こはんちほー 奇跡の紅茶と反逆のアミメキリン
第7話 だいしんでん
すみわたる青空と温かい陽気が降り注ぐのどかな昼下がり。
こはんちほーを見渡せるテラスの縁に手をかけ、アミメキリンは呟く。
「良い景色ね──」
「はい、とっても」
つなぎはアミメキリンの隣に並び、懐からピンク色の可愛らしい水筒を取り出した。蓋を開け、中の飲み物をそこへ注ぐ。
ふわりといい香りが辺りに漂う。温かい紅茶の水面は日の光を反射し、サンドスターの輝きの様にきらめいていた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、つなぎ」
差し出された紅茶を受け取り、香りを楽しんだ後にずず、と少量を口に運ぶ。
「ああ、身体に染みるわ……」
飲み頃の温度であった為、そのまま一息に飲み干し、空になった水筒の蓋をつなぎに手渡した。
「もう一杯飲みますか?」
「大事な紅茶ですもの、とっておきなさい」
「それもそうですね」
テラスの縁から身を乗りだし、眼下に広がる森林を見渡しながらアミメキリンは再び呟く。
「ああ、なんでこんなことになったのかしら」
───話は、二人がこはんちほーを訪れた頃に遡る。
「ついたわね! こはんちほー!」
「す、涼しいです……」
こはんちほーの入り口で腰に手を当てて仁王立ちをするアミメキリンと、ふらふらと歩いてきてそのまま地面に横たわるつなぎ。
「はあぁ……ひんやり~」
「ちょっと、汚れるわよ…… まあ、無理も無いわね」
二人は先程までは灼熱の太陽降り注ぐさばくちほーにいた。
アミメキリンはわりかし暑さに強いフレンズの為、さばくちほーの旅も苦ではなかったが、ヒトのフレンズであるつなぎには厳しすぎた。
幸いだったのは、日差しを防ぐ長袖長ズボンを着ており、また頭を保護するものもあったことであろう。アミメキリンのトレードマークでもあるマフラーは、今彼女の頭にターバンの様に巻かれていた。
「つなぎ、そろそろいくわよ。水が飲めるところを探しましょう」
「はあぁ…… もう僕限界です、おぶってってください……」
「さ、さばくの暑さでダメダメになってるわ……」
つなぎは同じ場所をゴロゴロ転がり体を冷やしていた。こはんちほーの地面は土の為、そうするとわりと汚れる。あとマフラーまで土だらけになるので本気で止めてほしいとアミメキリンは思った。
ただ、さばくちほーが相当にキツかったのも事実である。尊敬するオオカミ先生も、フレンズによっては合わない環境は最悪寿命を縮める、と言っていた事を思い出す。
─────────
「いいかい、アミメキリン。フレンズによって得意なこと、苦手な事は違うんだ。雪山に住むフレンズが砂漠に行ったら、最悪寿命を縮めることにもなりかねない」
「なるほど!」
「────実は私にも苦手な事があるんだ」
「なんと!?」
「ジャパリまんを貰って来ることが苦手なんだ………… 昔、ジャパリまんを貰おうとしたときにセルリアンに襲われて…… それ以来、ジャパリまんを貰おうとするとその時の事を思い出して…… ああ、でもそろそろお腹も減ったからジャパリまんを取ってこないと──」
「せ、先生! 私代わりに取ってきます!」
「おお、頼めるかい!」
「はい! 行ってきます!」バン タタタ
「お腹空いたから2個くらい持ってきておくれー!」
────────
何だろう、あんまり愉快な記憶では無かった気がする、とアミメキリンは思い出すのを止めた。
「まったく、しょうがないんだから……」
アミメキリンはマフラーを回収し、再び首に巻き直すとつなぎを背負う。
「ありがとうございます……」
「気にしないでちょうだい、フレンズによって、得意な事は違うのよ」
フレンズの力ならば背負って歩くこと自体は容易い。アミメキリンは、ほかほかのつなぎの体温を背中に感じながら、水場を探して進み始めた。
やがて、10分ほど歩くと小さな川にたどり着いた。流れも綺麗で、飲む分にも申し分ない。すぐに水場が見付かり、アミメキリンもほっと一息つく。
そして、そこには普通ならあり得ない光景があった。じゃんぐる、さばく、こはん、こうざん、へいげん…… 付近のあちこちのちほーから来たフレンズがたくさん集っていたのである。
「そう言えば、コツメカワウソも言っていたわね、じゃんぐるちほーのフレンズがたくさんこっちに向かっていたって」
アミメキリンは腕を組み、少し考え込む。こはんちほーは正直なところ、他のちほーのフレンズがわざわざ遠出をしてまで来るほどの所ではない。
としょかんのあるしんりんや、PPPライブの行われているみずべちほーならともかく、ここにフレンズが集まる理由はイマイチ思い浮かばなかった。
「ごくごく…… ぷはぁ、生き返りました。 あれ、アミメキリンさんどうしたんですか?」
「いや、ちょっと気になることがあったのよ。私もお水飲もうかしら。……これは、じけんの匂いがするわね」
そう言いアミメキリンも水辺へと近づく。幸い、ここには事情を知っていそうなフレンズがたくさんいる。聞き込み開始には持ってこいの場所であった。
その後、様々なフレンズに情報を聞いた二人は、とある場所へと向かっていた。
「話によれば、そろそろ到着してもおかしく無いのだけれど……」
「“しんでん“……でしたっけ? こんな森の中にそんなものがあるなんて考えづらいんですが」
聞き込みした際、皆が口を揃えていったのが、“しんでん“に向かっているのだということであった。曰く、そこには“かみ“が居て、願い事を叶えてくれるのだと。
「普段はじけんって言ったら皆に違うってよく言われるけれど、今回は胸を張って言えるわ。そんなものがあるとしたら、もうそれはだいじけんよ」
「んぐ、そうですね。あ、ジャパリまん食べます?」
「適当に流さないでちょうだい…… あとそれで今日ジャパリまん何個目!?」
つなぎは道すがらラッキービーストに会うたびにジャパリまんを貰っていた。普通のフレンズなら一食一個、日に3個も食べれば充分だが、つなぎはまだお昼過ぎだというのに10個はゆうに完食していた。
「いやでもお腹が空いてしまって…………え?」
つなぎの手から食べていたジャパリまんが地面に落ちる。
「もう、気を付けなさい。食べすぎも良くないけれど、食べ物を粗末にすることもいけないわ!」
後ろを歩いているつなぎの方を向きながら話していたアミメキリンだったが、落ちたジャパリまんを拾って手渡す。
しかし、彼女はそれを受け取らず固まったままであった。そこまできて、つなぎの目が自分ではなく背後の何かに向いている事に気が付き、後ろを振り返る。
「………………何あれ」
そこにはロッジやとしょかんとは比べ物にならないほど大きな建物が建っていた。
全体は真っ白な石で出来ており、壁には綺麗な模様が刻まれている。高さは少なくとも3階建てはあり、2階にはテラスまで備え付けられている。
“しんでん“と呼ぶにふさわしいジャパリパークのどの建築物をも凌ぐ荘厳な建物が、そこには存在していた。
「────あったわね、しんでん」
「ありましたね、しんでん」
二人はあまりの衝撃に、暫くその場で立ち尽くしていた。
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