05 魔法とは力 魔法とはパワー
冒険者として登録を終えた翌日。
ム"イ"ー"ッ ム"イ"ー"ッ
スマホの振動で目が覚めた。
> From: 光の女神
> Subject: 異世界ログインボーナス
>
> ソウスケ・ミナトさま
>
> 異世界での初日を無事に終えられたようで何よりです。
> ささやかですが、記念の品を用意しました。
> 活用してくれると嬉しいです。
>
> P.S. 何か困った事があれば、その街の光の女神神殿を頼るのも良いでしょう
>
> [プレゼント: 初心者用ポーションセット]
……女神様、割と甘やかすの好きですね?
これでチート能力もらう時に自重しなかったら、一体どうなってたんだろう。
ちょっと怖い。
「どれ、ぽちっとな」
スマホの宝箱アイコンをタップすると、ベッドの上にポーションがズラリと並んだ。
見た目は筒状のガラスの容器に入った色付きの液体だ。
赤いものが10個、青いのが5個、緑色のが3個。
試しに、赤いポーションに解析眼を使用。
<初級HPポーション>
おお、HPとかステータスのある世界なんだ。
解析眼を使いこなせるようになれば、自分にも見えてくるのかな。
続いて、青と緑のポーションもそれぞれ解析。
<初級MPポーション>
<初級病毒ポーション>
青がMP、緑が病気や毒に効く……ちょっとした万能薬みたいなものだろうか。
それぞれ1本ずつを、すぐに使えるように革鎧のベルトのスリットに差し込む。
このスリットは本来、投げナイフを入れておく場所なのかな。
いずれ、ちゃんとした入れ物を用意してウッカリ割らないように対策をしなければ。
鎧を出したついでに、装備も解析にかける。
(解析眼よ、ちょっと詳しく数値を見せてくれー)
<ショートソード(並)>
→<損耗:94/100>
<ソフトレザーアーマー(並)>
→<損耗:99/100)>
剣は思ったより長く使えそうだし、鎧はちょっと焦がした時のダメージだけだな。
当面は問題なし。
さて、今日はどうしようか。
①宿でゴロゴロだらだら怠惰に過ごす
②クエストをこなす
③生活用品を購入する
◆ ◆ ◆
結論としては、午前にクエスト午後は買い物という②と③のハイブリッドな一日を送ると決めた。
ギルドでスライム討伐クエストを受注すると、東門から街を出て、昨日もスライムを狩った場所を目指す。
今日も良い天気だ。
昨日、一番スライムが密集していた場所に近付くと、
ズドムッ──ゴオオォ
爆発音が聞こえ、火柱が見えた。
反射的に地面に身を伏せる。
なんだなんだ。
何が起きてる。
潜伏の基本は
少し進むと、誰かが走る足音が聞こえてくる。
音のする方向には、多数のスライムと一人分の人影が見えた。
縁に黒く刺繍がされている灰色のローブ。
身長と同じ程度の大きさの杖の先に、赤い大粒の宝石。
全体的に細目のシルエット。
どう見ても魔法使い的なサムシングだった。
多勢に無勢かと思ったものの、魔法使いは草原を上手く駆け回り、スライムがある程度密集したら、
「
ズドムッ
まとめて吹き飛ばしている。
魔法っていいな。強い、便利、俺も欲しい。
正直な所、加勢の必要が感じない。
その上、軽率に手出しをすると、せっかくまとめたスライムが散ってしまったりしそう。
最悪の場合は魔法の巻き添えを食らう可能性すらあるので、少し様子を見ることにした。
◆ ◆ ◆
……。
…………。
見守ること数分、3回目か4回目の火球の後で、魔法使いの動きが明らかに鈍くなった。
いわゆる魔力切れの状態だろうか。
それでも、
「……
火球が取りこぼした最後の一匹を、魔法使いが仕留めた。
完勝だった。
(心配してコソコソ見守ってたけど、完全に余計なお世話だった!)
