13 光属性の魔法は奇跡と呼ばれているらしい
目を開くと、神殿に戻っていた。
隣にはカノンさんが、教えてくれたお祈りのポーズのまま跪いている。
神様と話している間、こちら側では時間があまり進んでないみたいだ。
「ありがとう、カノンさん。もういいですよ」
「そうですか。では、最後に寄付でもしますか? 本館には人も居るでしょう」
そうして出口まで歩くと、外に出るかどうかというタイミングで声がかけられた。
「もし……当孤児院に何か御用ですか……」
全身をゆったりとした衣服で包んでいる。
服の意匠は、どことなく修道女のそれに似ている気が。
やっぱり神殿や神官ではなく、教会やシスターといった方がしっくりくる。
「どうも、巫女様」
カノンさんが、一歩前に。
「こちらの彼が、」
そう切り出すと俺の方に手を差し伸べ、
「この街の神殿で神に挨拶したいという事なので、お祈りを済ませてきた所です」
と言った。
巫女さんの視線に応えて俺は会釈する。
「どうも、ソウスケ・ミナトです。流れの者で今はこの街で駆け出しの冒険者やってます」
「はじめまして……アリアと申します」
仕草の一つ一つで長い衣服の裾がゆらめき、どうにも掴み所がないというか幻想的な印象を受ける。
「それでですね、神様に挨拶するついでにですね、ひとつ寄付なんぞしてみようかなと」
「あらあら」
アリアさんが破顔一笑、さっきまでの雰囲気はどこかへ消えた。
さっきまでは通常営業モードで、こっちが素なのだろうか。
「そういうことであれば大歓迎ですよ、では……立ち話も何ですし、どうぞこちらへ」
◆ ◆ ◆
そういうわけで、孤児院の応接室に通された。
お茶が出されたが、発酵が進み過ぎて紅茶というより別のお茶になりつつある。
味、というか色も薄い。
これはこれで趣深いけど、今度来る時はちゃんとした茶葉をお土産にしよう。
「というわけで」
小柄な老人が小さなトレイを持ってきた。
その上に、金貨一枚を乗せる。
「っ……こんなに、よろしいのですか?」
驚くアリアさんと、微動だにしない御老体。
年季の差が出た。
「いいですよ、今後ともよろしくという事で」
御老体が深々とお辞儀をして、寄付金と共に奥へと引っ込んだ。
見かけによらず素早い。
「しかし……私達の立場で言うのもどうかと思いますが……この額であれば合同神殿でそれなりに便宜を図ってもらえたと思います」
やたらと恐縮しているアリアさん。
そっと隣を見ると、カノンさんはどことなく呆れているように見える。
金額設定を間違ってしまったか。
「お気になさらず。今の所は神殿に何か助けを求める予定はありませんし、それに合同神殿の方は──その──気後れしてしまいまして」
向こうは寄付なら間に合ってそうだし。
「とはいえ……これだけ頂いてしまって何もせずというのも……」
どうしよう、光の女神様に面会できただけでも十分だったのだけど、何か押し付けられそうな予感。
助けてカノンさん、と、視線で助けを求める。
「では巫女様、彼に神官の適正があるか調べていただけませんか? もし適正があれば、初歩的な奇跡の手ほどきをする、という事で」
ナイスフォロー。
っていうか神官とか奇跡って何。
「なるほど……授業料という事ですね……であれば私達でも。ミナトさまさえよろしければ……」
「カノン先生の提案であれば、問題ないでしょう。それでお願いします」
奥に引っ込んでいた老巫女が、いつの間にかアリアさんの背後に控えていた。
気配が無かったけど忍者か何かかな?
「ああ……手回しが済んでいたようですね……ありがとうございます」
アリアさんが礼を言って、老巫女から厚手の本を受け取る。
「ミナトさま……この本は『教典』といいます」
差し出された本の表紙には何の文字もない。
ただ一つ、大きく、光の女神のシンボルが刻まれている。
「この表紙に手を当て……聖句を唱えると……その者が神の試練を受ける資格があるか判明します」
試練とかマジ勘弁なんですけどー!?
「つまり、どういう事なので?」
「ええと……つまり……」
「ミナトさん、端的に言うと光魔法の適正診断ですよ。光属性の診断だけは、冒険者ギルドではなく神殿の管轄なのです」
カノンさんからの助け舟でようやく理解した。
「ええ……魔法使いの方の説明の通りですよ……いささか情緒というか信仰に欠けた物言いではありますが」
アリアさんは苦笑している。
お互いに面子とか色々あるよね。
「どれどれ」
解析眼さん出番ですよ。
<光の女神の教典(光属性魔法適正判定)>
やはりマジックアイテムの類。
本の表紙に手を当てると、じんわり温かい。
「こうやって、何と唱えればいいですか」
「では……『遍く世界に女神の光を』……と」
「えーと『あまねくせかいにめがみのひかりを』っと。おおっ」
教典の表紙のシンボルが、チカチカと光を放って明滅した。
「これは……素晴らしい」
アリアさんは声を上ずらせ、
「だろうと思った」
カノンさんはため息を付いた。
「ミナトさま……これから少しお時間ありますか……?」
「勧誘なら遠慮します」
「いえいえ。先ほどカノンさまも仰っていた……初歩的な奇跡を教わる時間は……いかがでしょう」
「あっ、光属性魔法の」
「光の女神の奇跡ですね」
そこの呼び方は譲れないらしい。
「では、4属性でいう生活魔法にあたる、基礎中の基礎からお願いします」
「わかりました……では『
細い革ヒモでくくられたメダルを手渡された。光の女神のシンボルが浮き彫りになっている。
「シンボルを持って……一定の祈りの文句を唱え……灯りにしたい物を軽く触れるのです。とりあえず、お手元のカップで試してみましょう」
「ふむふむ。それで、祈りの文句とは」
「私の後に続いて……復唱してください……『光の女神の名において』『我ここに灯火をもたらさん』『照明』……」
そう言ってアリアさんは自分のカップを自前のシンボルで触れた。
「おお」
ふわり、と、滲み出るように、ティーカップが光り始めた。
「どうぞ」
そうだ、感動している場合でなかった。
手渡されたシンボルをしげしげと眺めて、精神統一。
えーと、確か。
「光の女神の名において、我、ここに灯火をもたらさん。『照明』」
手元のカップを、シンボルで優しくタッチする。
すると。
ぽつり──ちちち、と、発光した。
「「「おぉー」」」
三人の声が重なった。
一発で成功したのだ。
やったぜ。
「ミナトさんは……筋が良いのですね」
「いえいえ、光も弱いしチラついてるしで、とてもとても」
実際、アリアさんのそれに比べると拙い出来である。
例えるなら、蛍光灯とロウソクの光くらいにレベル差がある。
「最初の一回でこれなら……たいしたものですよ」
「そうですか、なら嬉しいですね」
「とりあえず……光を今の最大の強さで安定するようになるまで練習してみてください……次の奇跡をお教えします」
寄付は授業料込みという話だったが『照明』だけでなく他にも教えてもらえそうだ。
わくわくするね。
「わかりました。アリアさん、今後ともよろしくお願いします」
「ふふふ……こちらこそ……久しぶりに優秀な生徒が出来て……私も嬉しいです」
初心者訓練の合間を縫って、こっちの方も練習しておこう
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