04 冒険者になろう


 親切なおじいさんの荷馬車──荷鳥竜車に乗せてもらって、最寄りの街まで来た。


 街を囲う石壁と道が交わる所に、大きな門がある。

 解析眼を起動すると、


<最寄りの街(仮称)東門>


 と表示された。

 かなりざっくりした表示だ。


 門を通る時、門番をしている衛兵の人に通行料を納めるついでに街の名前を聞く。

 クロスロード、という名前だという。東西南北の交通の要であることが、その由来なのだとか。


 通った門を振り返ってもう一度見ると、今度は


<通商都市『クロスロード』東門>


 と表示された。

 固有の名前に関しては、確定した情報が手に入るまでは曖昧に表示されるものらしい。

 これはこれで、図鑑を自作するような楽しみがある。


 クロスロードの街で最初にする事は、冒険者登録だ。

 これは、荷運びのおじいさんと門番の人の両方からアドバイスされたので、間違いなく最優先で行うべき。

 何しろ自分は、この世界における身分証明書にあたる物を、何一つ持ち合わせていないからね。

 そういったものがないと、本来なら街の出入りすら怪しいらしい。

 今回はたまたま衛兵の人と荷運びの老人が顔見知りだった上に、俺も老人からそれなりに信頼されていた(らしい)ことが幸運だった。


 コネが大事なのは異世界でも同じかー。

 世知辛い事にならないといいな。


 ともあれ、冒険者証さえあれば、門の通行も自由になるし、他の街に行く時も最低限の身分の保証になるということで。

 いざゆかん、冒険者ギルドへ。



 ◆ ◆ ◆



「こんちはー」


 内心ガッチガチに緊張して、ギルドの建物に入る。


 重過ぎず、軽過ぎない挨拶を選んだ。

 この街のこのギルドの気風がいまいちわかってないからね!


 幸い、特に悪目立ちする程ではないようだ。

 何人か視線を向けるものの、雑談の喧騒が途切れるという事も無い。

 西部劇の酒場入場シーンみたいに静まり返ったらどうしよう、とか最悪の可能性まで考えていたので一安心。


 見渡すと、右手の壁に、いくつか同じ形をしたカウンターがある。

 そこが受付であるのは十中八九間違いないだろう。


「すいません、冒険者登録したいのですが、こちらで大丈夫でしょうか」


 カウンターの向こうの女性に声をかける。


「はい、大丈夫ですよ」


 失礼にならない程度の、物静かな対応。実直な仕事人といった印象だ。


「では、よろしくお願いします」


 軽く頭を下げたら、何故か目を丸くされた。

 しまった。異世界の礼儀作法から外れた行動だったのかな。

 しかし追求は無いのでセーフ、としておく。


「この板に手を当て、名乗って下さい」


 謎の板が差し出される。週刊誌サイズで、中央に手形の模様が描かれている。

 手形にそっと手を置きつつ、解析眼を起動。


<鑑定板(ギルド登録用)>


 おお、その手のマジックアイテムなのか。


「えーと、名はソウスケ、苗字はミナト、です」


 名乗った直後、鑑定板の全体ががほんのりと光った。


「ミナトさん、ですか。耳慣れない響きですが、どこか遠方の方ですか? 苗字があるということは貴族の方で?」


「そういうわけでは。出身地ではみんな苗字もある風習なだけです。遠方というのは確かですね」


 何しろ地球はここから見たらまさに異世界なわけだし。遠方極まれリ。


 そうこうしていると、受付さんの脇におかれた何かの器具が動き始め、ひとりでに文字を書き始めた。


<自動筆記(鑑定板)>


 どうやら、鑑定板の結果を書き出すプリンターめいたアイテムらしい。

 見た目はぶら下がったペンと紙を置く台だけの組み合わせなので、オカルトめいた印象が強い。

 こっくりさんとかヴィジャ盤とか、その手の物か。


「はい、手を放して大丈夫ですよ。さて……。!?」


 鑑定結果を見ながら何か言いかけた受付さんが急に黙った。

 結果が書かれた紙片と、俺と、その間を何度も往復する視線。


 なに。

 まずい事でも書かれてた?


