Bird

青羽根

第1話

開け放してあるガラス戸から、君のハミングが流れ込んでくる。

「いい天気だねぇ。空があんなに高いよ。こんなに遠くまで見渡せるのは、空気が澄んできたからかな。東京もだいぶ車が減っちゃったからねぇ。」

そう言いながら僕は、持ってきたお盆を君のそばのテーブルへ置いた。君の膝掛けが少しずれているのをそっと直す。もう初夏とはいえ、マンションの高層階にあるこのベランダの風は、当たり続けるには少し冷たい。

「ホット・チョコレート、作ってみたんだ。温かくて、甘いから、すぐに栄養になると思うんだ。」

そう言って僕は君の目をのぞき込む。澄み切った君の目は、けれども僕の目に焦点を合わせることは絶対になくて…

「……飲んでくれる、よね…」

僕の声だけが、素通りしていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る