第二話 「一期一会。」
「ポッフン!!」
落下する事約10秒後。足元から光が差し込み、そのまま「もちもち」した物に身を預けた。吸収力が高い為、バウンドせずに済む。
一面真っ白い部屋。壁には何枚か扉があるようだ。天井の穴は既に塞がっている。瑞月は見当たらないので恐らく、はぐれたという事なのだろう。
「ガチャ」と目の前の扉が開く。
扉の間から顔がひょこっと出ている。ここに来ての第一部屋人発見。メルヘンチックな髪型に髪色と個性が溢れ出ている。
「あら、いらっしゃーい!」
声は思っていたよりも大人っぽい。ゆっくりとこちらに向かってくる。
「ささ、ファッションルームへ行きましょう。」
「ファッションルーム?」
「そう、着替えるのよ!ずっとそんなスウェット姿でいいのかしら?」
高校生からずっと使っている為結構ボロくなっている。
「服なら家に。」
「何言ってるの?もう戻れないわよ?」
「あ!何も持って来ていない。」
勢いで来てしまったので肝心な事を忘れていた。
ー この世界での家は?お金は?通貨は?仕事とかどうしよう……。
不安が募る。
「何を心配してるの?紹介状貰って来たんでしょ?なら、大丈夫よ!あ、名乗るの忘れてたね?『メイ』って言うの。まぁ、もうすぐお別れだけど。」
「お別れって?」
「ここは貴方の世界と『レーヴモンド』を繋ぐ中間地点なのよ。細かい事は気にしなくていいわ、私についておいで!案内するね。」
メイさんは振り返り目前の部屋へと歩みを進めた。一人ではどうにもならないので取り敢えず付いて行く事に。
部屋に入ると「ガチャン」と扉にロックが掛かる。真ん中にポツンと小部屋が一つ。洋服屋さんで見る試着室のようだ。
「さ、中に入って!」
「え、あ、はい。」
ぐずぐずしてても仕方ないので従う。
小部屋の扉を開けると全身ミラーが一枚。閉めた途端、体を光のベールが覆う。
「うわっ!」
瞬間的に片腕で目を塞いだ。どけるとさっきとは雰囲気の違う自分が立っていた。
「終わった?」
「多分。」
「開けるわよ。んー、まぁ、さっきよりは良いって所ね。」
「メイさんが用意したんじゃ。確かにRPGゲームの初期装備みたいでちょっとダサいけど。」
「まぁ、そうなんだけどね。選べるものが無くて。我慢してちょうだい!」
笑顔で誤魔化される。
「でも見かけによらず動きやすい。」
伸縮性もあり、とても軽く感じる。
「私がするのはここまでよ。」
「え?この後どうすれば?」
「えーと、奥の扉なんだけど転入者案内所っていう所に行けるわ。貴方みたいに転移して来た人を受付する所ね。滅多にそんな人来ないんだけど。」
「分かった、そこに行けばいいんだな。」
「まぁ、そういう事ね。」
迷わずそこに行く事にした。扉を開け、中に入ると否や
「忘れずに紹介状出すのよー!」
後方で大きく手を振るメイさんを見ていると「なんとかなりそうだ」と安心し始める。
「メイさん、なんだか元気を貰えるよ。」
「バイバーイ!」
「ありがとう。」
ー この先の出会いにも幸があるといいな。
「バンッ!!」
「うわぁっ!!」
びっくりした反動で扉を閉めてしまいログハウスの壁になってしまった。
「愁、遅ーい。」
再会という幸のある出会いと言うべきか心臓に悪い不幸な出会いと言うべきか。
「なんだ瑞月か……ってなんだその海賊みたいな格好は。」
「可愛い?」
「いや、すげー似合ってるけど。一体どこで。」
「瑞月もよく分からない。気付いたらこうなってた。それと海賊じゃない、これでも
「や、やめろ!」
弟に銃を向けられている兄とは国内では珍しい事件に発展しかねないシーンである。
「大丈夫、弾は入ってない。バーン、バーン。」
「分かってても怖いだろ。それと右目の下にあるハートはタトゥーか?」
「かな?触っても取れない。」
「そんなワンポイントまで。俺は武器もないんだぞ。」
「弱そう。ただでさえ何も出来ないのに。」
グサッと突き刺さる一言である。筋トレや運動とは全くの無縁なので仕方ないが。
「安心して。何かあったら瑞月が守るよ?」
気分もすっかり「ガンマン」のようでポーズをキメている。こんなに楽しんでる瑞月を見るのは久しぶりだ。
「頼もしいな。でもこの世界、そこまで物騒でもないと思うけどなぁ。」
「どうして?」
「いや、なんとなくだよ。根拠はない。」
