第9話 閑話 さばくちほーの秘密の邂逅

 さばくちほーに存在する遺跡の奥深くのさらに奥、四方を壁に囲まれ、通常のフレンズでは入ることさえ出来ない部屋。そこに今二人のフレンズがいた。


「四神の様子を見に来たついでにこちらにも寄ったら、こんなことになっているなんて……」


 そう呟いた彼女はオイナリサマ。ジャパリパークの平穏を守る、守護けものと呼ばれる存在の一人である。その秘められた力は他のフレンズとは比較にならない。


 そのオイナリサマの目の前に立つフレンズは、足元まで届きそうな金色の長い髪と、黒い甲冑を身に付けているのにスニーカーを履いた姿がとにかく目立つ、ちぐはぐな姿をしていた。


 オイナリサマの言葉を受けたもう片方のフレンズは、部屋の中をぴょんぴょん跳ねながら言葉を返す。


「ヤバかった! やるしかなかった!」


「確かに、私達守護けものはパークの平穏を守り、加護を与えるのがつとめ。でも……」


 オイナリサマは目の前で跳ねている彼女を見て、頭を押さえながら溜め息をつく。


「まさか、あのポンコツで有名なアミメキリンに自らの知恵を分け与えるなんて!!」


「ヤバかったんだぞー! 今もヤバイんだぞー! ヤギね!」


「ちょっとアミメキリンの影響受けていますよね!?」


 知恵を分け与えただけの筈なのに逆にポンコツが侵食し始めている。恐るべしアミメキリン。


「アミメがヒトを導く為には、こうするしかなかった!」


 彼女は跳ねるのを止めオイナリサマの前に座り、ニコニコと笑いながら左右に揺れている。


「……もっと他に適任はいなかったのですか?」


「シバとかがキョウシュウにいればなぁ…… アミメをヒトの所まで導くのも、大変だったぁ……」


「……オカピさんは?」


「はっ!? 忘れてた!?」


「えええ……」


 それはあまりにも不憫では……とオイナリサマは咎める目を向けるが、彼女は気が付いていないようだった。


「とにかくオイナリが来てくれたから丁度いいや! 二人のこと、守ってあげて!」


 彼女は屈託のない笑顔を向け、オイナリサマにそうお願いする。


「けものを愛するヒトを守ることはやぶさかではありませんが…… ある意味あなたが撒いた種。あなたが自身が行くべきでは?」


「私は草も踏めないし虫も殺せないんだぞー! だから引きこもってるのに!」


「あ、あなたねぇ……」


 ギンギツネさながらの、見事な「あなたねぇ……」であった。


 四神が石板となってから、引きこもってる彼女の面倒を見るフレンズがいなくなり気になっていたが、案の定彼女の引きこもりに磨きがかかってしまっていた。

 以前なら、誰かに連れ出されて1年に一回ほどは外に出ていたというのに……


「分かりました! 少しだけですよ! 遠くから見守るだけですからね!」


「そんなこと言っちゃっていつも助けてくれるくせに! やさしーんだー?」


 彼女にそう言われオイナリサマは少し照れくさそうに顔を赤らめる。

 他人に超絶甘いのが、彼女の長所でもあり短所でもあった。


「まったく…… もう行きますからね! キョウシュウを一周したら、また来ますから」


 そう言い残すと、オイナリサマは壁に向かって歩いていき、そのまますり抜けて消えていった。


「……ありがとな、オイナリ」


 一人部屋に残った彼女は、ポツリとそう呟いた。

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