08 生活魔法の復習とスライムコアの研究


 魔術士ギルドを出た所で、カノンさんとそのお師匠さんと別れた。


 手には生活魔法四点セット。

 ラーウォック氏からの贈り物だ。


 曰く、弟子を助けてくれてありがとう、と。

 これからも弟子をよろしく、とも。


 これから。


 さて、これからどうしようか。


 ちょっと早いけど、宿に戻ろうか。

 魔術士ギルドで教わった魔法に関する訓練をしようと思ったけど、失敗すれば気絶する可能性もある。

 安全な場所でじっくり腰を据えてやりたいね。



 ◆ ◆ ◆



 と、いうわけで、宿屋である。


 ベッドに腰掛け、練習用の道具を取り出す

 生活魔法四点セット、ロウソク数本および台、小さ目の水瓶、砂が一山。


「只今より! 訓練を開始する!!」


 自分で自分に気合を入れる。


 まずは火属性、着火のおさらいと応用から始めることにしよう。

 ロウソクを、目の前、剣の間合いの一番外、部屋の隅、と距離が違う三箇所に置いた。


着火ティンダー


 まずは杖の先。これは良し。


「着火」


 次に、ロウソクの先を杖で差すと、杖の先ではなくロウソクに火が灯った。


 予想していた通り。わざわざ杖から火を移す必要が無い。

 こういう細かい所まで気が配られている道具は良い道具だ。使っていて気持ちが良い。


 さて。問題は次だ。


「着火…おお」


 杖を振り下ろした先、剣の間合いギリギリに置かれたロウソクに火が灯る。

 生活魔法、思ったより射程が長いね。


 では、さらに遠い目標では?


「着火……駄目か」


 部屋の隅のロウソクに反応なし。杖の先に火が。


「よし、じゃあ次は風だ」


 杖を持ち替え、教わった呪文を口にする。


微風ブリーズ


 締め切った部屋の中にそよ風が起き、剣の間合いのロウソクが消えた。

 風属性もいける。


「もいっちょ微風」


 部屋の隅のロウソクを指すと、台座ごとカタカタと音を立てた。

 微風の最大射程距離に関しては、屋外で調べ直す必要がある、と心にメモ。


 次は、水を出す生活魔法だ。


 眼の前に水瓶を置き、待てよと思い、素焼きのコップも用意した。


水作成クリエイトウォーター


 杖の先からチョロチョロを水が注がれていく。


 うむ、シュールだ。


 火属性や風属性は、チャッカマ●やウチワがあるから何となく納得していたけど、水属性は違う。

 明らかに容積が足りてない杖から次々と水が出てくる違和感がすごい。


 違和感を消すべく、何度か水出しの練習をする。

 コップに出しては瓶に入れ、出しては入れ。


 ともかく、綺麗な水の確保がかなり低コストで行えるのは便利だ。

 遠出をする時の生命線が確保できる。


「最後は土……か」


 床に布を敷き、その上に砂を一山盛る。


「えーと、確か…そうだ『煉瓦作成クリエイトブリック』」


 砂の山、その一部が形を変え、レンガになった。


「ううむ」


 土属性の場合は材料が必要になるけど、水属性は不要なのは何故だろう。

 いや、水の場合は空気中の水分から水を作っている可能性もあるか。


 ……もしそうだとすると、砂漠で水が出せないとかいうオチが待ってそうだけど大丈夫かな。

 水の生活魔法は乾燥した気候でどれだけ有効か、そのうち確認しておくべきだろう。


 一通り杖の効果を試した後は、杖なしで同じ事を繰り返した。


 着火でロウソクを丸焼けにしてしまったり。


 水作成でコップから溢れさせてしまったり(水瓶の上で練習していて良かった)。


 風魔法では逆にロウソクの火を消せないくらい弱い風しか出せなかったり。


 土属性に関しては、デコボコがひどい不格好なレンガしかつくれなかったり。


 生活魔法セットの便利さを知った。

 杖セット偉大、まじ偉大。



 ◆ ◆ ◆



 スライムのコア。

 これも、魔法の道具になるらしい。


 カノンさんのお師匠、ラーウォック氏によると、魔力をある程度の期間貯めておける、との事。

 その他にも色々使えるような事をそれとなく言っていたので、面白そうな素材だ。


「どれどれ解析ー」


 ぴぴぴっとな。


<スライムのコア(半分)>


 うん知ってる。

 よくよく目を凝らすと、うっすらと魔力の光が視える。


 アイテムバッグから、換金していなかったコアをいくつか取り出して、それも解析する。


「……これは」


 魔力の光の色が、それぞれ異なっているように思える。


 検証するために、アイテムバッグから持ってるコアを全部取り出す。

 割れたコアを、似たような色でグループ分けする。


 改めて、魔力の光をよく見る。

 同じ色に視える組み合わせを手に、断面を合わせてみる。


「ピッタリだ」


 とはいえ、これが何の役に立つのかは今ひとつわからない。

 どうしたものか。


 とりあえず、魔力の充電を試してみることにする。

 充電……充魔力?


「チャージ!」


 掛け声は気分。

 手の中にあるコアの欠片を中心に無色の魔力を回すと、奇妙な感覚があった。

 紙が水を吸って膨らむような、砂地に降った雨が砂の色を変えるような。


 手を開くと無色の魔力はどこへやら、かわりに、スライムのコアの魔力の光が強くなっていた。

 チャージ成功である。


 無色の魔力を吸った割に、コアそのものの魔力光は色が変わっていないように見える。

 では、他の魔力ではどうか。


 色々試してみた結果、属性付きの魔力には相性がありらしいと分かってきた。


 青っぽい(つまり水属性)コアに火属性で魔力を貯めようとしたら、同じ量で水属性だった場合と比べて倍以上の量が必要になる。

 つまり、基本的には無色の魔力でチャージするのが無難だということになる。


 ちょっと待てよ。


「同じ色の魔力なら?」


 試してみようか。

 コアの魔力光は紫色だ。

 絵の具で紫色を作る場合、赤と青を混ぜる。


「人差し指で火魔力、親指で水魔力」


 スライムコアを、その二本の指で挟む。

 火と水が合わさり最強に見える。


「成功だ」


 しかも、効率がすごく良い。

 無色の魔力と比較しても倍以上の魔力が蓄積されていく。


 このあたりのノウハウに関して、魔術士ギルドの人達はどこまで知っているのだろう。

 今度、あの御老体に会った時にでもそれとなく聞いてみよう。


 ふと、コアの破片のもう片方が見えた。

 思い付きは何でも試してみるべきか。


 右手の半分コアに火の魔力。

 左手の半分コアに水の魔力。

 断面をピタリと合わせ、強目に魔力を込める。


 ゆっくりと、つなぎ目、というか亀裂が消えていく。


 くっついた。


 完全な球体の、スライムのコアが復元された。


「…っしゃー!」


 思わずガッツポーズ。


 魔術ギルドに売っていた無傷のスライムコアの価格を思い出す。

 この方法で無傷コアを量産して売ったら、金策が大幅に前進できるかもしれない。


 夢の異世界スローライフに一歩近付いたかもね!


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