12 結局、闇属性の魔法ってどう向き合えばいいのさ、という話
これまでのあらすじ!
異世界に転生してからこっち、多くの女神様に見守られていた!!
しかも24時間ずっと!!!
「で、何人──何柱の女神様が自分の事を見てたんですか」
『え~っと』
光の女神様が、指折り数え始めた。
『まず姉さま、闇の女神ですね。あとは他の4属性神、他に職業神が何柱か、一番幼い法ちゃんはかなり興味深そうでした』
異世界転生者を生暖かく見守るスレはここですか。
「これまでの事はさておき、さっきお願いした事は全神に伝えておいてくださいね。まだ見てない神様も含めて」
『あら、見るのは禁止しないんですね』
「それはまあ、こちらからお願いする立場ですし」
半端に締め上げたとしても、後々になって悪い影響が出そうだし。
「ところで、気になっていたんですが」
『何でしょう?』
「6属性神の中で、闇の女神様だけ、合同神殿から排除されているようなんですが」
『それは……どうしましょう』
朗らかな雰囲気が、ほんの僅かだか陰る。
『その件については、私の方から説明した方が良さそうだな』
ふわり、と、別の女神が舞い降りた。
漆黒の髪の美女。闇の女神だ。
「数日ぶりです、闇の女神様」
『うん。また会ったね、ソウスケ。加護を無理なく使えているようで何よりだ』
そう言って指を鳴らすと、ニ柱と一人の間に丸いテーブルが発生した。人数分の椅子も。
『立ち話も何だ、ゆっくりしてくれ』
「では、失礼して」
椅子に座ったと思ったら、いつの間にか目の前にお茶が用意されていた。
色と香りからして紅茶だろうか。
『さて、私だけ合同神殿に祀られていない件だったね』
「はい」
『それはね、闇の女神信仰というものが邪教だからだよ』
「アッハイ」
……薄々そうなんじゃないかなーと思ってましたよ。
気を落ち着かせるために、お茶を飲む。美味い。
渋み苦味は全く無く爽やかで、香り高い。
紅茶には詳しくないが、品が良いのか淹れる腕が良いのか、とにかく美味い。
これはもしかして、文字通りの神クオリティってやつなのでは。
『より正確に言えば、魔族の信仰している女神で一番大きな宗派だから、人類圏では忌避されているんだね』
この世界、魔族とかも居るんだな。
「その割に、女神様本人はそう悪い人──神に見えませんが」
印象だけなら。
『ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ』
「何か理由があるんですか?」
『そうだな。私は闇の女神。私が司るものは色々あるんだ。夜闇、安らぎ、眠り、静寂、隠蔽。私の加護は、包み込み守る加護だ』
「効く限り、悪いものではないですね」
『だが、それらは魔族の性質に良く馴染むんだ。日の光を苦手とする種族の性質に』
「なるほど、邪教だから魔族に信仰されているわけではなく、魔族が信仰している内に、いつの間にか邪教扱いされていた、と」
『そう、順序の問題だったわけだ。なりゆきで今はそうなっている、というだけ』
闇の女神は、満足そうぬ頷くと、ティーカップを口元に運んだ。
「闇の女神様は、それでいいのですか?」
その問いに、彼女の瞳が悪戯っぽく輝く。
何か面白いものを見つけたように。
『それで、とは』
「誤解のような形で邪教扱いされている現状を良しとするのでしょうか」
言ってから、踏み込んだ質問だったかな、と思った。
知らず、女神様の好意的な態度に甘えてしまっていたのかもしれない。
好奇心が身を滅ぼす、かな?
