第四話 「すごろく。」

 「あれ?」


 俺の手を引いていた筈の瑞月が忽然と姿を消した。


 「瑞月ー?どこ行ったー?」


 この部屋にあるのは2つのベッド。窓も有り光が差し込む。更に床からも光が昇る。


 - 二階建てか。


 立派なログハウスである。これも想像で生み出したのだろうか。


 - 瑞月は何処だ?


 この世界に入ったと同時に別々の場所にテレポートしたのだろうか?


 「ドンッ!」

 

 下が騒がしい。


 「ダッダッダッ!」


 音と共にログハウスも揺れ始め「ミシミシ」と音を奏でる。


 - 誰か来る。


 俺はベッドの間に身を隠した。


 「愁!?……居ない。」


 馴染みの有る声だが様子がおかしい。


 - 何故下に居た?


 姿を現すのを躊躇った。怖すぎる。どういう事やら……。


 「ハイル!愁が居ない!」


 そう言いながら瑞月は一目散に降りてった。


 - ハイル?人の名前か?


 瑞月がガンマン、俺は探偵か?……だとしたらあまりにも難易度の高い謎解きだ。


 瑞月に知り合いが居たとすると、ここに一度や二度来た事があるのだろうか?だとしたらやけにズケズケと入って行くのには納得出来る。しかし、何故ワープした?瑞月の能力だろうか?……でもさっきの瑞月は焦っていた。


 - 訳が分からねぇ!


 この世界にも魔法があるのだろうか?だとするとあれは幻影か?ハイルって奴が操ってる?……本物は今何処に?


 - こっそり追いかけるかそれとも話しかけてみるか……。


 取り敢えず下に降りてみることにした。


 抜き足差し足忍び足……。

 

 まだ下にいるとまずいので慎重に足を進める。


 「何処に行ったの!」


 随分と声を荒らげている。俺は階段の途中で盗み聞く事に。


 「死んだら生き返るんじゃなかったの!」


 「どうしたの?具合悪い?」


 「シュイーン!」

 

 - 手が光った!?


 「ふざけてるの?」


 瑞月がガチでキレている。あそこまで憤怒しているのは稀少だ。


 偽物だと仮定しても胸が苦しい。


 「瑞月?」


 恐る恐る声をかける。


 「……愁?」

 

 目と目が合うと落ち着いた声で呼ぶ。


 - 怒ってる瑞月は見たくない……。


 「何があったのか知らないがどうしてそんなに怒ってるんだ?」


 「おかえりなさい。」


 パステルグリーンの髪色をした青年がそう言う。


 「おかえりなさい……?」


 「本物?」


 それは俺が逆に聞きたい事である。


 「瑞月こそ本物か?……どこかに瞬間移動したのか?そいつは誰だよ。」


 「記憶ない?」


 「記憶?何の事だ?」


 なんだなんだ、これは。すれ違いが酷すぎて意味が分からない。幻術でもかけられてるのか?


 「やっぱりそうなんだ。」


 瑞月は何かを確信したようだ。


 「おいおい、訳がわからないぜ。俺だけ置いてけぼりか?何か企みでもあるのか?」


 「不思議。」


 突然すぎるお前の発言が一番不思議である。


 「お前がハイルって奴か?」


 「そう。よろしく。」


 「何が目的だ?」


 「愁、待って。落ち着いて。」


 さっきまで一番暴れていた人に冷静を促される。


 「これは何もおかしくない。現実。愁と一緒に、同時に、ここに来た。」


 「いやいや、さっき入った瞬間に居なくなったぞ?俺の手首を掴んでいた瑞月がどこかに消えたんだ。」


 「それは消えたんじゃない。愁の時間が巻き戻っただけ。」


 「それはどういう事だよ。」


 - 俺の時間が巻き戻った?


 「タイムスリップしたってのか?」


 「『記憶を失ってタイムスリップした』が正しい。」


 真面目に言ってるのか?それは俺の能力なのか?だとしたら狂気的なスキルだな。


 「俺は一体、何をしたんだよ?」


 「死んだ。愁は死んだ。ハイルに殺られた。」


 「こいつに?」


 ちょっと前に奇想天外な挨拶をしていた輩が俺を殺したと瑞月は言う。何もかも信じ難い事柄だ。


 「じゃあ、生き返ったってのか?俺は。」


 「そう。来た時に時間が戻ったの。瑞月も一回体験した。」


 「一回ずつ死んだってのか。」


 「そう。」


 恐ろしい。真実なのか?