気恥ずかしさから黙って退散しようと思ったその時、視界の端に何か見えた気がした。
(困った時の解析眼、発動)
気になる方を重点的に解析すると。
<下級スライム>
→<スキル『擬態』使用中>
地面の色と質感に同化したスライムがいた。
魔法使いからは背後で、気付いた素振りは無い。
スライムが、魔法使いに対して身構えた気配がした。
何度も目にした、攻撃の前兆だ。
まずい。
これはまずい。
魔法使いが完全に不意打ちされる。
迷ったのは一瞬、スライム目掛けて走り出す。
間に合え!
ついでに、魔法使いさんは誤爆しないで!!
無我夢中で、剣を突き出す。
全力で伸ばした剣先に、コアを貫いたお馴染みの手応えを感じた。
「セーフ!」
「!?」
魔法使いが振り返りざまに杖を振るいかけたので、
「ちょちょちょちょチョット待って、ワタシ敵じゃない、ノーエネミーオーケー!?」
剣から手を放し、両手を上げた。
降参とか害意が無いって事、異世界でも両手を上げたポーズで通用するといいな!
魔法の杖の宝石が禍々しく輝き、
「……
しかし何も起きず、
「……」
魔法使いの体が、大きく傾いた。
「おっと」
倒れかけた魔法使いに駆け寄り、その体をやんわりと支える。
や わ ら か い 。
フードの下に見えたのは、女の子の顔だった。
やわらかかったのも納得だ。
……セクハラで訴えるのはカンベンな!
◆ ◆ ◆
「さて、どうしたものか」
俺のカバンを枕に、地面に寝かせた魔法使いの少女。
放っておくと、最寄りのスライムの餌食になるし、何とか目覚めていただかないと。
こういう場合の定番として、気を失った原因は魔力切れではないだろうか。
今朝、女神様からもらったMPポーションの事を思い出す。
青いポーションを手に取る。
<初級MPポーション>
→<飲むと魔力を少し回復する>
飲み薬だった。
ですよねー。
ここで問題が一つ。
魔法使いは気絶している。
どうやって飲ませよう。
①口をこじ開け流し込む
②鼻をつまんで口が開いた所を流し込む
③口移し
とりあえず③は却下だ。どこぞのお嬢様とも知れぬ女の子に軽率なことをしたら社会的に死ぬ。
こっちの世界の法によっては最悪、物理的に死ぬ。
「ん……っ」
あれこれ悩んでるうちに、少女が気が付いた。
勢いよく上体を起こし、
「痛っ……」
頭を押さえる。
魔力切れは頭痛も引き起こすようだ。酸欠に似ている。
魔法使いの少女は、頭痛をこらえ、そばに置いてあった杖に手を伸ばした。
「えーと、気絶する前にも言いましたけど、私はあなたの敵ではありませんよ」
誤解を解かないと、気絶上等で最大火力の魔法を使いかねない勢いで怖い。
っていうかこの距離でブッパしたらあなたも死にますよー。
「とりあえず、MPポーションどうぞ。一言話すたびに気絶されても困りますので」
少女は、ポーションを受け取らない。
警戒されてる。めっちゃ警戒されてる。
ですよねー。
知らない人に急に親切にされても裏があるんじゃないかとか思いますよねー。
とはいえ、頭痛だけでも治してもらわないと、冷静な会話ができないので困る。
「では、こうしましょう」
もう一本、MPポーションを取り出す。
「ここに2本のMPポーションがあります。片方は私が毒味しますので、私に毒味させたい方をあなたが選んでください」
これである程度信頼してくれないかな。
駄目かな。
「……」
少女が、左手に持った方を指差した。先に差し出した方のポーションだ。
「では、そういう事で」
左手のポーションを一息に飲み干す。
正直、すごく不味い。昔、罰ゲームで飲まされた薬草茶に匹敵、あるいはそれ以上に不味い。
そして、右手のポーションを自分と少女の間に置き、その後、十分に距離を取る。
これでどうだろう。
だんだん野生動物を相手にしているような気分になってきた。
気まずい沈黙が二人の間に漂っている。
かくして、少女はポーションを手にして、それを飲み、
「話を、聞きましょう」
言葉を交わす準備ができたのだった。
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