第27話 三国会談
既婚者になってから2カ月後、俺は市長になった。自宅の工事も始まって、完成したらフタバも一緒に暮らせるから楽しみだ。フタバとの同居は高校生以来か。これで毎晩3Pも……ぐふふ。
とまぁ、ピンク色の脳内はさて置き、俺は木造の市役所で市長室を出ると重厚な応接室のソファーに座った。上座なんだが、お客様を迎えるうえでいいのだろうか? まぁ、来賓は2名で、彼らは俺の斜向かいにそれぞれ対面で座るからこれしかないのだが。
そしてやってきた1人目の来賓を市役所の入り口まで出迎えに行ったのは副市長と俺の秘書。応接室で待つ俺の脇にはSPとも言えるような護衛がいる。彼らは正装でいかつい。ツインテールのメイドを呼び戻そうかな。秘書もヤローで今の職場には全く花がないし。
「失礼します」
そう言って副市長と俺の秘書が入室すると、俺は立ち上がってその人物を迎えた。
「初めまして。カケモリ市国市長のトモヒロ・イケワキです」
「お初にお目にかかります。ヤン国王、ジュンイチ・ヤベです」
1人目のお客様は北のヤン国王だ。立派なマントを羽織っている。これが正装なのだろう。
そう、今日は首脳会談だ。終戦後、ずっとソウ国から打診されていた会談である。そしてなぜヤン国の国王が来たのかと言うと、北のヤン国とは開戦の緊張が張りつめているからだ。それ故に無視することができず、三国会談となった。
そのヤン国王は脇に2名の護衛をつけているが、関所を通る時に武器の類は預からせてもらっている。尤も体術だけで相当な手練れだろうが。しっかり守ってね、俺の護衛ちゃん。顔には出さないけど、俺、内心ではビビッてるよ?
この市役所には記者室もあって、そこではこの日、自国の記者が多く鎮座していた。そして更にこの日は、特別に南北両隣国の記者の入国も認めた。彼らはこの後の副市長からの記者会見を待っている。テレビがないアナログ世界なのですべて新聞記者だ。
それから程なくして到着したのは南のソウ国の将軍だ。さすがは好戦的な国と言うだけあって、首脳が将軍を名乗っている。すかさず副市長と秘書がお出迎えに行って、やがて将軍は応接室に入って来た。
「初めまして。カケモリ市国市長のトモヒロ・イケワキで……す――なっ!」
「ソウ国将軍、イチロウ・ハシキです。いかがなさいました?」
「いえ……、よろしくお願いします」
三国の首脳でがっちり握手を交わすと着席した。
俺はソウ国将軍を見て驚いた。そして名前を聞いて確信した。忘れるはずもない、こいつの顔と名前を。
そしてソウ国将軍。彼は間違いなくこの世界で言うところの俺の元上司だ。カケモリ市国だけではなく、やはり隣国の人物も平行しているのか。
彼はヤン国王とは違う軍用のようなマントを羽織っていて、更に甲冑を被っていた。その甲冑は入室すぐに2人の護衛に渡したので顔がわかったわけだ。もちろん武器は護衛とともに関所で預かった。
動揺する俺に構うことなく三国会談は始まった。最初は世間話程度の挨拶から入ったという感じだが、まず将軍は一方的に攻め入ったことを謝罪したらどうだろうか? 尤も本人は、国民に示すための威厳を守らなくてはならないのだろうが。
そして会談は進み、本題に入る。まずはヤン国王から言われた。
「トモヒロ市長、カケモリ市国を開国してください」
予想どおりの要求だ。それを求めるための会談であり、それに対して今までこちらが首を縦に振らないから武力行使を伺わせているのだ。
「私が市長になってから条件付きですが開国の意思は持っております」
「ほう、具体的には?」
「人材交流とそれによる互いの技術発展です」
「貿易はしないのですか?」
「ある程度は考えております。しかし、当国の鉱山区以外を資源開拓する予定はありません。つまり現状の発掘範囲内です」
「はぁ……」
ヤン国王はため息を吐きあからさまな落胆を示す。やはり彼の狙いはカケモリ山の利権。山の全てを資源発掘されては市民が生活する場がなくなってしまう。恐らくヤン国は移民を受け入れる意思は持っているのだろうが、それで原住民の理解は得られない。
そしてもう1人。さっきから鋭い眼光を俺に突き刺し、黙って聞いているソウ国将軍。彼の思惑もまたヤン国王と同じだろう。その将軍が言う。
「開国の意思があるのでしたら即刻防壁を取り除くか、防壁から兵を撤退させてください」
「それはできません」
そんなことをしたらここぞとばかりに武力行使に出て、カケモリ市を占拠するではないか。俺は原住民のことを第一に考えているのに、そんなことに首を縦には触れない。
「そもそも防壁は防衛のためのものです。攻撃さえなければ相手国を傷つけるつもりもありませんし、これからは少しずつ友好国家として関係を築きたいと思っております」
「はっ、戯言を。カケモリ山の利権独占を続けたいだけでしょうに」
当たり前だ。カケモリ山は先祖代々受け継いだ原住民のものだ。資源発掘に限らず、彼らの家や学校や職場があるんだ。渡すわけがない。
「それでも部分開国の意思は示しています」
「それのどこが開国なんですか。そちらに都合のいい話ばかりではないですか」
「お言葉ですが、都合がいいなどとおっしゃられるなら、まずは攻撃を始めたことの謝罪をしてはいかがですか?」
「なっ! 何をバカなことを! こちらの兵が何人死んだと思っているのですか!」
意見が一方的過ぎて話にならない。確かに死傷者の数はソウ国の方が多いかもしれないが、こっちだって死傷者を出した。むしろ人口割合に換算したらこっちの方が多いくらいだし、先制攻撃をしたのはソウ国だ。
「そもそもの話ですが。こちらに戦争の意思は一切なかった。自国を守っただけです」
「くだらん! 何が防衛だ!」
「それでしたらせめて両国とも民主主義国家にしてください」
「民主主義国家だと……!」
途端にソウ国将軍の敵意は増した。ヤン国王もこれには眉を顰めた。
「はい。民主主義国家にしてくれたもっと譲歩した開国をします」
民主主義国家が完璧な国家だとは言わない。どこかに穴はある。ただそれでも好戦的な独裁国家よりは随分マシだ。
しかしソウ国将軍は勢いよく立ち上がり、怒りを露にすると怒鳴った。
「決裂だ! こんな交渉やってられん! 失礼する!」
なんなんだ、こいつは。自分から会談を申し込んでおいて、駄々をこねる子供ではないか。俺の言い分も子供の喧嘩だと言われてしまえば身も蓋もないのだが、先方はこんな高圧的な態度で会談を求めていたのか?
ソウ国将軍は応接室を出て行き、残ったヤン国王が口を開いた。
「私はあのような失礼な態度は取りませんし、先のソウ国との戦争については口を出しません。しかし求めることは同じです。加えて民主主義など受け入れられません。また出直します」
大人な対応を見せてくれたヤン国王だが、交渉自体は決裂の意見を述べた。その意思を残して彼もまた応接室を出て行った。
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