第5話
[8月7日 小雨
少し体重の減りが大きい。その他変わらず。]
ソファに座らせた君の足もとで、僕は何とかきちんと靴下を履かせようと、さっきから苦労している。
「…そういえば僕、この頃この病気の原因がわかった気がするんだ。」
やっと履かせ終わった右足を感動的にながめる。
「これって、心に隙間ができた時にかかるんじゃないかな…?」
君のあこがれていた、いわゆる『いいおうち』に生まれ、みんなに愛されていたあいつは、まわりの人間が死んでいく度に声高く歌うようになった。
「まるで温室の花みたいだったよ。愛情がなくなると枯れてしまって…。でもそうすると、やっぱり『いいおうち』生まれのはずの僕が、まわりが死んでも何ともないのって、実は僕が温室の中の雑草だったからなのかな。それともまわりの人間なんて、本当は愛してもいなかったのかな。」
左足にも靴下を履かせ終え、少し斜めになってしまった上体を直す。
「でも本当はどうだってよかったんだ…」
力のない君の両手をつかみ、僕の顔を包み込ませてみる。
「あいつが死んだ直後、発病した君が、動けなくなる前に僕を思い出してくれて、こうして介護までさせてくれるんだから。」
そして僕は目を閉じた。
「ほかのことなんて、全然関係ない…」
君の膝に額をあずけた僕に、ハミングが聖歌のようにふりそそいでいた。
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