第6話 目覚めた力
「つなぎーー!!!」
ジャガーの叫び声が響く。もうもうと立ち込める砂煙からは、つなぎが無事かどうかは分からない。
「コツメカワウソ、アミメキリン、そしてつなぎまで…… よくも!!」
ジャガーの瞳にサンドスターの光が灯り、内に秘められた野生が解放される。
「はあぁっ! せやぁっ!」
土に潜ろうとするセルリアンを止める為、全力で鋭い爪を降り下ろす。セルリアンの弱点である“石“を叩くのが一番だが、回り込める隙はない。
ただひたすらに、両手の爪を振り回しセルリアンを打つ。取り込まれた彼女達を助ける為にその身の全力を振り絞る。
「───────」
しかし、セルリアンはそんなジャガーの全力をものともせず、嘲笑うかの様な目を向けながら次第に地面に潜って行く。
「待てえぇぇ!! 今、お前を逃がしたら、皆が……! そんなの───」
「────ソンナノ、許セナイ!!」
土煙の中から何かが飛び出し、思い切り殴り付けた。ジャガーの攻撃でびくともしていなかったセルリアンが、そのたった一撃で穴から吹き飛ばされた。
ジャガーもその余波に少し巻き込まれたが、すぐさま立て直す。
「うっ!? あの大きさを吹き飛ばすなんて……!」
ジャガーは煙の中から現れた存在に目を向ける。
その青い上下姿は紛れもなく先程まで一緒にいたつなぎであった。しかし、その服の裾の部分がなくなっており、腕自体は黒色に変色している。
そしてなにより────
「その目……野生解放!?」
彼女、つなぎの瞳もまた、サンドスターの輝きを湛えていた。
野生解放とセルリアンを吹き飛ばす程の力、どちらもジャガーが知りうる限りヒトのフレンズにはあり得ないことだった。
「ガアアアッッッ!!」
つなぎは凄まじい声で吠え、まだ動けないセルリアンの触手に掴みかかり、そのまま両腕に力を込める。
「─────────ッ!」
先程までは余裕の顔をしていたセルリアンも、苦しげな唸り声をあげる。つなぎがさらに力を込めることで耐えきれなくなり、捕らえていたアミメキリンを触手から放す。
「ぶべっ!」
受け身が取れず変な声をあげて着地するアミメキリン。
その横を抜け、つなぎはさらにセルリアンに肉薄する。
「ソノ子モ……カエセ!!」
セルリアンの身体に両手を突っ込み、コツメカワウソをしっかりと捕まえ、引き抜く。
そのまますぐに距離を離し、コツメカワウソを地面にそっと置いた。
「────────!!」
セルリアンは怒り狂い、2本の触手を大きく振り上げる。一度、二度と触手が振るわれるがそれを見てつなぎは立ち上がり、右へ左へと素早く回避する。
その連続の攻撃が止んだところで両手を構え、再び立ち向かう姿勢を取る。
しかし────
「うっ…………」
唐突につなぎの目から光が消える。力を失い、その場にバタリ、と倒れてしまった。
自分を脅かした敵がいきなり目の前で倒れ、セルリアンは目を細める。立ち上がって襲ってこないかと警戒していたが、その様子はない。
今度こそ彼女を倒す為、触手を持ち上げ思い切り降り下ろす。
しかし、その触手がつなぎに届くことは無かった。
「せやあああっっ!!」
ジャガーは、パークの中でも有数の実力者で、フレンズになる前は様々な悪環境でも狩りをすることが出来る肉食獣である。この絶好のチャンスを逃すことは無かった。
つなぎに夢中になっていたセルリアンの背後に回り込んでいたのだ。
背中の弱点の石に渾身の一撃を降り下ろす。石にヒビが入り、そこからサンドスターの光が漏れ始めた。
そのままセルリアンを蹴って飛び、地面に着地する。
「へへっ……どーよっ!」
そう言った瞬間、ぱっかーん!と音を立ててセルリアンは破裂した。たくさんの青いブロックへと変わり、それぞれのブロックからサンドスターが立ち上る。
空に消えていくサンドスターは、まるで勝利を知らせる狼煙のようであった。
その後の顛末である。
幸いな事に、コツメカワウソはセルリアンに囚われたにもかかわらず記憶等は失っておらず、特に怪我などもしている様子は無かった。
またコツメカワウソは、じゃんぐるちほーの多くのフレンズがさばくちほーを抜け、こはんちほーに向かったのを見たということだった。
あのセルリアン自体は実は目撃者がおり、突如現れてすぐ消えるセルリアンの話と、いつもいるはずのフレンズがいないという話が合わさり、たくさんのフレンズがセルリアンにやられたという噂になってしまっていたらしい。
アミメキリンは、セルリアンを倒した直後に意識を取り戻した。ジャガーがギリギリ勝てた事を伝えると、穴に潜んでいることが推理できたのだから、ハンターを呼んで穴から誘きだして袋叩きにすれば良かったのに! と悔しげであった。しかし、
「でも、皆が無事で良かったわ!」
と、満面の笑みを見せていた。天使だった。
つなぎはしばらく眠っていたが、突如起き上がると側にいたラッキービーストのところまでダッシュで向かい、凄まじい勢いでジャパリまんを食べ始めた。
「戦いの事は全然覚えてないの?」
「ふぁい、ほぼへへひはいへす」
「しゃ、しゃべるのは食べ終わってからで良いから……」
ジャガーはつなぎのジャパリまんのむさぼりっぷりを見て引いていた。始めの一、二個なんかは包み紙毎食べていたため尚更である。
ゆうに20個近い数のジャパリまんを完食し、ほえー、とご満悦な顔を浮かべながら戦いの時の記憶について話始めた。
「吹き飛ばされた辺りから全然覚えてないんです、でも────」
つなぎが両手に力を込めると、再び両腕の裾がなくなり、腕の色が黒色に変わった。瞳にもサンドスターの光が灯る。
「ふうっ」
そして力を抜くと元に戻る。自在に野生解放は出来るようだ。
「でも、これやるとお腹空いちゃうんです」
言いながらまたジャパリまんに手を伸ばしていた。
「つなぎ、あなたは───黒ヤギだったのね!?」
「それだけはない」
「うっ!?」
秒速で否定するジャガー。
しかし、とジャガーは考える。あの黒い腕はヒトの力とは思えず、ましてあの凄まじいパワーは並大抵のフレンズでは出せない。
なら、あれは何なのか。短い裾、黒い腕、凄まじいパワー、もう少しで何か思い付きそうだったが、どうしても出てこなかった。
しかし、アミメキリンとつなぎはそんなことは気にしていなかった。
「取り合えず、じゃんぐるちほーのじけんは解決出来たし、明日からとしょかんへ向けて出発よ!」
「はい!」
「明日に備えて早めに寝るわよ!」
「分かりました! zzz」
「はやっ! ……私も寝るわ」
横になってすぐ寝息を立て始めたつなぎの横に座り、アミメキリンは目を閉じる。彼女は動物時代の名残で、座ったまま寝るのだ。
ちなみにジャガーとコツメカワウソはそれぞれのねぐらに帰っていった為、この少し前に別れの挨拶は済ませていた。
そして数時間後、アミメキリンは目を覚ます。彼女は他のフレンズと違って眠る時間は短い。いつもは起き出して散歩でもするのだが、今は動くことが出来なかった。
(な、なんでつなぎは私の膝を枕にして眠っているの!?)
幸せそうな寝顔を浮かべるつなぎを、起こすことは出来ない。結局その日、アミメキリンは朝まで膝枕を続けたのだった。
じゃんぐるちほー つながる邂逅 完
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