 「瑞月が死んだ後も同じか?」


 「うん、瑞月だけ時間が戻った。今の真逆。」


 「その時の俺は今の瑞月みたいだったという訳か……。」


 有り得ない事だが何となく理解出来た。


 「わかった。取り敢えずは信じるよ。」


 そうしないとやっていけない。来てすぐだと言うのにこんなやり取りをしているようじゃこの先が不安だ。出来るだけ冷静に対処しよう、そう思った。


 その後は俺が生き返る前の話を聞いた。ハイルはなぜここに居るのか、俺は何故死んだのか。


 「じゃあ、この後どうするよ?」


 「どこへ行きたい?」


 「あーそうだなぁ。とりあえず、マーケットか……。」


 「わかった。」


 最初はハイルにマーケットを案内してもらう事に。


 「その前に待って。町に出たら安全なのか?」


 「それはどういう意味?」


 「さっきみたいに死んで此処に戻ってる事は無いのかって。」

 

 気懸りな事がある。それはこの先、一人で死んでしまう事だ。瑞月か俺が死んだ瞬間離れ離れになってしまう。遠ければ合流する事はすぐには不可能。


 「……痛い事があれば戻る。」


 「この先、痛い事の可能性はあるのか?」


 「滅多に無い。」


 そうは言うものの万が一があると大変な事になってしまう。何か防ぐ方法は無いのだろうか?……まずリスポーン地の基準はなんだろう?初めて此処に来た所なのだろうか?リスポーン地をずらしたり記憶を受け継いだりする方法も探さなければならない。


 「そうか……。」


 「愁、不安?」


 「当たり前だろ、どっか行ってそこで死んだら大変だぞ。」


 「うん、わかってる。」


 「何か良い方法があれば良いんだが……。」


 治癒魔法が存在するのならば蘇生魔法は無いのだろうか?瑞月が「死ぬ時は体が白く光り徐々に空へ昇って行く」と言っていた。


 これは俺の推論。ゲームでも良くあると思うのだがそういう瀕死状態に蘇生魔法や蘇生ができるアイテム等を使う事によって死ぬのを防ぐ事が出来るのでは無いかと。


 「ハイルは治癒魔法以外に蘇生魔法は使えないのか?」


 「蘇生魔法?」


 「人が光るんだよな?その時にかける魔法はないのか?」


 「ヒールは効かない。」


 「ほう……その時にかける魔法が存在するとかそういうのは知らないのか?」


 「知らない。でも、魔法に詳しい人いる。教えて貰える。」


 面白くなって来た。ゲームの世界にいるみたいで。最初は不安事が絶えなかったが。


 はじめてのクエスト:魔法先生を探せ!


 ……を受諾しました!


 ここで効果音が流れれば完璧だ。


 「じゃあ、その人の所へ行こう。」

 

 「マーケットはいい?」


 「瑞月、大丈夫だよな?」


 「任せる。」


 「よし、じゃあ決まりだ。そこへ行こう。」


 「わかった。」


 他に大事な事は……


 ……地図?地図が有ればわざわざ案内してもらう必要もないし部屋に置いとくと万が一に備えれる。


 「地図って持っていないのか?」


 「無い。欲しいなら町のヘルプコミュニティ。」


 「コミュニティ?」


 「うん、皆優しい。」


 「ほう……やっぱり最初にそこに行こう。」


 「わかった。」


 「瑞月、地図を家に置いておきたい。いいよな?」


 「うん、もちろん。」


 さて、一旦レーヴモンドについて少し整理しようと思う。


 まず、この世界で死ぬとそれまでの記憶を失ってこの世界に来た時に遡る。ただし自分の体だけ。


 そして、魔法が存在する。確認出来ているのはハイルの使う治癒魔法と光の魔法。その魔法を使う方法を伝えている者が存在するという事。


 そして、ヘルプコミュニティの存在。名前を聞く限り助け合う集まりな感じがする。今の自分たちに持ってこいのコミュニティだ。取り敢えずはそこで地図を貰う。


 それからハイル。会話して居ると時々通じていない様な雰囲気を醸し出している。そこら辺は謎。


 何より忘れては行けない事がある。それは俺と瑞月の使命。この世界の秩序を乱す悪しき者を仕留める事だ。


 二の次として死んだ際に記憶を失わないで済む方法やリスポーン地を変更できる方法の調査。


 ……現段階ではこんな所だろうか。大変そうだが俺はワクワクしている。

 

 「それじゃあ、ハイル、俺と瑞月をそのヘルプコミュニティとやらに案内してくれ。」


 「うん。」


 そう言うと早々と外へ出てしまった。


 「瑞月は今どんな気分だ?」


 「……不安だけど頑張ろうって感じ。」


 「そうか、俺はとても楽しみだ。ゲームの主人公になった気分さ。一緒に頑張ってこう。」


 「うん、帰りたいって言わなくて良かった。」


 「最初は思ってたけどな。来たからには切り替えてくよ。」


 ーー 俺と瑞月の新しい物語の幕がオープンした。

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