第4話 としょかんを目指して
────旅が始まった……筈なのだがアミメキリンたちは最初につなぎが発見された川原へ戻ってきていた。
「ない、ないわ! たしかにここに置いた筈なのに!」
川原をせわしなく探し回るアミメキリン。数歩歩いてはキョロキョロ、また数歩歩いてはキョロキョロ、一通り探して見つからず、ガックリとうなだれる。
「多分、風で飛ばされちゃったんだろねぇ。川に落ちちゃったと思うから、もう諦めて……」
「だーめーよー!! オオカミ先生から預かった、だいっっっじな原稿なんだからーー!!」
「うわわわわ!」
ジャガーの肩をむんずと掴み、前後に揺さぶる。あまりの激しさにジャガーは目を回してしまっていた。さっきまでつなぎに見せていた余裕はどこへ行ってしまったのだろうか。
「すみません、僕を助けたせいで……」
「ぐっ!? そ、そんな責めるつもりじゃないのよ。私が助けたくてやったことだから、気にしないでちょうだい!」
「ですけど……」
貴方のせいではないと言ってもまた落ち込んでしまいそうになり、慌ててさらにフォローを入れる。
「げ、原稿の事は仕方がないわ。オオカミ先生も、理由を話せばきっと許してくれるわ」
そう言いつつ冷や汗ダラダラである。
「なら、僕も一緒に謝ります!」
「いいえ、あなたが謝る必要はないわ。助手に謝らせるなんてそんな……」
「じょしゅ?」
「な、何でもないわ。気にしないでちょうだい」
本人には助手にしたいことを知られたくないのかと横で聞いているジャガーは思ったが、敢えて口に出すことは無かった。
アミメキリンは捜索を打ち切り、肩を落として二人の元へ戻る。
「どちらにしろ、つなぎのこともあるしとしょかんへ行きましょう。あちこち飛び回ってるあの二人なら、何か手がかりを掴んでいるかもしれないわ」
「としょかん……ですか?」
「そこにはこの島の長がいるんだよ。色々知ってるから、何かわかるかもね」
「原稿を無くしたことも伝えなくちゃいけないわ…………」
天を仰ぐアミメキリン。普段は鳥やそのフレンズが視界の端に写るが、不思議と今日は見渡す限り何も無い青空であった。
それから数時間後、3人はじゃんぐるちほーとさばくちほーの境目に立っていた。
「ここから先はさばくちほーだよ、としょかんまでのみちのりはまだ遠いから、気を付けてね」
「案内してくれて、ありがとうございます」
「ごめんねー、本当はついていってあげたいんだけど、あんまり長いこと離れる訳にもいかなくって」
「結局ここまで来る途中にも原稿はおちてなかったわ、はうぅ……」
「諦め悪いねぇ」
つなぎをとしょかんに連れていくと言ったアミメキリンに少し不安なジャガーだが、彼女の行動力は高く評価していた。
彼女なら、困難があっても乗り越えられるだろう(解決できるとは言ってない)。
「ところで、あれは何でしょうか?」
つなぎが指を指す先には、丁度フレンズ一人分くらい通れそうな穴が開いていた。穴の回りには土が盛り上がっていて、自然に出来たものでは無さそうだ。
「ん? だれかが掘った穴だね」
「これは落とし穴ね! 誰かが名探偵の旅の妨害をしようとしているのよ!」
「…………多分、穴堀りが好きなフレンズが掘ったんじゃない?」
ジャガーにはじゃんぐるちほーの穴堀りが好きなフレンズに心当りは無かった。が、別の地方からやって来た誰かが気まぐれに掘ることだってあるだろう。
「穴堀りが好きなフレンズが犯人ね!」
「遊びで掘っただけだと思うから犯人とか関係ないと思うんだけど……」
ジャガーは何でもない穴だ、と言ってはいるが、つなぎはなんとなく気になって穴の近くまで歩く。あと2,3歩の距離まで来た時、ふと固い何かを踏んだことに気がついた。拾い上げてみると、つるつるとした手のひらサイズの石だと気づく。
「きれいな石ですね、まん丸です」
「コツメカワウソって子がいてね。石で遊ぶのが好きな子なんだけど、よくこういうまん丸な石を使ってるんだ。そう言えば……今日は姿を見てないねぇ」
「姿を見てないと言えば、今日は他のフレンズに全然会わないわ、そのせいで道を聞けずに迷ってしまったのよ」
目を瞑りうんうんと頷くアミメキリン。
だが迷ったのはそれが理由ではなく、不意を疲れたセルリアンに驚いてがむしゃらに逃げたせいである。
「もしかして……最近噂のセルリアンと関係がある?」
ジャガーには噂話と、フレンズがいないことが無関係には思えなかった。どうしても、最悪の可能性を考えてしまう。
そんな二人の会話を余所に、つなぎは穴に興味津々という様子でそれを見つめている。
「しかし、どこまで続いてるんでしょうか、この穴」
覗き込んでみるが、底は見えずどこまでも暗闇が続いている様に思える。
ふと、耳をすませて見ると、小さく地鳴りの様な音が聞こえることに気がついた。
「何の音……?」
音はだんだん近づいて来るように思える。先程までは興味を持っていたが、得体の知れない穴に、少しづつ恐怖を抱き始めていた。
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