11 『女神様ですよ~』


 何とかカノンさんの詮索をしのいでいる内に、孤児院に到着した。


「ううむ、これは」


 ボロい。


 建物は申し訳程度に塀に囲まれているが、全体的に薄汚れていたり、そこかしこに大きなヒビが目立ったりしている。


「カノンさん、ここで間違い無いですか」


「そのはず」


 カノンさんの声や表情も明るくない。


「あちらの建物に、光の女神のシンボルが見えます。とりあえず礼拝だけでも済ませますか」


 示す先の建物は、入り口の上に★と●を組み合わせた印があった。

 星の形と太陽の形を合わせて光を象徴しているのだろうか。


「……おじゃましまーす」


 入ってみると、古ぼけた長椅子が並べられ、奥には祭壇らしきものと大きな石像が見えた。


「ここが──神殿」


 神殿というより、地球で言う教会や礼拝堂に近いものに感じる。


 無人の建物を奥へ、石像へと歩み寄り、見上げる。


 確かに、光の女神様の石像だ。

 一度死んだ時に転生やチート能力について話した時に見た、女神姉妹の光の方だ。


 石像は精巧に作られている。

 まるで、実際に女神様を見たことがある人が作ったかのように。


 まるで、ではなく、本当に女神様を見たままを彫刻しているのかもしれない。

 神託を授かった英雄の中に、芸術的な素養があった人が居たのだろうか。


「カノンさん、こちらの国で神様に祈る作法を教えてもらえますか」


「わかりました、ミナトさん。」


 カノンさんが片膝をついた。


 次に、両手を組んで、頭を垂れた。


 見よう見まねで同じポーズをとる。


「えーと、それでは」


 てんにまします、われらのかみさまほとけさま。


 あーめん、はれるや、ぴーなつばたー。



 ◆ ◆ ◆



『は~い、女神様ですよ~』


 気が付いたら、真っ白い部屋にいた。


 目の前に居るのは、輝く金髪の白い美女。


 さっき石像でその姿を見た、光の女神様だった。


「えっと、数日ぶりです、女神様」


『はい、ソウスケさん』


 最初に会った時より、若干テンションが高い。


「それで、今日はどういった御用でしょう。っていうか、一般人をこんな気軽に呼んだりしていいんですか」


 うっかり勇者扱いされたりすると困る。


『あらあら、一般人だなんて謙遜を~、たとえ偶然でも、地球でなされた事は立派な偉業なのですよ?』


「世界のバグとかいうアレ、そんな大事だったんですか」


『正直な所、地球のシステムの事なので何とも。しかし、些細な事に見えたとしても、そういう綻びを放置すれば、いずれ大事になっていくものです』


 何かを思い出すように遠い目をする女神様。


「以前にも何かあったんですか、地球で」


『そうですねぇ~。地球さんが前に大変そうにしていた時は。“いーいこーるえむしーじじょう”がどうとか』


「ブフォ!?」


 原子力のやつじゃないですかー!


 核爆弾のやつじゃないですかー!


 何してくれやがるんですか、地球の神!!


『おや、ご存知で』


「めっちゃヤバいやつです」


 デバッグ済みであれかよ!


 デバッグ前はどんなヤバい代物だったんだよ!!


 いやでも、デバッグが間に合ったのは本当に良かった。

 自分の世代が来る前に地球が終わってたかもだしな。


『あらあら』


 頬に手を当て、困ったように微笑む女神様。


 多少わざとらしくても、見目が整ってる人がやると絵になるなあ。


 ともあれ。


「そういえば、加護をありがとうございます。それに、転生先を人里近くにして下さって」


 女神様のお膳立て、どれか一つが欠けても、異世界ライフは最初っからハードモードだったと思う。


『礼には及びません。それは、あなたが受け取るべき正統な報酬なのです。ところで』


「はい」


『ヒーローっぽく魔法使いの女の子を助けた時、かっこよかったですよ~』


「見てたの!?」


『それはもう、ソウスケさんの行く末が気になって、ずっと見てました』


「おまいがー!(oh, my god!)」


 プライバシーが死んでる!


『はい、神様ですよ~』


「何してくれやがるんですかー!?」


『もしかして、ご迷惑でしたか?』


「見守ってくれるのはありがたいですけど、ずっと、というのはやりすぎだと思います」


 寝起きやトイレとかアレとかの時はご遠慮願いたい。


『え~』


「えー、じゃありません!」


『そんな~。多忙な神様業務の中、数少ない楽しみですのに~』


 多忙、と言われると辛い。


 勤め人だった頃の苦いあれこれがフラッシュバックする。


 数少ない楽しみ、と言われるのも辛い。


 日々のささやかな楽しみが、明日への活力となるのだ。


 ううむ。


 どうしたものか。


「こうしましょう。風呂やトイレ、あるいはそれに並ぶレベルのプライベートな場面は──なるべく──覗かないこと。どうです?」


 なるべく、か。自分もまだまだ甘い。


『わかりました、今後はそれで』


 暫定的にではあるが、最低限のプライバシーは確保できた。


『では、今の条件は他の女神にも伝えておきますね~』


 ちょっと待って。


「他の女神様も覗いてるのー!?」


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