第14話 決着

※前話のギャグ回から転じてガチバトル回です。アミメキリンちゃんのIQも高めになっています、注意!



 仮面フレンズFOXフォックスは仮の姿、その真の姿はジャパリパークの秩序と平和を守る守護けもの、オイナリサマその人である。


(この格好をするとあの時の記憶が思い出されて、正直顔から火が出そうなのですが…… 正体を悟られないため、今は仕方がありません)


 彼女がこの姿になるのは今回が初めてではない。他のフレンズに無理やりやらされた過去がある。


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「ジャパリパークの平穏を守る為なら、私はどんなことだって……」


「しっしっし、今どんなことだってするっていったよナ?」


「え? いやそれは言葉のあやと言いますか……」


「ちょっと雛鳥達が困っているみたいだから助けてやっておくれよ~! ホラ、これ着けてサ!」


「ちょ、ちょっと! やめ…………」


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「…………いや、今あの時のことは関係ありません! 仮面フレンズFOX 、行きます!」


 元神殿型セルリアンに向け、勢い良く跳躍。そのまま弾丸のごとき鋭さで空中から強襲する。


「FOX……キィィィッック!!」


 必殺のキックが炸裂し、セルリアンを大きく吹き飛ばす。


「まだです!」


 その勢いのままもう一度地面を蹴って跳躍、セルリアンの頭上から踏みつけるようにもう一度蹴りつける。


「FOX……二段キィィィッック!!」


 これぞ仮面フレンズFOXの必殺技の一つ、FOX二段キックである。一蹴り目で相手の態勢を崩し、二蹴り目で逃げ場の無い地面へと叩きつける、情け容赦の無い攻撃だ。

 ちなみに棒状の武器があればFOX 脳天割りもやってくれる。期待に応えるのが彼女の信条、なればこそ何だってやるのである。



 しかし、彼女の実力をもってしてもサンドスター・ロウを蓄えたセルリアンは手強い。本来、相手するにはフレンズ数十人の規模を要する驚異だ。


 二段目の蹴りでセルリアンを地面に叩きつけた足が、そのままセルリアンに飲み込まれ始めていた。


「嘘っ!? 私の、けものプラズムによる干渉遮断を突破してくるなんて……!?」


 セルリアンに飲み込まれている最中では、彼女も、重心が安定せず力を発揮することが出来ない。抵抗はするものの、徐々に飲み込まれていく。


 戦いを離れてみていたアミメキリン達も、事態があまり良くない方向に進んでいることを察する。


「まずいんですけど! 助けないと!」

「私も行くわ……!」


 ショウジョウトキが彼女の元へと向かい、トキもその後を追いかける。すぐにたどり着き、引っ張りあげようとその腕を掴む。


「今引き上げるんですけど! ぐぎぎぎぎ……! だ、駄目、なんて力……!」


「手伝うわ! 一緒に……せーの!」


「「んぎぎぎぎぎ!!」」


「だ、駄目…… 歯が立たないわ……!」


 二人がかりでも引き上げることは出来ない。飲み込まれるのを遅くするのが精一杯である。


「私のことは良いわ! 早く逃げなさい!!」


「そんなこと言われても聞けないんですけど!!」

「助けて貰ったのに見捨てて逃げるなんて出来ないわ……!」 


 諦めてはいないが、打開策は無く無情にも少しずつ飲み込まれていく。残された時間は多くはない。







「……て、…きて、…………起きて!!」

「わぎゃ!?」


 つなぎは、何者かに叩き起こされる。驚いて回りを見渡すと、以前謎のセルリアンに出会った真っ白な空間であった。


「ま、またここ……?」


 そして、何物かが自分の隣に立っていることに気が付く。そちらへと目を向けてみると


「……トキさん?」


「そーよ、私はトキ。久し振り……いや、始めましてかな、浮気者さん?」


 先程まで一緒にいたトキと全く同じ見た目のフレンズがそこにいた。


「え? でも、さっきまで一緒にいましたよね? 久し振り? 浮気者? え、え?」


