19 危険なパロディ


「「「「かんぱーい!」」」


 初心者訓練終了のおつかれ会も、いつものメンバーだ。


「で、お前はこれからどうするつもりだ」


 褐色で眼帯のお姉さんが聞いてきた。


「しばらく東の草原で薬草採集でもしようかと思います。スライムを狩りつつ」


「東門の外ですか、ゴブリンが出た西の森からは一番離れているので安全ですね。無難な選択です」


 カノンさんが頷く。


「地味だなー、それでいいのか少年ー、夢はでっかく一攫千金とかじゃないのか」


 褐色さんは不満そうだ。


「それがですね、ギルドの受付さんが言うには『これから始まるゴブリン討伐の影響で、しばらくの間は薬草の相場が上がっていくでしょう』って」


 地味にコツコツゆっくり生きたい俺の意図を汲んだ上で稼げるという、見事なアドバイスをもらっていた。


 ありがとう、受付さん。


「あーなるほど、それなら堅実かつ実入りも良さそうな話だ」


 褐色さんも納得の提案だったようだ。


「みなさんは、この先どうするつもりで?」


「俺はゴブリン退治だな。平時より一匹あたりの報酬が多い」


 褐色さんが応える。


「領主が組織するという討伐隊ですか」


「それな」


「私はしばらく魔法の修行をする予定です。新しく覚えた魔力制御法を使って、色々と試したい」


 カノンさんは最近ずっと楽しそう。褐色さんとの交流で多くのものを得たようだ。


「わたしは……おそらくゴブリン狩り部隊の補給基地に詰める事になる……でしょうね」


 アリアさんは何かと忙しい。


「回復役は常に足りてないからな、便りにしてるぜ」


 褐色さんとアリアさんが改めて乾杯する。


「カノンさまも……いずれ魔術師ギルド経由で……ゴブリン狩りへの協力要請が来ると思いますよ」


「えぇ~」


 カノンさんが露骨に嫌そうな顔をしている。そんなに試したいことが山積みなんだろうか。


「ソウスケも実力的にはゴブリン狩りに参加してもいい気がするんだがな」


「えぇ~」


 俺も露骨に嫌そうな顔をした。


「何だ、そんなに嫌か、ゴブリン」


「……」


 ──どこまで、勘付かれているのやら。


 異形とはいえ、二足歩行で知性のある生き物を殺した感触は。


 重い。


 苦い。


 吐き気がする。


 黙った俺を、褐色さんがニヤニヤと眺めている。


 そんな様子を見かねたのか、アリアさんが声をかけてくる。


「鉄級以上を必要としている前線以外でも……人手は足りてませんよ……ここはどうでしょう……治癒の奇跡を覚えて補給班に加わるという手も」


 わたしが教えてあげますよ、とアリアさんは全身でそう言っている。


 アリアさんの様子を見て何を思ったか、カノンさんが自分も、と口を挟んできた。


「薬草を集める予定なら、いっそポーションの作成を学ぶという選択もあります。我が師に相談すれば、魔術師ギルドの薬学部門を紹介してもらえるはず」


 本気でやるなら私も一筆推薦状を書きますよ、とカノンさん。


「うへえ、治癒の奇跡にポーション作成か」


 褐色さんは、その手の技術は苦手らしい。


 だが、それでいい。


 誰にでも得手不得手があり、何事も適材適所だ。


「ミナトさまなら……すぐ出来るようになると思いますよ……治癒」


「そうそう、私の弟子ならポーション作成なんてあっと言う間だよ」


 アリアさんとカノンさんが、何故か張り合い始めた。


 ──ように見えるけど、考え過ぎかな。


「……うふふ」


「ふふふふ」


 不穏だ。


 なにこれ。


 なにがどうなってるの。


 そして褐色さんは『いいぞーやれやれー俺を楽しませろー』みたいに眺めてないで助けてくれませんか?



 ◆ ◆ ◆



<薬草>

<品質:良>


「おっ、ラッキー」


 薬草の採集も『解析眼』があれば楽勝だ。


 雑草の草むらにしか見えない所から、目当ての品種だけを狙って発見できる。


 俺は今、一人で東の草原に来ている。


 そう、独りで。


 誰から何を習うかという、どっちを選んでも後に問題を残しそうな選択を、全力で棚上げして逃げて来たのである。


 チキンと呼びたければ呼べ。


 臆病者と笑いたければ笑うがいい。


 昔の偉い人曰く『三十六計逃げるに如かず』逃げ切れればそれで良いのだ。


<薬草>

<品質:並>


「よし」


 薬草は人質別に布袋に収めた上で、マジックバッグにしまう。


 マジックバッグが中身によって重量が増えないから便利。すげー便利。


 石を背負って走り回っていた訓練を思うと、快適そのものだ。


 周囲を見渡しても、スライムが居る様子は無い。


 初心者訓練の帰還中に、誰かが狩り尽くしてしまったのだろうか。


 これからはどうやってコアを確保しよう。


<魔力草>

<品質:並>


「おっ?」


 珍しいものを発見した。


 名前からしてMPポーションの材料になりそう。


 ギルドから採取の依頼が出ていたかもしれない、後で確認しよう。


 ついでに、図鑑も確認しておこう。



【冒険者図鑑】

 →地図

 →生物

 →アイテム

  →加工品

  →素材

   →剥ぐ取り部位

   →植物

    →薬草

    →魔力草 NEW!!

 →魔法

 →スキル NEW!!

 →人物

 →■■■■



 うん、魔力草が追加されてる。


 ……スキルって何だ。



→スキル

 →翻訳

 →解析

 →魔力制御

  →属性魔力制御

  →身体強化 NEW!!



 神さまからもらったチートと、これは──褐色さんに教わった戦闘向けの魔力制御法か。


 詳細情報はどんなかな?




<身体強化(オーラコントロール)>

 魔力(気)を制御して肉体の各機能を強化する。

 熟練すると身に付けている武器や防具も強化できる。

  ハ◯ターハ◯ターの念能◯っぽい。




 …………。


 うん。


 ハン◯ーハン◯ーな。


 念◯力な。


 薄々、そうじゃないかなーと思ってた。


 誰だ冒険者図鑑を編集してるのは。


 地球マニアの神か。


「見なかったことにするか」


 思わず言葉も漏れる。


「いや、待てよ」


 魔力制御による肉体強化が◯能力に似通っているというのなら、訓練方法や応用先にあるものは、かの名作を参考にできるのではないだろうか。


 実際、体内を循環させて効率を高めるやり方や、魔力を局部に集中させより強力にする訓練方法は、似通った方法を見た記憶がある。


 とりあえず、魔力を指先から少しずつ伸ばしてみる。


 ここを、こうして。


 あれ、上手くいかない。


 むむむ、これは、なかなか、むずかしい、ぞ。


 ────。


 試行錯誤して、何とか数字の「0」らしきものを魔力で作ることに成功した。


 数字のゼロというよりは出来の悪いドーナツみたいなもの、と言ったほうがより正確な評価ではあるが。


 面白い。


 これは面白い。


 色々と遊べそうな気がする。


 身体強化を教えてくれた褐色さんに感謝しよう。


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