09 冒険者図鑑、実装
ム"イ"ー"ッ ム"イ"ー"ッ
三日目の朝も、スマホの振動音で目が覚めた。
というか、スマホは確かに寝る前にマジックバッグにしまっておいたんだけど。
画面の電池表示が全く減らないし、やっぱり見た目がスマホなだけの謎の物体だなこれ。
> From: 光の女神
まあ、神様からメールが来る時点で、まっとうなスマホではありえないんだけどね。
> From: 光の女神
> Subject: 異世界ログインボーナス2
>
> ソウスケ・ミナトさま
>
> 二日目も無事に終えられたようで何よりです。
> このスマホをあまり活用されていないようなので、ちょっとした機能を追加しました。
>
> 『冒険者図鑑』
>
> です。
> 見聞きした情報が自動的に記録されていきます。
> 『解析眼』で詳細な情報を得ると、より充実していくでしょう。
>
> 今日も良い日でありますように。
> P.S. 特に困った事がなくても、光の女神神殿に来てくださって良いんですよ?
…………。
神様、
さびしがりやさんか。
神様のキャラに関しては判断を保留するとして、ログインボーナスを確認しよう。
見慣れないアイコンが一つ増えている。
辞書のように古めかしい分厚い本のアイコン、これが例の図鑑とやらだろう。
「たしたし、っとな」
うむ。これだ。
【冒険者図鑑】
→地図
→生物
→アイテム
→魔法
→人物
→■■■■
百科事典やwikiめいた印象を受ける索引が表示された。
試しに魔法をタップしてみる。
→魔法
→火
→水
→風
→土
─■
─■
→無
─■■■■
……ロックされている項目が多い
上ふたつは光、闇、だとして、無属性の下の■■■■って何だろう。どこかで一度見かけたらアンロックされるかな。
火の魔法を見てみよう。
→火
→着火(生活魔法)
→火矢
→火球
カノンさんが使って見せた魔法だ。
試しに火矢の内容を見る。
<火矢(ファイアボルト)>
初級攻撃魔法
火の矢を打ち込む
威力:小
射程:中
魔力消費:小
「ふむふむ」
一目見ただけでこの情報量。
本格的に教えてもらえれば、もっと詳しい事がわかりそうだ。
見て盗め、か。
何か違う気はする。
「……うむ?」
ところで、無属性の魔法って何さ。
カノンさんは火属性と生活魔法して使ってなかったはずだが。
→無
→鑑定
そういえばカノンさんのお師匠様に鑑定されてたんだった。
どこまで読めたんだろうね?
図鑑さん図鑑さーん。
<鑑定>
補助魔法
対象の情報を得る。得られる情報量は魔法の習熟度、消費魔力、相手の抵抗力によって増減する。
射程:小~中
消費魔力:微小~極大
ギルド長の腕前で全力鑑定したらどの程度のものが見えるのか気になる。
カノンさん経由でそれとなく確認できないものか。
これも今後の課題にしよう。
朝食を食べようと思ったけど、その前にちょっとだけ内職をしよう。
回収したスライムのコアの再生と、魔力の充填だ。
◆ ◆ ◆
「今日もスライム討伐ですね」
冒険者ギルドの受付さんは何人もいるはずだけど、何故かいつも同じ人と話をすることになる。
まだ何日も利用していないのだから、いつも、と断言するにはまだ早いかもしれないけれど。
「はい、それでお願いします」
「正直、ギルド加入したての新人さんには荷が重いかと思ったんですけどね」
おっと初耳。
「実際、新人さんの死亡率2大原因って無謀な行動とスライムですし」
おいおい!?
「加入料がスライムのコアだったので、まあ。ゴブリンの群れを狙わせるよりは安全かな、と判断したのは間違っていなかったようです」
あ、そゆこと。
「何か気を使わせてしまったみたいで、すいません」
受付さんは出来る受付さんだった。
「謝る必要はありませんよ、組合員の生存率を高める工夫も、私達の仕事の内です」
クールだ。できる印象が強まった。
しかし、謝らなくてもいいと言われても何かこう、居心地が悪い。
どうしようか。
そうだ。
「では──心配りに感謝します。お礼はいずれ、何らかの形で」
はたして。
受付さんは、ほんのわずかに、しかし、確かに、笑った。
「お礼は……この先三ヶ月、無事に生き延びる事でお願いしますね」
要求は、やたら具体的かつ実務的だった。
──っていうか新人冒険者の生存率そんなに低いのかよ!!