 つなぎは混乱する。そもそもこの空間のことも良くわかっておらず、前現れた変なセルリアンは意味不明なことしか言ってくれなかった。

 その結果得られた野生解放についても良く分からないのに今度はトキの姿のフレンズに浮気者呼ばわりされる。何が何だか分からない。


 そのつなぎの様子を見て、トキの姿の少女は憤慨する。


「あの子はジャパリパークのトキ、私は日本のトキ! 私をほっぽってあの子とパークに行っちゃって、その上今はアミメキリンと一緒に色々やってる、だから浮気者って言ってんの!! あーもう、時間が無いから詳しい説明は無し!」


 自分で混乱させるようなこと言っておいて、という目線を送るがトキはものともせず、腕を引いてつなぎを無理やり立たせる。


「はい! しゃんとして! よーく聞きなさい、今あのセルリアンは強力な一撃を受けて満身創痍。石に少しでもダメージがいけば崩壊する」


 そこでトキは話を一旦区切り、息を整えて続きを話す。


「でも奴も強か。体内構造は神殿の頃から変わっていなくて、中は空洞、その壁の中に石を隠して高速で移動させている。恐らく石を捉えることは出来ない」


 そこまで言うと、トキはポンポンとつなぎの頭を軽く叩きその目を覗きこむ。


「私の力を貸してあげる。チャッと行って、スパッと倒してきなさい! 方法は、あなたが今ご執着のアミメキリンにでも相談して決めればいいわ! ……分かったら、早く行きなさい!」


 トキは早口で捲し立てた後、光の彼方を指で指す。


「あ、あの……やっぱりトキさん怒ってません……?」


「かけあーーーーし!!!」


「は、はいいい!!」


 怒られたつなぎは振り返らずに全力でダッシュする。白一色だった視界に、段々と現実の世界の景色が見え始める。そして……


 気が付くとつなぎは、こはんちほーの空を駆けていた。





「あああああ、私って何て役立たず……」


 アミメキリンは頭を抱え、地団駄を踏んでいた。トキのように空を飛べず、マフラーも草食動物有数のキック力も効き目が薄い。そして、圧倒的な力を持つ相手には名探偵の推理も役に立たない。


 トキ達を助けたいが手段がなく、ただ時間が過ぎていく現状に焦る。とその時、プレーリーが彼女に異変を報告する。


「アミメキリン殿! 何かが、こちらへ来るであります!」


 プレーリーが指差す方角、太陽を背にして何かがこちらへ飛んでくる。


「あれは……鳥……? いや、……つなぎ!?」


 それは、上下青い作業服の彼女、つなぎであった。しかし、先程までとは様子が違う。野生解放しているものの、黒い腕ではなく作業服のまま、髪の色は白で毛先だけ赤、トキと全く同じ羽根が頭に生えていた。


「つなぎ!? あなた、無事だったの!? あと、トキだったの!?」


「僕にも良くわかりません! それより、アミメキリンさん聞いてください!」


 野生解放しているものの、以前の様な片言ではなかった。

 つなぎは、白い空間で相談するよう言われた、セルリアンの倒し方についてアミメキリンに話す。


「本当にあと一撃なのね? そしてあいつの中は空洞になっているのね!?」


「恐らく…… 前も白い空間で敵を倒す力を貰えたので、今回も……」


 アミメキリンは方法を考える。しかし、その時間はほんの一瞬。すぐに答えを見つけ出す。


「なら倒す手段はあるわ! 移動する石を捉える必要は無し! あいつの中に入って、体全部を攻撃してやればいい! つなぎ、あなたがトキの力を持っているなら可能!! ……言ってる意味、分かるわね?」 


「体全部を攻撃、なるほど……! 大丈夫です、多分できます!」


「あとは中に入る方法……プレーリー、水筒貸しなさい! ビーバーは、奴の気をなんとか引いて!!」


「分かったッス!」

「了解であります!」


 アミメキリンの指示の元、各々が行動を開始する。こはんちほー最後の戦いが、今ここに始まった。




 オイナリサマは、もう胸の辺りまで飲み込まれていた。トキ達も抵抗する力がかなり弱まっている。


(もう、持たない…… こうなったら、彼女達を振りほどき、わざと中に入って私のけものプラズムを暴走させ、道連れにする……!)


