嫌になったんだわ…… オオカミ先生、ごめんなさい」


「い、いい加減にしないか! 気にしてないものは気にしていないから。……漫画を描けないと言うのは、実は使っていたペンを無くしてしまってねぇ。……新しいペンが無いと漫画が描けないんだ」


 タイリクオオカミは照れ臭そうに頭をかいている。


「えっ!? ……オオカミ先生、凄くあのペン大事にしていたのに……」


 アミメキリンは少し不思議に思った。かつての出来事を思い出す。


────────────────────────────


「オオカミ先生が締め切り明けで爆睡していたのでペンを借りることに成功したわ!!」


 勝手に拝借したの間違いである。


「いつも使ってる“紙“っていうのが見付からなかったから、木の板を持ってきたわ! 私だって面白い漫画、描けるんだから!!」


 彼女はペンを鷲掴み、木の板に突き立てギャリギャリ音を立てて、線を引こうとする。


「ん!? あ、あら? おかしいわね…… ふん! えい! このぉ!!」


 彼女がいくら奮闘しようと描けないものは描けない。

 そしてフレンズのパワーで乱暴に扱われたことにより、ペンに限界が訪れる。


バキッ


「あっ!?」


 音を立ててペンは折れた。半分になったペンが中を舞う。


 サクッ


 そのまま、奇跡的にタイリクオオカミの頭に刺さる。刺さった瞬間ビクッとしたが、凄まじく爆睡しているようで、それでも起きない。


「あ、タイリクオオカミさん、アミメキリンさん、朝御飯ですよ」


 タイミング悪くアリツカゲラがドアを開け、二人を呼ぶ。

 そして、動かないタイリクオオカミと頭に刺さったペン、そして折れたペンを握りしめているアミメキリンを順番に見る。


「ち、ちがうの……」

「キャアアアアア!!!」


 アリツカゲラの叫び声がロッジに響き渡った。


────────────────────────────


 オオカミ先生がペンを大事にしている逸話を思い出そうとしたら、何か別の方向に話が進んでしまいアミメキリンは首をかしげた。まあ過去のことより今だと回想を吹っ切る。

 


 タイリクオオカミ先生はクールなので、ペンを無くした本当の理由は言わない。

 ここまでの道中に、セルリアンに襲われていたフレンズを助ける為にやむ無く投擲したのだが、そういうことはひけらかさない。クールなので。


「で、新しいペンを探して情報を集めていたら、どうもライオンの城にあるという話を聞いてね」


「なるほど。だからジャパリまんを読み聞かせで稼いでいるんですね」


 つなぎはそう言うが、タイリクオオカミは首を振る。


「それはそうなんだが、あそこの商品は貴重だから高いんだ…… “長(おさ)統一価格“だから貯めようと思っても中々……」


「何ですかそれ?」


 けもマに来てから、聞き慣れない単語だらけである。



「よくジャパリまん3ヶ月分とか聞かないかい? あれは一日1個のジャパリまん×90日で90個なんだけど、ありがとうの気持ちを込めて100個で返すのが通例でね。それにならって、ヒトが作ったもので便利な物や貴重な物は、価値がつけられないからジャパリまん100個で統一することになったんだ。それが“長統一価格“だよ」


 つまり新しいペンを手にいれるにはジャパリまん100個が必要となる訳で、中々貯めるのに時間がかかりそうだ。


「ん? 長……?」


 アミメキリンは何かを思いつきポケットを漁り、そこからビーバーに貰ったチケットを取り出す。


「オオカミ先生、これって、ジャパリまん何個になるんですか?」


 タイリクオオカミは、そのチケットを覗き込み、驚愕に目を見開かせる。


「こ、これは100ジャパリまんチケット!? 一体どこでこれを……」


「ええと、話せば長くなるんですけど…… ビーバー達が困っていたから助けたら、お礼にくれたんです」


「なるほど、家を建築すると沢山のジャパリまんが貰える…… 彼らならそれくらい溜め込んでいてもおかしくは無い……ということか」


 ビーバー資産家疑惑浮上。


「オオカミ先生、これあげます! 原稿を無くしたお詫びです!」


 アミメキリンはここぞとばかりにチケットを差し出す。タイリクオオカミの役に立てるのが嬉しくて仕方がない、という様子である。


 しかし、タイリクオオカミは差し出されたそのチケットを、アミメキリンの手ごと彼女の元にそっと押し戻した。


「気持ちは嬉しいが、そういうのは良くない。あの話とこの話は本当に無関係だ。そのチケットは、君が欲しいものに使いなさい」


 タイリクオオカミはアミメキリンにそう言い、微笑んだ。そして、次につなぎを見る。


「ぼ、僕のはあげませんよ……!」


「言わないから! 今の流れはそういうのとじゃなかっただろう!?」


 冒頭で庇っていたわりに態度の豹変が早すぎるのは、つなぎはジャパリまんが関係すると途端にケチになるからだ。


「おほん、まぁせっかくだからひとつお願いしようかな。時間がある時でいいけれど、ライオンの所に本当にペンがあるのか見てきてくれないかな? ついでに、そのチケットで買いたい物がないか見つけて来るといい。それは……お釣りが貰えないからね」


「なるほど、実質ヒトの物との交換券みたいなもの何ですね」


 お釣りが出ないなら値段きっかりのものを買うのが無駄がない。


「アミメキリン、中々鋭いじゃないか。……ちょっと察しが良すぎる気も……?」


 長年一緒にいるタイリクオオカミには、今のアミメキリンはちょっといつもとちがう様に思えた。


「分かりました!! 行ってきます!!」


 猪突猛進さは変わっていなかった。


「あ、待ってくださーい!」


 つなぎも後を追いかける。二人は砂煙を巻き上げながら元来た道をダッシュして消えていった。


「ははは、嵐のように去っていくなぁ」


 タイリクオオカミはそう言った後、店を畳み出す。実は彼女は、島を遠回りしてとしょかんへ向かうアミメキリン達を、先回りして待っていたのだ。

 本来はとしょかんで合流しようと思っていたが、アミメキリンが活躍している噂を聞き、いてもたってもいられず、へいげんまで足を伸ばしていた。


「ペンは長達から買うとしようか」

 

 そして、ペンを買うお金がないのは嘘なのだった。


 店を畳んだ後、彼女はそこに立て札を立てた。「ようじができたからいく またあおう」とだけ書かれていた。

 賢いタイリクオオカミは、文字も少し書ける。流石はオオカミ先生。


「さあて、それじゃあ行こうかな」


 タイリクオオカミはアミメキリン達の活躍の詳細をあえて聞かなかった。何故なら、彼女らはこれからさらに色んな事を経験し、聞かせてくれる。もっともっと面白くなった後に話を聞こうと考え直したのだ。


 去ってゆくタイリクオオカミの尻尾は、彼女自身も気がつかないうちに楽しげに揺れていた。

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