『ふむ』
不躾な問いにも、気分を害した様子はない。
むしろ、生徒を教え導く教師のような思慮深い響きが、その相槌にはあった。
ゆっくりとお茶を飲み干し、空になったカップを置こうとして、一瞬動きを止める。
ソーサーは手に持ったまま、カップだけをテーブルに。
『質問だ、ソウスケ。これは何だ』
手に持ったソーサーを揺らす。
「ソーサーです」
『うむ。では次の質問だ。これは何だ』
手に持ったソーサーを裏表逆にして、また揺らす。
「──ソーサーです」
『うむ。そうだな、つまりはそういうことだ。このソーサーが信仰だ』
えーっと。
つまり。
違いは表か裏かということで。
「貴方を信仰している魔族は、そもそも邪教と思っていない?」
『正解』
闇の女神が楽しそうに微笑んだ。教師として満足できる答えだったらしい。
『ついでに言うと、魔族の間では光の女神信仰こそが邪教とよばれているんだね、これが』
闇の女神は肩をすくめ、
『私達としては、なるべく大勢で仲良くして欲しいんですけどね』
光の女神は困ったように小首をかしげた。
『まあ、魔族と人類といった括りはあまりにも大雑把だしね。それぞれの括りの中でも種族や言葉や文化が違い、それが争いの火種になる事も多い』
「こっちの世界も、色々と大変なんですね」
異世界には異世界なりの込み入った事情がある。
困っちゃうね。
「女神様、あなた方に質問があります」
『どうぞ』
光の女神は手振りで続きを促し、
『言ってみなよ』
闇の女神は頷く。
「両属性に適正を持つ者が、両宗派から異端扱いされないためには、どうすれば」
これ肝心。
自分にそのつもりがなくても、周りはそう見てくれないかもしれないからね。
『まず、宗派だけを判定する魔法やスキルはありません』
『信仰を示すものは、各宗派のシンボルを記した何らかの道具や装飾品と、本人の自己申告だけ』
「夢がどうとか、啓示がどうとか、そちら方面は」
『黙っていれば分かりません』
『個人に祝福を授ける事もあるけど、それは祈りに合わせて行うからね、特定の場所で特定の作法で祈らなければ大丈夫』
おっと、何やら聞き逃してはいけない雰囲気の説明が。
「今こうしている間も、私の肉体は孤児院の聖堂で光の女神に祈りを捧げていますが」
『大丈夫、それを見ている魔族は居ません』
『相棒の彼女に関しては、邪教に興味を示さなければ安全じゃないかな』
ふむふむ。
「あとは、──闇系統の魔法──の扱いですが」
『適正があるだけで罪に問う法は、どの国にもありません。今の所は』
今の所、っていうのは不安要素かな。警戒を続ける必要がありそうだ。
『人を傷つけるものでなければ、行使しても異端扱いされない事が多いよ。たとえば、眠りの魔法や麻酔の魔法は、医療関係者ならよく使っている』
「眠りの雲、みたいな有名所の魔法も闇属性ですか?」
『そうだね。適正を持つ魔法使いなら積極的に使っているようだし、それだけで問題になる事はないようだ』
たとえ闇属性であっても、適正や行使は目的の正しさを見る、という事なのかな。
『ただ、闇の魔法にはそれなりに攻撃的なものもあるので、それは習得しても使わない方が良いだろうね』
「わかりました。十分に注意します」
そうして、少しの間、お茶を楽しむ事となった。
『さて』
闇の女神が伸びをして、
『そろそろ私達も仕事に戻りますね』
光の女神が立ち上がった。
合わせて俺も席を立つ。
「光の女神様、闇の女神様、本日は色々とありがとうございました。名残惜しくはありますが」
紅茶とかね。
めっちゃ美味しい紅茶とかね。
『ああ、これからも元気でな』
『月並みですが、
「ははは、トイレとかなるべく勘弁して下さいね」
いやホント、最低限のプライバシーって大事だよね。
「それでは。今後とも、よろしくお願いします、お二方」
光の女神は、慈愛に満ちた笑みで俺の言葉に答えた。
闇の女神は、一瞬だけ意外そうな顔をした後、やはり優しい笑みを浮かべた。
笑顔が似ているあたり、やはり姉妹なのだなあ。
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