第12話 プレーリーの証言と奇跡の紅茶
※今回ちょっと悲しい描写があります、注意!
神殿の地下から脱出し、一同はプレーリードッグが住むログハウスへと集っていた。空は夕方から夜へと移り変わっていく。
「こ、怖くなんて無かったんですけど……!
もう会えないなんて、これっぽっちも思わなかったんですけど……! ぐす……」
「泣かないで。アルパカが持たせてくれた紅茶よ、一緒に飲みましょ?」
トキ組は再開の喜びを分かち合いながら一緒に紅茶を飲んでいる。
一方、アミメキリンとつなぎはプレーリードッグから一連の事件にまつわる話を聞いていた。
「神殿でビーバーの横に貴女がいなかったのは正直疑問だったの。貴女たちすごく仲が良かったじゃない? 喧嘩でもしたの?」
「それを言われると耳が痛いでありますな……」
プレーリーは耳の後ろをかきながら、なにやら言いづらそうにしている。
アミメキリンとつなぎの顔を見て、絞り出す様に話し始めた。
「………………きっと、ビーバー殿がああなってしまったのは……自分のせいであります」
───────────────────
数週間前
「やったでありますな! ビーバー殿! 2階建ての家なんて、ビーバー殿にしか造れないでありますよ!」
「へへ…… おれっちだけじゃあ迷ってばかりでいつまでたっても出来なかったッス。二人でやったからこそ出来たッス。プレーリーさん、ありがとうッス!」
「ビーバー殿ぉ……」ウルウル
お互いを誉め会う二人のもとに、数人のフレンズが駆けつける。
「すっごいです、ありがとうございます!」
「こんなりっぱな家が出来るなんて……!」
「これで私たち仲よし4人で一緒に棲めます!」
「ありがとー!」
この彼女達は気が合う仲間四人で一緒の家に住みたがっていた。そこで、ビーバーが長達にも相談しながら彼女達四人で住める二階建ての大きな家を造り上げたのだ。もちろんプレーリードッグとのペアで力を合わせてである。
「良い仕事をやり遂げた気分は最高であります! ビーバー殿、感動のご挨拶をさせていただきたいであります!」
「ちょっ/// プレーリーさん、皆見てるッスよむぐっ!?」
「「「「きゃ~////」」」」
この時は本当に楽しかった。
しかし不幸は、誰にでも唐突に訪れる。
その日は、激しい雨が降っていた。その中を、ビーバーとプレーリーは急いで駆け抜ける。
「ビーバー殿、待ってほしいであります!」
「はぁっ、はぁっ! ……嘘ッス! きっと何かの間違いッス!」
ビーバーの心の中は、信じたくない気持ちで一杯になってしまう。
しかし、たどり着いた先で待っていたのは最悪の光景だった。
「そんな……」
ビーバーは膝から崩れ落ちた。
ちょっとやそっとでは倒れない、今までで一番頑丈に造り上げたであろう2階建ての家が、ぐちゃぐちゃに壊れていた。
「ビーバー殿……」
後から追い付いたプレーリーも、その光景に息を飲む。しかし、それよりもビーバーの様子が心配であり、その側に近づき肩に手を置いた。
「そっか、この家、ビーバーが建てたのか……」
壊れた家の側に、ヒグマが立っていた。その近くでは、住んでいたフレンズ達をキンシコウとリカオンが慰めている。
「かなり大きなセルリアンが出たんだ…… 彼女達は家に避難したんだが、流石に、相手が悪すぎた……」
キンシコウがヒグマとビーバーの様子を見て、フレンズ達をリカオンに預け近づいてきて話に補足をする。
「私達もかなり手間取って遅くなってしまいました、ごめんなさい……。この家は凄く頑丈で、私達が来る直前まで、セルリアンの攻撃を何回も耐え抜いたそうです」
リカオンに慰められていた彼女達もこちらへやってくる。
しかし、その数は三人で、そのうちの一人は、腕に一匹のけものを抱えていた。
「ハンターさん達の姿が見えた瞬間、家が崩れかけて…… それでもこの家は壊れずに私達を守ってくれたんです。でも、さらにもう一体のセルリアンが現れて……」
「彼女が、私たち三人を外へと押し出してくれたんです。でも、自分はセルリアンにのまれて……」
「この家が無かったら、きっと今ごろ三人ともセルリアンに…… ビーバーさん、気を落とさないで下さい……」
三人は、自分達も辛いであろうに、ビーバーの心配をしてくれている。腕に抱えられた小さなけものも、心配そうに小さく一声鳴いた。
「おれっちが、もう少しでも頑丈に造れていたら……」
「ビーバー殿…… この家は、間違いなく頑丈だったでありますよ」
「そうッスかね? 本当におれっちは最善を尽くせたのか……少し、分からなくなっちゃったッス」
より強くなった雨が、崩れた家の残骸に激しく打ち付ける。
雨の中立ち去っていくビーバーの背中に、プレーリーは言葉をかけることが出来なかった。
しばらくの間、ビーバーは元気を失っていたが、セルリアンにのまれた彼女が運良くすぐにフレンズに戻り、記憶もある程度のこっていたという知らせを受けてとても嬉しそうにしていた。
数日後、ビーバーとプレーリーは再び彼女達四人の前に立っていた。もう一度、彼女達の家を建てるためである。
「この間は凄くショックだったッスけど、またお願いされたら頑張るしかないッス! この前の反省を生かして、さらに丈夫に建てるッスよ!」
「ビーバー殿、立ち直ってくれて嬉しいであります! やっぱりビーバー殿はすごいであります! 自分が心配する必要もなかったでありますな!」
「昔のおれっちならともかく、今のおれっちにはプレーリーさんがついててくれますから、挫けてなんかいられないッスよ!」
力強く意気込み、建材に手をかけようとする。
しかし─────
「あ、あれ……?」
建材を手にしようとすると、手が強く震え、触ることが、出来なかった。