「ミナトさん、ご自分の事について、どの程度ご存知ですか」


 ある意味、哲学的な質問。

 どこから来て、どこへ行くのか。何のために生きるのか。


「どの程度、といわれましても」


 あまりに曖昧過ぎて。


「そう、ですよね。込み入った話になりますので、奥の方へどうぞ」


 特別扱いは不必要に注目されるので勘弁して欲しいのだけど、ここで素直に従わないと余計に目立つよね。

 ううむ。



 ◆ ◆ ◆



「ミナトさん、あなたには、全属性の魔法適正があります。」


 うん知ってた。


「それは、すごい事なんですか」


 とりあえず、情報収集は必須の事態と見た。


「平均的な人間種の場合、一つも適正が無い方も珍しくありません。二つあれば魔法系職業として将来が明るく、三属性持つ方は国にも数える程、四属性全てに適正がある方は、その」


 超レア、と。


「すごいんですね」


 というか四属性で全て?

 一般的に魔法は火水風土しか存在しない事になっているのかな。

 光とか闇とかの適正は、より慎重に隠しておいたほうが良さそうだ。


「ええ。……ただ、それぞれの属性が反応ギリギリだったので、手放しですごいとも言い切れないのが、その。例えるなら、一般的な一属性魔法使いの才能を各属性で四分割したような、正直な所、初めて見る反応で、どうしたものかと」


「魔法使いとしては、器用貧乏になりそうですか?」


「器用貧乏。そうですね、個人的な印象ですが『全属性を使えるが、使いこなせるかは怪しい』といった所でしょうか」


 それも知ってた。


 女神様も才能マシマシにせず注文通りにしてくれた、という事だね。

 というか、全属性それぞれが平均的な魔法使いの適正があったら、勇者とか賢者とか呼ばれてた可能性もあるのか。

 危ない所だった。

 最低限あればいいと判断した以前の俺、グッジョブ。

 異世界ではスローにライフすると決めたのだ。注目とか名声とかマジ勘弁。


「とりあえず、適正については黙っている方向でいきます。他には何かありますか」


「他には、いわゆるギフトの類の反応がありました。生まれつき、あるいは、ある時から突然、他の人には無い突出した力を得ることがありますが。心当たりは?」


 ギフト。

 加護。

 チート能力。

 心当たりしかない。


「あります。というか、さっきの板でギフトの内容まではわからないのですか?」


「昔はギフトの数や内容まで鑑定していた事もあるそうですが、レアなギフト持ちが『不幸な目に遭う』事が何度かあってからは、有無が分かる程度にしか鑑定してはいけない事になっています」


「あー……」


 才能の囲い込み、独占、利益の追求、過労死。


 嫌な連想をしてしまったけれど、たぶん的外れでは無いんだよなあ。

 もっとエグい事件も起きてそう。


「そういう仕組にしたら、今度は実用性が無いギフトまで一律に反応するので、それはそれで意味があるのか疑問なんですけどね」


「例えば?」


「例えば『予知能力』と聞けば便利そうですが、今夜の食事の味だけが予知できる、といった場合ですね」


 うん、微妙。


「ミナトさんの場合はギフトの内容まで把握している様ですが、その重要性、希少性が実感できるまでは、ギフト持ちである事も伏せておいた方がよいでしょう」


 持ち札は全て伏せてスタートすべき、と。

 油断すると波乱万丈ルートに一直線のようだし、慎重にいこう。



 ◆ ◆ ◆



 そうして、ギルド加入者への説明が一通り終わった。

 カード状の証明書を受け取る。


「色々とありがとうございます。ところで、登録料は物納でも構いませんか?」


「物によります、何で支払うつもりですか?」


 草原で狩ったスライムのコアをいくつか見せる。


「これなら大丈夫です。安定して狩れるのであれば、今後もしばらくはスライム狩りの依頼をこなすのをオススメしておきますね」


「そういえば、最近多いらしいですね、スライム」


 親切なおじいさんも言ってた。

 当分はスライム狩りで基礎体力を上げていこうかな。

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