「ふーん。」
「それより、早く受付しよう。いつまでもここにいても仕方ないし。」
「はーい。」
「にしても、ここ転入者案内所で合ってるんだよな?」
「瑞月もそう聞いたよ?」
「このログハウスの中で受付はどこか?」と問われればそれらしき所はあるのだが人は見当たらない。それに加え出口らしき所も見当たらない。
「ようこそいらっしゃいました。」
低い渋い声が聞こえたのだが姿が見えない。
「どこだ!?」
「こちらへどうぞ。」
先程説明した受付らしき所に緑の動物が人間の様に腰掛けこちらを見つめていた。
「さっきはそこに誰もいなかったぞ?」
「申し訳ございません、壁と同化していました。」
まさしくカメレオンである。本来のカメレオンは変色できる色に限りがあると言うがここでは関係ないようだ。勝手に「レオン」と名付けさせてもらおう。
「ここは『レーヴモンド』へ行く者を導く空間となっております。紹介状を所持しているのであれば頂戴致します。」
俺と瑞月は揃って手渡した。するとレオンは目を通しているのか暫くして
「ありがとうございます。『レーヴモンド』は貴方方のような人間の見る夢を資源として成り立っている世界であります。その為に環境やシステムが千変万化しています。基本的には悪しき物が作成される事はない筈なのですが此の頃、住民や環境に悪影響を及ぼす何かが生まれてしまっています。」
「それは聞いてるよ。だから俺達にどうにかしろって事なんだろ?」
「左様でございます。貴重な資源を提供して下さっている上の事なので色々と用意させて頂いております。それと前にお住みになられていた『アース』と同様球体の世界であります。」
「地球の事か。住民ってどういう奴が居るんだ?」
まさかバクゥやレオンみたいな変な怪物ばっかなのだろうか。
「住民に関しては……。」
一度紹介状に目を通す。
「其方の言葉で言う「亜人」と言ったところでしょうか。私はお邪魔した事はないのでこれ以上の事はお伝えする事は出来かねます。」
という事は全く別の生き物が居るのだろうか?
「そうか、すまない。」
「他にご不明点は御座いますでしょうか?」
「お金とかってどうなってるんだ?仕事しないといけないんだよな?」
「えー、先程も説明した通り夢が資源となっております。その為に物を売買するという概念がありません。必要な食料や用品はマーケットで無償で求める事が出来ます。」
「なるほど。夢の数だけ物が有るみたいな感じか。想像すればそこに出来ちゃう訳だから『作る』だったり『取引する』という感じじゃないんだな。」
「他には何か御座いますでしょうか?」
「もう行こう。」
俺達の会話に飽き飽きしたのか瑞月が急かしてきた。
「ん、あぁ、じゃあもういいよ。『レーヴモンド』へ案内してくれ。」
「右手の壁にご注目ください。」
見ているとあら不思議。そこには一枚の扉が浮かび上がってくるではありませんか。
「この先をお進みください。『レーヴモンド』に繋がっております。簡易的ではありますが住処となります。それでは行ってらっしゃいませ。」
「行こう。」
俺の手首を掴み引っ張る。そのままつられて中に入る。
ここでもログハウス。またいつものように扉も消える。
「何もない。」
瑞月がポツリと呟く。
見渡すとベッドが2つだけ置いてある。壁の高くに窓があり光が差している。昼間という事で良いのだろうか。
「とりあえず下に行ってみよう。」
「うん。」
階段があるので恐らく二階建て住宅なのだろう。
一階に降りるとログテーブルとイスだけが真ん中に置いてありそれ以外は何もなかった。
窓から外を覗いて見ると今まで出会った怪物とは異なりちゃんと人間の姿をした動物が歩いていたり飛んでいたり。
- え!?飛んでる!?
「おいおい、人が飛んでるじゃないか。」
「凄い。」
道行く人、空飛ぶ人、皆穏やかな感じが漂っている。
「まさに夢の世界だな。」
突然「ドンドン!」と玄関らしきドアを叩く音が響く。
「なんだ?」
「中にいるのはわかってる。」
外から若い男性の声が聞こえる。
「入るよ。」
「瑞月、隠れるぞ。」
急いでテーブルの下にしゃがみ身を隠す。
「ドゴォンッ!!」とドアというバリアがブレイクされた。
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