 それは最後の手段であった。オイナリサマも消滅することはないもののかなり消耗し、しばらく活動不能になってしまう。しかし、背に腹は代えられない。


 覚悟を決めようとしたその時、ドズゥン、と音を立てて森の木が何本もセルリアンに向けて倒れかかった。オイナリサマは驚いて木が倒れた方に目を向けると、木の根本に誰かがいる事に気が付く。アメリカビーバーである。離れたところではプレーリーが待機している。


「さすがですなビーバー殿!」

「油断禁物ッス、来るッスよ!」


 セルリアンがビーバーに気が付き、そちらへ向けて触手を飛ばす。


「今ッス!」


 ビーバーの合図でプレーリーは木を倒し、触手の上へとタイミング良く落とす。

 ビーバーを掴もうとしていた触手はすんでのところで地面に打ち付けられ、その動きを封じられた。


「作戦、成功であります!」




 接近を妨害する巨大な触手を封じることに成功したことを確認し、アミメキリン達も動き出す。


「あちらも上手くやってるわね、こっちも行くわよ!」

「はい!」


 つなぎはアミメキリンを抱えて飛ぶ。目指すは、何度も侵入に利用した2階の扉である。

 ビーバー達の陽動のお陰で楽に近づく事ができる。風を切り裂く様に飛び、すぐさま目的の箇所へ到達する。

 しかし、そこに扉は無く、黒い壁になっていた。そこだけは壁が薄かったが。


「入れる場所がありませんよ!」


「それは折り込み済み! つなぎ、私をあそこに投げなさい!」


「ええっ!?」


「いいから、早く!」


「……知りませんよ!!」


 つなぎはアミメキリンを扉に向かって放り投げる。


「アルパカ、ごめんなさい!」


 アミメキリンは外しておいた自分のマフラーを壁に叩きつける。

 そこにはあらかじめ、サンドスター・ロウを打ち消せる紅茶が染み込ませてあった。黒い煙をあげ、壁が薄い石へと変化する。


「たああああっっっ!!!」


 紅茶を受けて石化した箇所を狙って蹴り抜く。バキンと音を立てて砕け、中へと続く穴が出来上がった。


「さあ、行きなさい、つなぎ!」


「はい!!」


 アミメキリンはつなぎに先へ急ぐように促し、自分はそのままセルリアンに飲み込まれ始める。しかし、つなぎは振り返らない。


 セルリアンの中は外の喧騒とはうって変わって静かであった。あちこちヒビが入り、かなりのダメージが入っていることが分かる。


 あの時の様に、天上に目玉が再び現れた。中に入ってきたこちらに困惑しているようにも見えたが、何かに気が付き、四方八方の壁から無数の触手を生やし彼女を捉えようとする。


 しかし、中に入った時点でもう勝敗は決していた。


 つなぎは、かつて神殿のテラスで聞いたトキの歌声を思い出し、そして、歌う。


 音が、室内で反響する。神殿の空洞では音は良く響く。破壊の旋律が、増幅されセルリアンを体内から蹂躙する。


 神殿が、セルリアン自体がその攻撃に耐えられなくなり、激しく震えだす。やがて、パキィーンと何かが砕ける甲高い音が響き、その直後セルリアンも無数の立方体に変わり弾けた。



 こはんちほーに突如出現した神殿に扮する巨大セルリアン。隠れて力を蓄え、そのままでは多くのフレンズが犠牲になったかもしれない。しかし、巨大セルリアンの驚異は、名探偵とその仲間達によって未然に防がれた。


 空に登って消えていく、黒いサンドスター・ロウの鈍い輝きが、こはんちほーを騒がせた空前絶後の事件が無事解決した事を物語っていた。

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