「ビーバー殿……?」
「あれ? お、おかしいっすね……」
何度も、何度も掴もうとした。
何度も、何度も掴めなかった。
「────トラウマ、というやつなのです」
心配になったビーバーをプレーリーが長の元まで連れていくと、そんなことを言われた。
「心に強いショックを受けると、それに関連したことが出来なくなることがあるのですよ」
「よほど辛い目に会ったようなのです…… 我々フレンズは、人の心とけものの心の両方を持っている、それと上手く付き合っていくのは、実は大変なことなのです。……今は、落ち着いてゆっくり過ごすことが、治療になるのです」
─────────────────────────────
「そんな事が…………」
「でも、それは貴女のせいではないわ。勿論、ビーバーのせいでもないはずよ」
アミメキリンとつなぎは想像よりも大変だったプレーリーの事情に、そう言葉をかける。
「ここまでなら、そうであります。ただ、自分はそのあと余計なことをしてしまったのであります……」
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それ以来、ビーバーとプレーリーはログハウスでゆっくり過ごすことにした。しかし、トラウマ克服への焦りから、ビーバーの心は落ち着かなかった。
「眠れないっす……」
「ビーバー殿、無理は禁物でありますよ。また、長殿達に相談に行きましょう」
「そうですか、眠れない……」
「不安のもとを取り除くのが一番なのです。しかし、取り合えず出来ることがないか調べて見るのです。丁度ここにも睡眠に関する本が一冊ありますが、他にもないか探してくるです」
そう言うと長達はどこかへと飛びさっていった。その後に一冊の本が残される。
「睡眠に関する本……」
プレーリーは手にとってパラパラとめくる。フレンズにも見せることを考慮してか、絵が多くて分かりやすい。そして、その中の一ページに目が止まる。
そこでは、糸に結びつけられたコインを使ってフレンズに暗示をかけている、いわゆる催眠術を行っている様子が、絵で示されていた。
「これなら…… 眠れなくなったビーバーさんを眠らせてあげるだけでなく、トラウマを克服させてあげられるかもしれないであります……!」
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「そうしてビーバー殿に眠れるように、自信を取り戻す様にと催眠術とやらを行ったのでありますが…… 元気になったと思った次の日にはいなくなっていて……」
「次会ったときにはああなっていたと……」
「……そうであります」
話している最中にトキが出してくれた紅茶を飲み、プレーリーは一息つく。そして、紅茶の水面に瞳を落とす。
「自分は責任を感じて何度もあの建物に足を運んだのでありますが、段々と力が無くなっていって…………」
「私が助けを求めて飛び込んだとき、ログハウスの中でぐったりしていたの」
トキは紅茶のお代わりを注ぎ、アミメキリンに渡した。可愛いアルパカの絵がかかれた、ピンク色の水筒を使っている。全然関係ないがショウジョウトキはさっきからトキの腰辺りに手を回し、顔を埋めている。あれ絶対泣いてる。
「ひとまず元気になってもらうため、プレーリーに紅茶を飲ませたら、凄い事が起こったの。……説明するよりも、飲んでみて」
トキに促され、アミメキリンは紅茶を口にする。ほのかな甘味と、花のような香りが広がり疲れたからだに染み渡る。
「美味しいわ……これ」
「むふ。アルパカ特性の疲れが取れる紅茶ブレンドよ。それより、自分の体を見てみて」
「あら?」
すると、ほんの少しだがアミメキリンの体から黒い何かが抜けていった。
「これはまさか………… サンドスター・ロウ!?」
神殿のサンドスター・ロウは知らない間に彼女達の体にも染み込んでいたのだ。しかし、アルパカがショウジョウトキの事を心配して淹れた紅茶には、奇跡の力が宿っていた。
「これを飲ませれば……」
「恐らくビーバーさんも元に戻る……」
アミメキリンとつなぎは顔を見合わせる。恐らく、ビーバーを元に戻すことがセルリアンの神殿を破壊する突破口にもなる。アミメキリンの勘はそう言っていた。
「あなたたちが助け出されている間に、ジャパリまんも準備しておいたわ」
トキがかごに山盛りのジャパリまんを持ってきて皆の側に置いた。
「自分はビーバー殿をお助けしたいであります…… けれど、自分だけでは力不足…… 皆の力を、自分に貸して欲しいであります!!」
プレーリーは、立ち上がり頭を下げ懇願する。少しの沈黙の後、他の面々も立ち上がる。
「これ以上被害を増やすわけにはいかないわ。それに、アルパカの紅茶の宣伝にもなるわね、むふ」
「もうあの場所はこりごりだけれど…… トキが行くならしょうがないから一緒に行くんですけど!」
「アミメキリンさん、勿論名探偵は事件から逃げませんよね?」
つなぎの言葉を受け、アミメキリンは胸を張る。
「逃げるなんてとんでもないわ! これだけの情報があればこの事件は解決したも同然よ! 私に、任せておきなさい!!」
背後にバーン!という文字が出そうな見事な姿勢。
プレーリーは顔をあげ、ありがとうでありますとお礼を言い、トキとショウジョウトキは顔を見合わせて笑っている。
つなぎは早速ジャパリまんにかぶり付きながら、アミメキリンのどや顔ベストアングルポイントを確保しじっと見つめている。
ここに、アミメキリン達一行の、ビーバー神に対する反撃が開始されたのである。
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