第5話 目と、目
つなぎが穴を覗き混んでいる一方、ジャガーとアミメキリンはフレンズの姿が見えないことについて少し離れたところで議論をしていた。
「いい? フレンズの姿が少なく、セルリアンの噂が流れてるならこれは事件が起きているのよ!」
何をバカな、とは言えない状況であることはジャガーも理解していた。
「残念だけど、確かにセルリアンに襲われたと考えるのが妥当かもね…… でも、じゃんぐるでは大きいセルリアンは音で分かるはずだよ。沢山の犠牲が出る前にハンターが駆け付けると思うし、誰もセルリアンの姿を見てないなんて、おかしいと思うんだよね」
ジャガーの疑問はもっともだが、アミメキリンはその疑問に対する答えを見付けていた。
つなぎと一緒に謎を解く旅に出ると言った手前、パークの事が分からない彼女を守らなくてはならない。そんな気持ちが、彼女に今までに無い推理の冴えをもたらしていた。
「────分かったわ。誰も見たことが無いのは、見たフレンズがみんな襲われて、そのあとセルリアンが誰にも見つからずすぐ消えちゃうからよ……」
「でもたくさんのフレンズを襲える様なセルリアンならそれなりの大きさだよ。まさか透明になれるなんてことは」
「その謎も、全部お見通しよ。姿を消すのなら、水に潜るか、空をすごく高く飛ぶか……もしくは」
少し溜めてから答えを言おうとしたが、つなぎの呼び掛けに遮られる。
「アミメキリンさーん、ジャガーさーん。この穴、なんか音が聞こえるんですがー?」
「音……? はっ!? つなぎ、危ない!!」
その音が意味するところを察し、急いでつなぎの元へと向かう。
走るだけでは間に合わないことに気が付き、首に巻いたマフラーを外し、思い切りつなぎの体に巻き付け、強く引っ張る。つなぎは後ろに放り投げられ、その体はジャガーにキャッチされた。
「わっとと! な、何危ないことしてるの!? 一体何が……」
さっきまでつなぎが覗き混んでいた穴から、水色の大きな目玉が飛び出しこちらを見ていた。その脇からは、先端がパックリ割れた触手が2本飛び出している。
「セルリアン…… 地面に潜っていたって訳ね」
それならば見付から無かったことも納得出来る。
「アミメキリンさん!」
ジャガーに抱えられながらつなぎは叫ぶ。その伸ばした手の先には、彼女を庇ったせいで触手に囚われたアミメキリンの姿があった。
「来ちゃダメ! 逃げなさい!」
アミメキリンは彼女たちに逃走を促す。ジャガーは強いフレンズだが、このセルリアンの大きさは一人で対処出来る範囲を越えていた。
(オオカミ先生、ごめんなさい…… 私、最初っから大失敗しちゃいました……)
セルリアンはアミメキリンをさらに触手でぐるぐる巻きにし、その体内に取り入れる為穴からゆっくりとその姿を現す。
そしてそこには、取り込んだばかりと思われる別のフレンズの姿もあった。
「……コツメカワウソ!」
ジャガーは目を見開き叫ぶ。可能性は考えていた、でも間違っていて欲しかった。
目の前の光景へのショックから、少しの間思考が止まってしまう。それがまずかった。
セルリアンは邪魔な二人を吹き飛ばす為に触手を鞭の様に振るう。ジャガーはそれに対応出来ず、つなぎごと吹き飛ばされてしまう。
「うああああ!!」
「わああああ!!」
ジャガーは地面を転がされ、つなぎは気に叩きつけられてしまう。
ジャガーは急いで立ち上がり、つなぎに無事かを呼び掛ける。
「ぐっ! ……うう、大丈夫!? つなぎ!」
しかし、答えが返ってくることはなかった。
「へ、返事してよ、つなぎ…… つなぎーーーー!!」
「あれ、ジャガーさん……? アミメキリンさんは……?」
気がついた時、つなぎは真っ白な空間の中にいた。天井も無く、どこまでも濁りの無い白が広がっている。
後ろを振り向くと、そこには何かが浮かんでいた。
「うわっ!?」
驚き、少し距離をとってしまう。なにせ、そこにいたのは先程まで見ていたセルリアンにそっくりの質感の、青い丸い玉に目がついたものだったからだ。
すぐに襲ってくることは無さそうだが、全く動かないことに逆に不気味さを感じてしまう。
警戒して様子を探っていると、不意に頭の中に声が響いてくるのを感じた。
「キミハ、フタリヲ、タスケタイ?」
「え?」
余りにも唐突な問いに思わず聞き返してしまう。しかし、それに構わず言葉は続く。
「イマニゲレバ、キミハタスカル。デモ、フタリハ、キットタスカラナイ」
そこまで言って青目玉は一度目を閉じる。ゆっくりと瞼を開け、再び問いかける。
「キミガ、タチムカッテモ、ナニモカワラナイカモシレナイ。……デモ、タタカウ?」
こちらを見つめるその目からは敵意は感じない。純粋に、こちらの答えを求めているのだと分かる。
確かに、余りにも巨大な敵に立ち向かう意思はくじけかけていた。
しかし、何も分からない自分に親切にしてくれたジャガー。そして何より、自分の前に立って導くと言ってくれ、そして今も恐ろしいセルリアンから自分を庇ってくれたアミメキリン。
その輝きが失われてしまう事を、悔しく、そして許せない自分がいる。胸の奥から熱い思いが沸き上がって来るのを感じた。
つなぎは、青目玉を真っ直ぐ見つめ、そして静かに言った。
「僕は何にも出来ないけど───もし戦ってほんの少しでも二人が助かる可能性があるなら、僕、戦います」
「コワクハ、ナイノ?」
「怖いです…… でも、僕自信が、そしてきっと記憶を失う前のかつての僕も、彼女達を助けたいと心の底から思っています。なぜだか分かりません。でも、フレンズの輝きが奪われることは────許せない!」
「───ソウ、ワカッタ。」
つなぎの言葉に満足したのか、青目玉の目はニコニコ笑っていた。
「ヤッパリ、キミハ、ソウイウンダネ。デモ、ウレシイヨ。……キミガ、キミデイテクレテ」
青目玉はその瞳を閉じ、つなぎの元へとふわふわとした挙動で近づく。
「え? う、うわわわわ!」
そして、そのままつなぎの胸に吸い込まれていった。
直後、吸い込まれた箇所から凄まじい光が溢れ始める。
「ぐっ、うう!」
つなぎの意識はその光に塗りつぶされる。薄れ行く意識の中、青目玉の声がかすかに脳内に響く。
「イマ、ツナガレルノハカノジョダケ。イマハマダ、オボエテイナイカモシレナイケド……」
彼女とは誰のことか訪ねようとしたが、言葉は出てこなかった。
「────ボクハイツデモ、キミノミカタダヨ」
その言葉の直後、一段と輝きが強くなり、つなぎの意識もそこで途絶えた。
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