ギルドを出た所で、
「やあ、仮弟子。これから狩りなんてどうです」
カノンさんからデートのお誘いを受けた。
デートというには殺伐な内容ではあるが。
「いいですね、カノンさん」
「では行きましょう」
「行きましょう」
一狩り行く事になった。
◆ ◆ ◆
スライムは型にハメさえすれば割と安全に狩れるのでお得なのである。
挑発、回避、コア破壊。これを繰り返すだけ。
回避に全神経を集中し万全に行えば、後はもう煮るなり焼くなり突き殺すなり。
副収入となるコアも、修復方法が見つかったので遠慮なく全力で破壊できる。
「改めて思うんですが、その眼、本当に便利ですね」
カノンさんが言う。
聞く所によると、スライムの攻撃の前兆は肉眼では確認できないらしい。
通常の冒険者の場合は予備動作が見えないため、初動が遅れてしまうのだとか。
では、自分は何故、攻撃の予兆が見えるのか。
それは、自分が見ているのが、実は魔力の流れだった、という事になる。
実際にスライムを解析眼でよくよく見ると、攻撃時だけではなく移動時にも、
(こっちにいきたいなー、いこういこう)
とでも言いそうに魔力の流れが見えるのである。
攻撃時には魔力の流れが強くなるので、それを無意識に見ていた事になる。
「いやいや、スライムが魔法系の生物ということで助かってますよ」
そう言いつながらも挑発、回避、コア破壊。
挑発、回避、コア破壊。
挑発、回避、コア破壊。
一緒に狩るということで付いて来たカノンさんは、すっかり暇を持て余している。
1対1なら問題なく狩れてしまうのが、ある意味問題なのだろう。
今は、何やら分厚い本を読んでいる。
いわゆる魔導書、というやつだろうか。
「よし」
何に納得したのか、その本を閉じて荷物にしまった。
「『探知』……ミナトさん、あちらの方にもスライムが数匹いますね」
「おお、索敵魔法ですか、便利ですね」
見渡す限りの草原は一見すると何もいないように見えるが、実はそこらに危険が潜んでいるらしい。
「魔力が余っていたので、使ったことのない魔法に挑戦してみました」
人のことをとやかく言う割に、本人もかなり天才なのではないだろうか、と思う。
「スライム相手だと魔力感知系の魔法やスキルはどれも有効だけど、他の生き物だとどうなんだろう」
「では、次はゴブリンでも狩ってみますか?」
こぼれた独り言が思ったより大きな声だったのか、カノンさんが返事をしてくれた。
「ゴブリン、ですかー」
ゴブリン、いるんだ。
まあ、エルフドワーフ獣人と、ファンタジー世界のお約束を押さえているこの世界。
いないわけがないよな、ゴブリン。
「ゴブリン、自分みたいな初心者だと厄介なのでは?」
知性のある生き物は群れる。
群れとは数で、数は力だ。
もし自分が弱くても数で優れば勝てるし、つまりそれは、相手側にとっても同じ事。
「あなたのような初心者が居るか、と言いたい所ですが。……剣の扱いは我流ですか、仮弟子よ」
「そうです、先生」
地球で日本人をやってた頃は剣道の授業も少しは受けたけど、それですらオッサンになってからは縁の無い技能となった。
「では、数日、冒険者ギルドのお世話になりますか」
「ギルドに?」
「ええ、初心者向けに格安で基礎訓練を実施していたはずです」
「おお」
「扱う武器によって別々の指導もするのだとか」
「おおお」
かなり良い話に聞こえるぞ。
今日の依頼達成報告のついでに、詳しい内容を確認しておくかな。
というか。
ゴブリン、か。
俺は──ヒトのカタチに似た生き物を──殺せるのだろうか。
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